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まきわ
2024-12-31 12:46:21
4875文字
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共にある未来
大晦日だよクロリンだよ!
4直後の、先輩視点のおはなしです
未来に向かって歩き出そうとしているクロリンを書きたかったです
いつからか仮面を被るようになっていた。
多分故郷を飛び出した辺りからだろう。
誰も信じられなくて、心に踏み入られない為に仮面を被って心を隠した。
トールズに入学して、色々あってからは少し仮面の意味合いが変わった。
自分の心に触れて、相手を傷つけないように。
特に黄昏の間は気を遣った。
リィンは自分が背負ったものだけで精一杯で、自分の運命だけでも充分苦しめられていた。
だから自分が負担になるようなことだけは絶対にあってはならないと思った。
本当は怖かった。
どれだけ頑張って、最善の結果を掴み取ったとしても自分はその先に踏み出すことはできない。
どうあってもそこで終わり。
踏み出していく彼らを見送るしかなくて、置いて行かれる。
それを思うと絶望に胸を引き裂かれて叫びだしたくなった。
同時にどの口が、とも思った。
たくさんの人を傷つけて、手にかけて、そんな道を選んでおいて消えるのが怖いなどと言えた義理か、と。
だから全て胸の奥底に押し込めてなんでもない風に笑ってみせた。
リィンを支え、励まし、背中を押して、隣に並んでやることができる、それだけで無上の幸せだろうと。
そうして消えるその瞬間も、先輩らしくかっこよくキメて去ってやるのだ。
そう、思っていた。
(
…
生きてんなぁ
…
オレ
…
)
分校の屋上で澄んで良く晴れた青空を見上げながらぼんやりとクロウはそう思った。
黄昏が終わったあの日から半月、事後処理に奔走する合間のふと気を抜いた瞬間に何度も思ったことだった。
正直まだ戸惑いが強くて、実感しているようなしていないような、不思議な気分だ。
ただそれでも不死者だった時よりも色んなものを強く感じた。
料理の味、アルコールの酔い、眠気や疲れ、痛みなども。
それらを感じる度に自分にはありえなかったはずの「その先」が与えられたのだとしみじみ思う。
けれどそれを全力で受け止めることにどこか躊躇いも感じていた。
「
……
はぁ」
虚脱したような思いで空を見上げる。
(まーその内慣れてくんだろうけどな
…
。この先どうするかも考えてかねぇといけねぇし
…
)
「クロウ?」
考えるともなくぼーっとしていると声をかけられて振り向く。
リィンがやや心配そうに首を傾げていた。
「ここにいたのか」
「おー。いー天気だなぁと思ってなー」
反射的にいつもの笑みを浮かべたクロウをリィンはしばしじっと見つめてきた。
なんだ?と問い返そうとした瞬間リィンはこちらに歩いてきて、すぐ傍で足を止めてからクロウを真っすぐ見つめた。
「
…
ちょっと相談したいことがあるんだが、今日の夜空いてるか?」
「お?別にいいぜ。どこにする?」
黄昏が終わって抱えていたしがらみの大半が無くなっても、リィンの悩みが消えたわけではない。
過去は消えない。
自分に「その先」ができたなら、支え続けてやるだけだ。
リィンは顎に手を当てて少し考え込んでからちらりと屋上から見えるリーヴスの街並みに目をやった。
「
…
俺の部屋はどうかな」
「
…
お、おう。いいぜ」
「じゃあ、仕事終わったら声かける。そうだな、食事をしてからにしようか」
「んじゃバーニーズで待ってるぜ」
「ああ、また後で」
自分の戸惑いなどどうでもいい。
少しでもリィンの心を軽くしてやれるように、クロウは気合を入れ直した。
食事をしている間はとりとめなくお互いの近況を話し合うに留まった。
ひとしきり腹を満たした後、二人は寮のリィンの自室へ向かった。
リィンの部屋は学生だった頃とあまり変わらないように思えた。
飾られている写真があの頃より少し増えただけ。
「クロウ、コート」
「ん」
差し出された手に脱いだコートを手渡す。
