もちこ
2024-08-01 00:02:38
1768文字
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恋人に甘える唐沢【唐沢】

酔っ払って帰ってきたフラフラの唐沢を介抱。ずっと結婚を迫ってくる。

「もう無理です待てません、早く結婚してください」
「うるさい!黙れ!水飲め!」
「飲ませて

 ソファーに這いつくばる恋人の背中をバシンと一発、強めに叩いて喝を入れる。鍛えられたその身体は残念ながらビクともしなかった。
 二十四時過ぎ。もうそろそろ寝ようかな〜なんて思っていた頃に、彼は何の連絡もなしに合鍵を使って家に乗り込んで来た。今夜は接待でもあったのだろう。スーツ姿の彼は、珍しく酒気を帯びた様子で「泊まります」と言い残し、部屋に上がってすぐソファーに倒れ込んだ。

「も〜!こうなるってわかってるのに飲むから自業自得だよ。ほら、起きて」
「付き合いで無理矢理飲まされたんです労わって」
「言い訳はいいの。水飲んで。シャツも着替えて」

 酔っ払いの戯言は無視。わけ無くクスクス笑ってる彼に水の入ったグラスを手渡し、脱ぎ捨てられたジャケットを回収。服をハンガーにかけてから、着替えを持って戻ってくると彼はシャツの前ボタンを全開にしてボケっと座っていた。

「はい、それ脱いでこれ着て。Yシャツは明日も着る?」
「明日休みなんです」
「そう?なら洗濯しちゃうね」
「はい

 寝巻きに着替えると、彼はもう一度ソファーに倒れた。まったく、自分より体格の大きな男の介抱がとれだけ大変かわかっているのか?唐沢め手のかかる奴だ。呆れながら服を洗濯カゴにぶち込んで、もう一度様子を見に戻る。彼はアルコール耐性がまるでないから、ちょっと心配だ。辛くないだろうか。起こさぬようそろりと近付けば、彼は気配に気付いて私の名を呼んだ。ソファーの手前に屈んで、目線を合わせる。

「大丈夫?」
「ありがとう。世話かけてごめんね」
「別にこれくらいするよ、恋人だし」

 自分で言ったくせに気恥ずかしくなって目を逸らせば、手の甲をするりと撫でられる。

「俺は早く旦那さんになりたいな
「はいはい身体痛くない?ベッドで寝る?」
「ベッドなら一緒に寝てくれます?」
ねぇ、結構元気でしょ」
「お陰様でかなり良くなりました」

 随分簡単そうに起き上がった彼が「行こうか」と手を引いて、私を連れて行く。まったく調子の良い奴め。

「まって、洗濯回さないと」
「明日の朝俺がやるから。ね?」
「も〜……じゃあ頼んだ」

 ラッキー。唐沢は約束を守る男だ。明日の朝はゆっくりできそう。彼はまるで自分の家みたいに襖を開けて、ベッドがある隣の部屋へと踏み込む。

「お先にどうぞ」
「レディーファーストとはやるじゃん」
「壁際ならどんな寝相でもベッドから落ちないからね」
「殴るよ」

 暴言を吐きながら自分のベッドに転がる。壁側に詰めてスペースを空けると、唐沢がそこにすっぽりと入って来た。彼の方に身体を向けたら、薄闇でパチっと目が合う。

「唐沢、今日ご飯なに食べたの?」
「懐石料理ですよ。貴方は?」
「適当ツナパスタと桃缶」
俺もそっちが良かったな」

 物好きめ、と笑ってると、脚の間に彼の長い脚が割り込んで入ってくる。安定感のあるポジションを探して身を捩ると、ベッドがギシっと軋んだ。

「うわぁ大丈夫かな」
「壊れたら新しいの買ってあげますね。今度はもっと大きいやつ。天蓋付きの」
「貴族の家にしか似合わないよ」
「じゃあついでに似合う家も建てようか。お城は庭付き?」
「近所のオモシロスポットになりかねない」

 こんなボロアパートの一万三千円のベッドの上で語るにはデカすぎる夢だ。ツッコミマシンと化した私を宥めるようにぎゅっと抱き寄せた唐沢は、少しお酒の匂いがして熱かった。

「一緒にいられるならいいよ、何処でも

 いつもより砕けた優しい声が、耳元で柔らかく響く。これは、私も同じ想いだ。唐沢と一緒なら、どこでも楽しく暮らせる自信がある。今までもそうだったし、これからもそうだと信じてる。
 伝わってくる体温から眠気が移って、「うん」と短く返すのがやっとだった。「年内に籍入れようね」と付け加えられた余計な一言には、心の中で「はいはい」と返事をした。さらに「無視ですか?」とウザい問い掛けが続く。今度は心の中ですら返事が億劫で、無視すると数秒後に諦めたような「おやすみ」が耳元で聞こえた。