しゃどやま
2024-12-31 13:53:15
1929文字
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【雨戴・龍神パロ】辰年の終わり

ヤンデレな雨竜くんに角を落とされる話

 高塔の龍神の角薬は万病に効く。そう信じられていた。従者である雨竜は厳かに来客を通した。龍神はゆっくりと頷く。
……なるほど。身体虚弱の少年がいると」
 龍神である戴天は、鬣の間から枝のように伸びる角を雨竜に差し出す。左右に伸びた長い角。雨竜は、三方からヤスリを取り出した。
「それでは、薬を授けましょう」
 来客は跪き深く礼をして、祈る。雨竜の顔に緊張が走った。
「雨竜くん」
……はい」
 促された雨竜は、落ち着いた手つきでヤスリを角に当てる。しゅり、しゅり、と角の尖端を擦った。紙の上に受け止める。
……ぅんっ」
 びくり、と体を震わせた戴天に、雨竜は手を止める。唇を噛んで、またヤスリを動かし始める。
 角には、神力が通っている。それを削られる苦しみは、人間であれば指先を削られるようなものだろう。雨竜の胸が刺されるように痛んだ。
 緩く首を振り、戴天は雨竜を止めた。
「そのぐらいでいいでしょう。水とともに三度に分けて飲ませてください」
 雨竜は頷き、角の削れた粉を包んだ。
 来客は伏し拝み、ありがたい薬包を受け取る。何度も礼をして、部屋を出ていった。
……龍神様。痛くはありませんか」
「雨竜くん。二人きりの時は、兄さんと呼ぶ約束でしょう」
 はい、と雨竜は答えつつも、念を押すように戴天の目を見る。人とは違う瞳孔を覗き込んだ。
「痛みはあります。けれど、ヒトの信仰に応えているのです。この程度のことは磊磊落落」
「そうですか……けれど、僕は兄さんが心配です」
 雨竜は戴天を兄と呼ぶ。生贄として名前に「竜」の字を入れられた少年を迎えた竜神は、二人きりになった瞬間に「きょうだい」になるよう求めた。裏切らない、本心を欺かない、お互いのことを思い合う「きょうだい」になると。
 まだ幼かった雨竜に礼儀作法や神事、術を教えたのも、ただ従者として便利だからというわけではないだろう。長い尾に包まれて眠った夜は、雨竜に愛情を感じさせるものだった。
「心配無用です。私とヒトは共栄関係……上手くやっていますよ」
「痛みや怨念を押し込めると、龍神は邪龍になってしまうと聞きます。兄さんも無理をしているんじゃ……
「雨竜くん。私を侮らないでください」
 龍神は体を起こし、自らの胸を指す。赤く光る鱗が一枚、逆向きに生えていた。
「かつて邪龍に身を落としかけたこともありましたが……その時はヒトに力の源である逆鱗を札で封じられ、調伏されました。それ以来、己を律することを続けています」
 逆鱗を撫で、雨竜を見る。雨竜は返事をすることができず、唖然として見た。
「けれど、雨竜くん……私がもし邪龍になりそうになったら、その時は」
 戴天は微笑む。角に絡まる鬣が揺れた。
「躊躇なく逆鱗を一突きにし、調伏してくださいね」
 雨竜は、震えながら硬直する。
 頷かなかった。


 戴天は微睡みから目を覚ます。心地のいい夢を見ていた。肌に雨竜の体温を感じる。まるで抱きしめられているような近さだ。戴天はうっとりと目を細める。
 かり、と硬い音がした。目を開けて、体を起こそうとする。
――は?」
 手にも胴体にも力が入らない。骨のない体になったように、床に押し負ける。首を捻って雨竜を見ようとした瞬間、角を強く掴まれた。
「兄さん、動かないでください」
「雨竜くん?」
「動けないですよ。逆鱗に札を貼っていますから」
 戴天は瞳だけを動かして胸元を懸命に覗く。何枚もの札が、龍神としての力を封じていた。
「なに、を……おおっ?」
 ごりゅ、と音が頭蓋骨に直接響く。続けて、何度も削り取る音がする。
 ――角を根元から削られている。
 粉がぱらぱらと戴天の顔に落ちた。激痛に戴天は藻掻こうとして、藻掻く力もでない。
「ぐ、あああっ、う、やめ、やめなさい!」
「兄さんが……兄さんが」
 雨竜は、聖別されたノコギリを揺らす。ギコギコと右の角を引き切っている。
 悲痛な叫びを上げながら、戴天の角を折り取ろうとしていく。
「お互いのことを思いやるきょうだいになろうと言うから! 心を欺くなと言うから!」
 戴天の悲鳴と、苦痛に痙攣する手足と尾。雨竜は叫び声でかき消そうと怒鳴る。
「僕は、兄さんがつらい目にあうのを……もう我慢できないんです!」
「うあああああ!」
 ぱき、と金属のような音を立て、右の角が折り取られる。
 戴天はどさりと床に伏し、脱力する。涙が溢れて顔を濡らした。
「神様を止めてください。もうつらい思いをしないでください」
「はーっ、はーっ、うりゅ、く……だめ
 雨竜は、言った。
「もう一本、折ります。あなたをヒトにするために」