青海かなえ
2024-12-31 17:30:45
1449文字
Public 名的名
 

同業者と話す名取さん

・不気味

 お疲れ様ですお久しぶりですね。ご健勝とご活躍の噂はかねがね。私ですか?見ての通りですよ。この通り、依頼でトチってしまって、怪我をしてしまいました。痛々しいでしょう。……もう俳優一本でいったほうがいいんじゃないか?……はは、心配してくれてるんですか?……え?皮肉ではなく?……ははは、ありがとうございます。心配してくれるなんて優しいですね。

 いやね、最初は簡単な依頼だと思ったんですよ。ほら、あのS県の北にある海辺の田舎町に行けと。その海にいる妖を祓ってほしいという的場一門からの依頼でね。……まあ聞いてくださいよ。それで現地にいってみたら的場さんがいたんです。そう、的場一門の頭首の。頭首自ら出てくるなんて実はとんでもない依頼なのではないかと思いましたね。実際にそうだったんですが。水辺の人食いの妖の生態はご存知ですか?……愚問でした。そうです、小賢しいことに子供をまず狙うんです。そのあとそれを救いにきた親もまとめて食ってしまう。まあ他にも色々あるんですけど、それは後ほど。水難事故が頻発していたみたいで海浜公園周辺が全部閉鎖になるほどだったみたいです。まあこれは全部そこにいた的場さんが教えてくれた内容なんですが。人のいない浜辺を二人で歩きながら、ぽつりぽつりとどうでもいい話をしました。まあ、これは大したことない話なので端折りますね。そうしてぽつりぽつり話ているうちに海から人の腕が伸びてることに気づきました。しかも一本二本ではなく何百本も。恐ろしいでしょう?しかも趣味が悪いことにその妖、食った人間の腕を使っているみたいでね。子供の腕や年老いた男性の腕やまだ年若い女性の腐った腕が一斉に私の足を掴むんです。腕が私の足を掴み海に引きずり込もうとしている中、的場さんが祝詞を唱えてくれたのがかすかに聞こえました。だけど、私はなすすべなく海に引き込まれてしまったんです。息ができなくなってしまった私は、そのまま気を失ってしまいました。

 目を覚ますと、私は海浜公園の長椅子に寝かされていました。海水に濡れた身体は冷えていて身震いしました。的場さんが、私の顔を覗き込んでいました。的場さんは奇妙な表情をしていました。的場さんが私の目を見てなんと言ったと思いますか?……逃げてもいいと言ったんです。私に、辛いなら逃げてもいいと。心底私を哀れんだ顔で。的場はそんなことは言わない。的場がおれに逃げていいなんて言うわけない。できないなら尻尾巻いて逃げろとはいうかもしれない。いるだけなら逃げればいいとも言うかもしれない。ただ、あんな全てを許すように逃げてもいいなんて言うはずない。思わずそのまま持っていた札で祓おうとしました。けれど、視界がぐにゃりと曲がってね。うまく祝詞が唱えられなくてそのまま倒れてしまいました。妖にダメージは与えられたみたいなんですけど、取り逃してしまいました。耳につんざくような妖の悲鳴と、全てを享受する微笑みが脳裏にこびりついて離れない。気色悪い。後から聞いた話なんですけどね、その海辺の妖は親しい人に化けて狙った人間を溺れさせるらしいですよ。また私は妖に騙くらかされてた挙句、取り逃したみたいで。それでこの様です。いやいや恥ずかしい限りですね。

 これでこの話は終わりです。
 はは、そうです。あなたに化けた妖の話ですよ、的場さん。どうです妖が自分に化けて知人を騙した気分は。……気色悪い?はは、そうなんですね。

 それで、あなた私に最初なんと言いましたか?