自分の分と併せて壁にコートをかけるリィンの後ろ姿を見つめつつ少し眉を寄せる。
(別に仲間だし、同性なんだし問題はねぇんだけど
…
あっさり部屋に入れるよなぁ)
自身がリィンに対して抱く想いを考えるともう少し警戒してほしいのだが、それに気付いているのかもわからないからこんなものだとも思う。
なんにせよ複雑な気分ではあるのだ。
「ええと
…
ごめん、椅子とかないからベッドに座ってくれ」
「
……
おお」
ベッドに並んで腰かけながら、クロウは更に眉間に皺を寄せた。
確かに椅子は机に付随した一脚のみだからこうなるのも不自然ではないのだが、なんだかすごく落ち着かない。
「そんでどうした?あえてのオレに相談ってことは恋愛相談とかか~?」
複雑な想いを振り払うべく早速本題を振ってみたものの、本当に恋愛相談などされたらこのまま押し倒してしまうんじゃないかという不安が浮かんだ。
が、リィンは慌てた後にクロウを軽く睨んだ。
「そ、そんなわけないだろ。そうじゃなくて
……
」
リィンは俯いて、考え込む様子を見せた。
急かすものでもないだろうから、クロウはリィンの横顔を見つめたまま次の言葉を待った。
「
…
俺は、黄昏の間正直自分のことでいっぱいいっぱいだった。背負ったものと、相克のことで精いっぱいで
…
でも、今もそれが完全になくなったわけじゃなくて」
リィンは考えながら少しずつ言葉を紡いでいるようだった。
クロウは頷きながらそれをじっと受け止めた。
「してしまったことと
…
それを踏まえて自分がこの先どうあるべきなのか。何に手を伸ばして、何を諦めるのか
…
そういうことをずっと考えてて」
そこまで言って、リィンは惑うようにクロウを見た。
リィンが自身が黄昏の引き金を引いたこと気にしているのはわかっていた。
だからこそ、黄昏の間は自分自身のことを諦めたようなそんな節があったことも、皆気付いていた。
クロウは励ますように優しく微笑んで、リィンの肩を軽く叩いた。
「気にすんな、とは言わねぇよ。できないことはオレならわかるからな。オレと違ってお前は自分で選んで引いた引き金じゃねぇがだとしても
…
」
「いや、うん、それはいいんだ。悩んではいるけど、自分と向き合って少しずつ決めていくことだと思うから」
慌てたように遮られてクロウは思わずきょとんと首を傾げた。
「ええと
…
その」
リィンは咳払いをして、それでもまだどう話すか迷うように視線を彷徨わせた。
「自分がどうしていくか考えている間、これまでのことも思い返してたんだ。そうやって考えている内に
…
クロウのことも、考えてて」
どきり、と心臓が少し跳ねた。
我知らず握った拳に力がこもる。
「クロウは
…
いつも頼り甲斐があって、さりげなく支えてくれてて、背中を押してくれて
…
救われたこと、たくさんあったと思う。今だって、相談があるっていったらこうやって隣にいてくれて」
そんなの他のやつだってそうだし、そうするだろ、と言おうとした言葉は喉の割と深いところで引っ掛かって止まった。
リィンは言葉を紡いている内に悩むように彷徨っていた視線がまっすぐクロウに定まってきている。
「でも
……
その、実は俺、あの決戦前の
…
壮行会の時に少しだけ、聞いてしまって」
「聞いた?」
突然なんのことかと首を傾げると、リィンは気まずそうに少し顔を赤くした。
「その
…
オリヴァルト皇子殿下とシェラザードさんの会話、を
…
」
恋人同士である二人が決戦前に交わした会話なのだからなんとなく内容は想像できた。
とはいえリィンの初心な反応を見てるとついからかいたくなった。
「なんだ、えっちな話か〜?」
「ち・が・い・ま・す」
笑顔で頬をつねられた。
リィンは一つ息をついて仕切り直すと横目でクロウを見た。
「その時
…
シェラザードさんが言ってたんだ。カレイジャスが落ちる時、怖かっただろう、痛かっただろう、傍にいられなくてごめんって」
クロウが言葉に詰まると、リィンは切なげに揺れる瞳でクロウを真っ直ぐ見つめた。
「それを思い出した時思ったんだ。クロウだって怖かったんじゃないかって。煌魔城の時もそうだけど
…
どうなるかわからなかった俺だって不安だったのに
…
