穏やかに時間の流れる午後。静留は、先ほど入れたほうじ茶を飲みながら、壁にかけてある大きなカレンダーに目をやって、ふと頬を緩めた。
もう、今年も終わる。そういえば、この前なつきが新しいカレンダーを買ってきていた。
この先の、あと1日しかない年末の予定が変わることはないから、今のうちに掛け替えようかと思い、静留は椅子から腰を浮かせた。ガタガタと椅子を壁際まで持っていって、フックにかけておいたそれを壁から外そうとしていると。
「なにしてるんだ、静留」
後ろから、あたたかい手に自分の手が包まれた。
「なつき?」
「こういうのは私がやるって言ってただろ」
少し怒ったような声に聞こえるのは、自分を心配してくれたから、だろうか。
「堪忍。新しいのに替えよう思て」
「そういえば変えてなかったな。そこ、代わってくれ。私がやる」
大人しく静留が椅子を降りると、なつきはひょい、と持ち前の身軽さで椅子に乗り、すぐにとった今年のカレンダーをよこしてきた。左手で受け取り、その手に右手に持っていた来年のカレンダーをのせて、それをなつきがかけ終わるのを待っていた。
「これでよし、と」
身長は、学生の頃とそう変わらない。なつきは自分を抜く、と豪語していたが、結局は2センチメートル差のまま、今も変わらない。
「おおきに、なつき」
目線が少し違うくらいでそう変わらないが、上目遣いに見つめてくれるのは、可愛らしくてたまらない。まっすぐで艶やかな髪を撫でれば、なつきはふわりと顔を綻ばせて笑った。
今し方掛け替えた、今年のカレンダー。それをめくっていけば、たくさんの思い出が蘇っていく。
『1月 JANUARY 』
1日 初詣デート
2日 静留の実家へ
5日 カラオケ同好会行事
などなど、ほとんどの日に予定が書き込まれていた。
なつきの予定は青。静留の予定は紫色のペンで。2人の予定は、どちらかが書き込んだ後、目立つように赤色で囲まれるようになったのは……いつからだっただろうか。
今は手元の端末で予定なんて管理できるし、共有できるようなアプリだっていろいろある。だけど静留が、予定を書き込むときに嬉しそうに笑うから、となつきが毎年大きなカレンダーを、買ってくるのが恒例となっていた。
「その顔が私は好きなんだ」
と言ってくれた顔は、自分では見えないけれど。なつきが自分に向ける視線があたたかくて心地よいものだから、きっと自分もそんな顔をしているのだろう、と思えた。
『4月 April』
2日 カラオケ同好会 花見
3日 なつきと花見デート♡
7日 静留とツーリング
9日 出会った日記念日
『6月 June』
1日 バイク メンテ
13日 赤い猫のイラスト
26日 初めてなつきがお弁当食べてくれた記念日
30日 お茶のお稽古
『8月 August 』
1日→3日 北海道旅行
5日 車検
10日 静留とツーリング
13日 マイールランジェリーバーゲン最終日
15日 なつき誕生日
お泊まり記念日
16日 面会日
17日 静留帰省
26日→28日 リルリルショップ夏物バーゲン 勝つ!
31日 なつきとデート♡
『10月 October 』
1日 はじめて手を繋いだ記念日どす♡←こんなとこに書くな!
3日 お茶のお稽古
11日 紅葉チェック
18日 静留とツーリング
『12月 December 』
11日 ソロリ茶お茶の会
19日 静留 誕生日
24日 静留とデート
25日 なつきとデート♡
27日 大掃除
28日 もちつき
31日 今年最後のデート↑来年もいけるだろ
2人でカレンダーをめくりながら、たくさんの思い出に想いを馳せる。
「今年もいろいろ行ったな」
「今年の紅葉、綺麗やったなあ」
「いい穴場、見つけたもんな。来年もあそこにするか?」
「ええね」
「じゃ、書いとくぞ。……ってそっか。ある程度書いてからまたかければいいか」
1人で納得したらしいなつきは、ひょい、とまた椅子の上に上がり、カレンダーをよこしてくる。
2人分のペンをペン立てからとって、なつきは紫色の方を静留に渡した。
「まず、誕生日を書くだろう。それから……来年のバーゲンセールの情報は出てただろうか」
「あと、こことここ。先に言っておくがその……デ、デート、だから。空けておけ」
「ふふ」
「……何がおかしい」
「恥じらいながらもデート、言わはるんが嬉しゅうてなぁ」
「……まったく。ほら、静留も書け。まずは1月からだ」
「はいな」
なつきの手に握られたペンが当たり前のように「静留」と綴る。来年も、当然のようにこの子の中には自分との予定がたくさん立っているのだと思うと、愛おしさで目の前が見えなくなってくる。
「静留?」
「……うち、なつきのこと、好きになってよかったなぁって」
「……そうか。私も、静留と一緒にいられて、嬉しい」
昔より幾分か素直になってくれた彼女。こういうことを、照れながらも言葉にしてくれる回数が増えたと思う。それがどれだけ静留にとって嬉しいことか、わかっているかはわからないが。
「なつき」
「なんだ? 静留」
「来年も、なつきのそばにおらせてな」
「当たり前だ。私の隣は静留以外、ありえないんだから」
優しく笑う顔は、あの頃は見られなかったもの。歳を重ねて、少しずつ変わってきた姿。だけど、愛おしさは募っていくばかり。
「なつき、愛してます」
心からの言葉を紡げば、なつきは恥ずかしそうに。だけど嬉しそうに頬を緩めて、静留の言葉を受け止めてくれた。
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