アキ
2024-12-31 13:04:15
1417文字
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初詣

・5歌(呪):初詣

元旦というのは一年で最も人間の欲望が出るものである。人々が神に願う初詣は特に呪霊が発生しやすい。よって年末から年始までが一年で最も忙しい時期と言われている。逆にこれが終われば、術師は順番に休暇を取る。ある意味、世間一般の年末年始休暇はないが、ちょっと休みがずれるから旅行などは行きやすいのだ。
「歌姫、甘酒貰ってきた。これも買ってきた」
「ありがと」
「あ~。りんご飴美味しい。ねぇ、甘酒にイカ焼きってどうなの?」
「合わないわよ。とっとと返って熱燗で一杯やりたい」
十年程前の代替わりから毎年恒例の行事だった。東京と京都の大きな神社仏閣には初詣に人が集まる。特に人が集まる有名な場所は強力な呪霊も集まりやすい。そのために
特別に結界を張るのだ。呪力が無尽蔵で結界術もできる五条が各地を飛び、私はそれに同行し私の術式で結界の底上げを行う。東京の結界は張り終わり、五条の術式で京都に移動してきた。人でごった返している参道を横目に社務所の裏を借りて二人で休憩させて貰っている。
「ここ十年毎年アンタと年越しよ。そろそろ役目を変わってほしいわ」
「グッドルッキングガイに文句あるの?」
「ありありよって、あああああああああ!最後の一口!」
「腹減ってるんだからさぁ」
「アンタねぇ!」
棒から五条の口内に消えたイカを名残惜しげに見て、甘酒に口をつける。優しい甘さがほんのりと染みる。
その時歓声が上がった。スマホを手繰り寄せれば、0時を過ぎていた。
「あけましておめでとう。本年もよろしく」
「あけおめことよろ~」
「古いわよ、それ」
「じゃ、まぁ、例年のやつ、やるか」
二人で立ち上がって社務所の表に回る。一番奥の窓口は参拝客が少ないので、そこに向かって二人でおみくじを引く。初詣をする時間はないから、毎年それが初詣代わりだった。裏に戻って腰を下ろしておみくじを開く。中吉よりも恋愛欄が気になった。
「歌姫どうだった?僕大吉。なんかよくないことかいてたの?」
「中吉。恋愛欄見てたのよ」
「『この人より他になし』……ねぇ?」
「で、アンタはどうなったのよ、恋愛欄。……『愛を捧げよ』だって。いい加減アンタも誠実に向き合いなさいってことでしょ」
「歌姫に?」
「はぁ、馬鹿言わないで。そろそろ次に行くわよ」
「僕より他になし、でしょ?」
「五条、寝言も大概に」
「誠実に、『愛を捧げた』つもりなんだけど、そっちはいつ誠実にいつ返事をくれるんだか」
五条の腕の中に入る。五条は次の神社へ転移するために準備を始める。
「私アンタがこうしなくたって、人を転移させることができるって知ってるんだけど」
顔をその胸に埋めたまま、呟いた。
「それでも『これ』を受け入れてることが、誠実な『返事』のつもりなんだけど」
次の瞬間、身体がふわりと浮き上がり、どこかへ移動する。

目を開くと、まばゆい夜景に包まれた見知らぬビルの上。

「ちょっ、アンタここ、京都じゃないでしょ!?」
「大阪」
「は、っ」

唇を塞がれたかと思うと、五条は私を抱きしめたまま後ろに倒れていく。
きらめく夜景が眼下に広がる。
ふわりと宙を浮いた身体がそのまま高層ビルの屋上から落下していく。

目を閉じる瞬間、百億ドルよりきらめく青い瞳が嬉しそうに細められた。

「最高の一年が始まった!」

子どもみたいな笑顔に、思わずこっちまで笑ってしまった瞬間、別の場所へ転移した。