もちこ
2023-07-10 01:03:44
4051文字
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二人の家 【蔵内】

再会した蔵内の家に居候する話。

 社会人一年目。忙しくも充実した日々を送っていたある日、仕事から帰ると自宅アパートが大炎上してる。
 オォと立ち尽くしてると、近くにいたボーダー隊員から『ネイバーによる爆撃を受けた』と説明を受ける。補償の件は後日改めてということになり、早速今夜の寝床問題に直面。給料日前でお金の余裕ないし、実家は遠いしって悩んでたら、さっき説明してくれた隊員の上司が現場に到着したらしく、「仮設の避難所に案内できますよ」と親切に声掛けてくれる。「本当ですか!」パッと顔上げると、目の前にいたのはまさしく高校時代お世話になった同級生。「蔵内だ〜!!」「えっ、まさか」信じられないものを見るように瞬きする彼に「あはは、そのまさかで〜す!久しぶり!」家燃えたことも忘れて握手を求める。
 「相変わらずだな」彼は高校の時より大人びた雰囲気を纏ってるけど、仕方なさそうに眉を下げて握手に応えてくれる表情があの頃と変わってなくて懐かしい。

 「イレギュラーな門で隊員の到着が遅れたとはいえ防げなくてごめん」燃え尽きたアパートを悲しそうに見つめる蔵内。優しい彼に傷付いて欲しくなくて、「家燃えたのは不運だったけど、蔵内に会えたからプラマイゼロってことにするよ」と調子よく笑えば、「本当に変わってないな」と微笑まれる。とりあえずその日は避難所に泊まるけど、リラックスできるような環境ではなくて夜も充分に眠れない。

 次の日、蔵内が避難所に来てくれて、補償についての説明をしてくれてる大切な時に、夜に眠れなかった反動が襲ってくる。「隈ができてるな眠れなかったか?」うとうとしてることに気付かれて、話を中断して心配そうに顔を覗き込まれる。「うんなんか無意識に気を張っちゃって」話の腰折ってごめん、続けて〜と言えば、彼が広げてた資料をファイルに纏めて鞄に仕舞う。え、なんで?と不思議に思ってると、両手の指先をそっと掴まれて、「君さえ良ければ、しばらくうちに来ないか。使ってない部屋があるんだ」冗談でしょって笑って流せないくらい真剣に見つめてくる、蔵内の瞳。
 「もちろん家賃はいらない。その代わり家事は分担になるけどそれでもいいなら」市やボーダーから受けられる補償より断然良い条件出してくる。「どこまで優しいのでも、蔵内がそこまで背負わなくていいよ。もう大人だし、自分でどうにかする」たしかに自分にとってはこれ以上ないくらい良い話だけど、彼の負担になるだろうし断ろうとする。でも、「学生時代、些細なことでも君によく元気付けられてたんだ。今度は俺が君の力になりたい。そんなありきたりな動機じゃ駄目か?」そっと握られていた手に力がこもって、断れない。

 お邪魔しま〜す!って乗り込んだ蔵内の部屋、マンションの外見から察してたけどやっぱり広すぎる。成功したYouTuberはこんなところに住んでるんだろうなってアホなこと考えてる間に部屋の準備が整えられてる。
 空き部屋って言ってたけどクーラー取り付けられてるし、埃ひとつ落ちてないから「この部屋最近まで使ってたでしょ」怪しんで詰めると「ただの書庫だよ」目泳いでる。嘘つくのが永久に下手。
 蔵内の自室を見に行くとやっぱり向こうの部屋にあったであろう本棚や机が無理矢理押し込められてる。「も〜!」「模様替えの途中なだけで」まだ変な嘘ついてる人は無視して、なんとなく本棚に目を向けると高校の卒アルが入ってる。「あ!これ見ていい?」「あぁ、いいよ」許可を得てから手に取れば、ぺらっと間に挟まってた一枚の写真が床に落ちる。なんだろう、と思って拾い上げると、高三の文化祭で蔵内のカメラで撮った自分と蔵内の楽しげなツーショット写真。「おぉ!私いる〜!」懐かしいなぁってまじまじ見てると背後から近付いてきた男に写真と卒アル取り上げられて、「よし、買い物でも行くか」急に舵切ってくる。

 近所の薬局で歯ブラシとか選びながら「まさか蔵内と一緒に住むなんて、人生何あるかわかんないね〜」「本当にあ、そうだ。ヘアオイルも買っておくか」とか、高校時代の自分たちが知ったら驚くような生活感溢れる会話する。成り行きで住むことになっちゃったけど、蔵内には恋人とかいないのかなと気になって聞いてみると、「いるわけないだろ」って困ったふうに笑われる。「いてもおかしくないよ」「君は?」「いるわけない」「あはは、一緒だな」フォローがあまりにも優しい。いつまでもニコニコしてる彼と一緒にいるとこっちまで楽しい気分になる。毎日が修学旅行みたい。

 一緒に暮らすようになってから、三食きっちり食べるようになり、興味無かったドラマも彼と見始めてからは毎週の楽しみになって、一人で暮らしてた時より彩りのある日々。でもやっぱり、いつまでも彼に甘えてるわけにはいかないから、せめて家賃を半分出しますと交渉しても絶対に受け取ってくれない。