それ以上に、どうやったって終わりが見えていたクロウの方がよっぽど怖かったんじゃないかって」
「
……
っ」
虚を衝かれて思わず動揺が顔に出る。
仮面がひび割れて、胸の底に押し込めていた何かが悲鳴をあげるように蠢いた。
「でもクロウは一度だってそれを見せないで、笑ってた。俺を
…
支え続けていてくれた。
…
これからもそれじゃ、ダメなんだ」
「
…
なんで」
支えなど、もういらないということだろうか。
思わずクロウの瞳に宿った剣呑な光に気付いたかどうか、リィンは真っすぐにクロウの瞳を見据えて自分の手をクロウの手に重ねた。
「俺にも、クロウが背負っているものを背負わせてほしいんだ。
…
これからどうするか
…
どうすべきなのかちゃんと決めてないけど
…
それでも、支えられてるだけじゃなく、クロウのことを支えたい。
…
そこから始めたい」
リィンはどこか希うように必死な眼差しでクロウの手を軽く握った。
「隣に並ぶだけじゃだめなんだ。ちゃんとクロウの苦しみも一緒に背負いたい。だから
…
分けてほしいんだ、クロウのものも」
「リィン
…
」
手にじんわりとリィンの体温が沁み込んでくる。
生きている、とまた感じる。
同時にリィンの言葉に突き動かされて、胸の奥に押し込めていた色んな感情が生まれたばかりの赤子のように泣き叫んでいた。
何もかも溢れ出しそうになって、クロウは咄嗟にリィンを抱き寄せた。
「あっ
……
」
「
…
わりぃ。このままで、頼む」
「
………
うん」
リィンは戸惑いながらもそっと抱き返してくれた。
今の顔を見られる勇気は、少なくとも今のところは持てそうにない。
クロウはリィンの肩に顔を埋めるようにしながら息をついた。
「
…
正直今でも怖いぜ。生きてるって思うたびにふと、今度はいつ終わっちまうんだろうって考えたりしてな」
「クロウ
…
」
リィンの、抱き締める力が少し強くなった。
それに励まされるようにしてクロウは大きく息を吐いた。
「どの口がって思うぜ。消えたくないのも、死にたくねぇのもみんな同じだ。わかってて
…
オレはそれでも奪う道を選んだ。そのくせこんな風に怖がるなんてお笑いだって」
「
……
うん」
リィンの手が優しくクロウの背を撫でた。
「
…
クロウの罪は、罪だと思う。俺の罪が罪であるのと同じように。償うべきだし、償いたい。これからどうしていくのかちゃんと考えないといけないんだ。
…
俺の事もちゃんと考えなきゃいけないけど
…
クロウの事も支えたい」
クロウは小さく笑みを零した。
「欲張りだな」
「
…
クロウは?」
「
…
ああ」
クロウは奥底にわだかまっていたものを吐き出すようにもう一度大きく息をついた。
「オレも
…
償っていくべきだし
…
お前の事も、支えたいと思ってる」
「
…
ありがとう。だったら、俺の前ではお笑いだなんて言わずに苦しいことは分かち合ってほしい。その
…
なるべく俺もそうするから。というかクロウの前では我慢できてない気もするんだが」
「どーだかなぁ」
掠れた声で小さく笑ってから、クロウは強くリィンを抱き締めた。
「
…
もう少し、こうしてていいか?」
「
…
うん。
…
でもその、俺、まだ
…
」
「わーってる。ゆっくり考えてこーぜ、全部な」
「
…
うん。ありがとう」
礼を言いたいのはこちらだ、と思いながらクロウはそのまま体重をかけてリィンごとベッドに寝転んだ。
「わっ、く、クロウっ」
「ゆっくり考えるんでいいけどよー。今後はオレにしろオレ以外にしろ、部屋に入れたりベッドに座らせたりは気軽にすんなよ?」
「え、ええと
…
う、うん」
腕の中で、リィンの耳が紅く染まっているのが見えて小さく笑う。
心の中が驚くほど軽くなっているのに気付いて、現金なものだと思った。
(ずーっと、とっくに支えられてたと思うけどな)
そうでなければ多分立ってはいられなかった。
「
…
オレも、ありがとな」
呟くように言うと、小さく頷いた気配が返ってきた。
ああ生きてる、生きてて嬉しい、とその時初めて素直にそう思えた。
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