 なんやかんやで半年後、前に住んでたアパートの建て直し工事がようやく終わり、楽しい居候生活にも終わりが見えてくる。お世話になった蔵内に何か恩返しをしたいと思い、晩御飯にご馳走を作って“蔵内ありがとうパーティー”をサプライズ決行。仕事から帰ってきた彼を「おかえり〜!」って出迎えると、いつもみたいに「ただいま」って優しく微笑んでくれる。一緒に暮らすようになってから彼の表情バリエーションも増えた気がする。

 ダイニングテーブルに並べられた料理を見て、「今日、なにかあったか?」と驚く彼を椅子に座らせて「本日は蔵内ありがとうパーティーを開催します!」と発表。「ありがとうパーティー?」「前の家の建て替え工事が終わったの。引っ越す前に、蔵内にお礼がしたくて」と経緯を説明すれば、「そそうか。どうもありがとう」予想とは裏腹に表情を曇らせる蔵内。
 いつも通り二人でご飯食べて、後片付けするけど、明らかに彼からの発言が少ない。声掛けても無理矢理押し出したような笑顔を向けてくる。なんか様子おかしいなって、お風呂に入ってる時も彼のことをもやもや考える。長考の末、直接話を聞こうと決心してお風呂上がりに早速リビングへ行くと、ソファーに座ってスンスン泣いてる蔵内がいてたまげる。「どっ、どどどどっ!?」どうしたーー!!
 急いで箱ティッシュ持って駆け寄ると、彼が袖で目元拭いながら「ごめん、、」って謝ってくる。「いいよいいよ、落ち着こ。ゆっくりでいいから」「情けないところ見せたな」「気にせずいこう!」焦って変なフォロー入れまくる。
 隣に座って、涙を拭く彼にティッシュ渡す仕事を続ける。落ち着いてきた頃に「大丈夫そう?」って聞いてみるとうん、って頷くけど「マジ?」って問いただせば参ったように笑う。

 「なんか卒業式を思い出すね」「覚えてたのか」「だって答辞読んでる時からやばかったじゃん」卒業式、みんなに囲まれてボロ泣きしてた蔵内を思い出す。あの時は遠慮して声を掛けられなかったけど、今度は勇気を振り絞って彼の広い背中に腕を回して手を当てる。強い力で抱き締め返されて、ちょっとびっくりするけど、お互いの呼吸を近くで感じると安心する。「本当はもうとっくに、諦めたはずだった」「なにを?」聞き返せば、身体を離した蔵内に真っ直ぐ見つめられる。いつもこんな優しい目で見られてたんだってようやく気付いて熱くなる。「あえ〜っと、、」何とも言えない気恥ずかしさを笑って誤魔化そうとすれば、両手の指先をそっと掴まれて、「好きなんだ。どうしても」冗談なんて言わせない真っ直ぐな瞳と、手から伝わる温度が彼に余裕がないことを教えてくれて息が詰まる。
 「この半年間、人生で一番幸せだった」少女漫画で見たような甘いムードに困惑して、「お、大袈裟〜!」ペシッて蔵内のおでこチョップすると、こぼれ落ちるように笑われる。「本気だってば」「いいやロマンチックすぎる!」「信じて」「モニタリングなんでしょ〜!?」「疑い深い奴だな
 軽く戯れていつもの調子取り戻してから、改めて彼と向き合う。学生の頃からよく目が合っていた謎がようやく解けた気がする。「かくいう私も、蔵内と暮らし始めてからは一人の生活に戻れるか心配になるくらい毎日が楽しくてですね」買い物に行ったら、蔵内があれ好きそうだなって考えるようになったし、一緒に朝ごはんを食べたくて休日も早起きするようになった。こんな特別な気持ちはもうきっと、他の人にはあげられない。
 「後出ししてごめん!私も蔵内のこと好き」ちゃんと彼の目を見て告げると、今度は蔵内さん、しっかりこちら側に崩れてきて「〜〜〜っう、」って声にならない声出してボロボロ泣く。さっき持ってきた箱ティッシュを手探りで探すけど、蔵内にしっかり抱き締められてて身動き取れないし、ギリギリ手が届かない位置にある。「ごめん……嬉しくて」「謝らなくていいよ。色んな表情見せてくれるようになったの、嬉しいし」「こんなに幸せでいいんだろうか……

 とりあえず恋人としての関係をスタートしてから一時間後。さっきから離れる気配なくぴったり隣にくっついてる蔵内に「あの何か言いたいことでも?」流石に突っ込めば、真剣な顔でうんって頷かれる。何を言われるんだろうと内心ドキドキしてると、深呼吸してから蔵内が、「頼む……引っ越さないでくれ」はい?「一緒に暮らしていたいんだ」「気持ちはわかるけどお世話になりすぎてるし」付き合っていきなり同棲っていうのもなぁと考え込んでると、「駄目なら君の部屋の隣に引っ越す」って脅してくる。「蔵内ってそんな頑固な感じだったっけ」「一度掴んだ幸せを離したくないのは当然だろ?」なんかおかしいけど筋は通ってるんだよな
 勿論引っ越しはやんわり阻止されてそのまま同棲することになるし、一年以内に指輪買ってくる。数年越しの片思いを実らせた蔵内は強い。