こみこず

阻止。

「ごめん、邪魔してマジごめん。でもNGだから……ほんとうごめんだけどNGだから……!」
 目前に迫った冬休みに浮き立つ空気を裂くように、國正は後ろからひしっと愛廻を抱え込みながら必死の表情で首を振る。
「へ……?」
 それにきょとんとするのは愛廻で、驚いた周囲は次いで生ぬるい笑みを浮かべたり恋のようにけらけらと笑い声を上げている。
「だめです、恋人として容認できない」
「分かってるよー」
「俺を通して! いや、通さないんだけど、俺はNG出すんだけど……!」
「分かったって」
「せめて、せめて俺を相手になら……
「お前、少しはひとの話を聞けよ」
「いった……っ」
 繰り返す國正に恋も苦笑したところで翔が容赦なく頭を引っ叩く。
 痛みによってやっと止まった國正であったが、訳が分からない様子で自分を見上げてくる愛廻に気づくと彼を一層強く抱きしめて「NGです……」と繰り返す。
「うんうん、愛廻は最初から除外するって」
「恋もだけど」
「んふふ……そうだね、俺も除外」
 こちらもぴったりと寄り添いあった翔と恋にクラスメイトたちは野次を飛ばし、結局は分かっていたと呆れた笑顔で各々の雑談に戻る。
 やっと落ち着いた空気のなか、國正は打って変わってしょぼんと情けない顔をすると「邪魔してごめん……」と愛廻の肩口に額を押し付ける。
 いかにも反省していますという雰囲気の國正に始終なんのことか分からなさそうな愛廻は「なにが……?」と至極真っ当な疑問を口にするが、呻き声を上げる國正はなかなか言い出せない。
「この馬鹿は愛してるゲームに不来方さんを参加させたくなかっただけだよ」
 國正が言い出せない分、翔が言った。
……愛してるゲーム? え、なんで? そんな話してた?」
「そうなるよね。二つくらい隣の席で話してたよ」
 恋も続いて補足する。
「こっちに話回ってきそうになって、こいつは気持ち悪い速度で反応したわけ」
「気持ち悪いって言うなよ! 恋人の愛してるがかかってるんだぞ!!」
 愛廻の耳が近いので小声で叫ぶ國正は、翔と恋が言ったように自分たちの近くで愛してるゲームをしようという流れが発生したのを察知し、誘われる前から全力でお断りしたのだ。勝手に。愛廻の意思も聞かず。繰り返すが誘われてもいないのに。
「翔だって運否さん除外させただろうが!」
「当たり前のことを言うな」
「っお前、ほんとそういう……この、っばーか!!」
「あまりにも語彙が貧弱じゃない?」
 恋が微笑ましそうに笑い出すのにも威嚇したくなり國正は愛廻の肩口からヴーヴーと唸るが、ふと愛廻が俯いて口元を覆っているのに気づく。
……っふふ、あは、ふ……あはは!」
 口元から少し離した両手を小さくぱちぱちと叩く愛廻はやがて頬を紅潮させながら笑い出し、小刻みに肩を揺らしながら目尻に滲んだ涙を爪にラメの輝く指先で拭う。
「そういうことだったの? ふふ……オレ、國正くんにしか言わないよぉ」
 にこにこと笑顔で伸ばされた愛廻の手にちょん、と頬をつつかれ、國正は反射のように「かわい!」と呟く。態とらしく口でひゅーひゅー言ってくる翔と恋には威嚇をしておいた。
「俺としては誘われそうなの見過ごすのがそもそも無しっていうか……
「うん。オレが……その、あいしてる……って他のひとに言うのやだったんだよ、ね」
「絶対に嫌。冗談でも言われた相手に嫉妬する……重い?」
 自身の手を掴まえて握りしめながら窺う國正に、愛廻はバイカラーの目をゆるりと細めてその手に頬をあてる。
「ううん、そんなことない……そのまま平然とされるほうが嫌だし……面倒くさいって思う……?」
「そんなことない!」
「そうだ、これで面倒くさかったら俺はどうしたらいいんだよ」
「軽いより重いほうがいいしねー」
「ちょっと発言を控えていていただけますう!?」
 茶々を入れてくる翔と恋にここにいては話が進まない、と國正は愛廻の手を引いて教室のベランダに出ていく。きっちりと掃き出し窓を閉めれば窓越しにクラスメイトのにやにやとした視線を感じたが、しっしっと手を振れば彼らは笑って目を逸らしてくれた。
「えっと、俺は愛廻のこと全然面倒なんて思わないし、むしろ嬉しいし可愛いし、できれば俺のことも重いって思わないで……くれたら嬉しいけど、重いって思ってもその……都度改善するので言ってほしい、です……見捨てないでください……
「見捨てるわけないよぉ!! んふふ……俺もね、重いなんて思わないし、そうやって思ってくれるの嬉しい」
 へにゃへにゃと顔を緩ませる愛廻は不意にその顔をきゅっと顰める。やはり、己に不足が……と國正がぞっとしたところで聞こえたのは小さなくしゃみ。
 左様、ここは真冬のベランダである。
 愛廻をとんでもない場所に連れてきてしまったと焦った國正はカーディガンを素早く脱ぎ捨てると、愛廻に頭からすっぽりと被せ着せた。
「わ、っぷ……!」
「ごめんね、寒いよね!」
「ううん、あったかい……でも國正くんのほうが寒くなっちゃったでしょ……?」
「俺のような馬鹿野郎は風邪引かないので……
「だめ! なかに戻ったら返すから……
 そう言いつつ、少しばかり大きいカーディガンの裾を握りしめる愛廻が名残惜しそうに見えるのは都合のいい錯覚だろうかと、國正はきゅんきゅんと甘酸っぱく痛む胸を押さえる。
……なかに戻ったらそれこそ大丈夫だから着てて」
……いいの?」
「うん。それに……俺の着てたら変なゲームになんて誘われないと思うし」
「っふふ。そうだね、俺が……國正くんのって、分かるもんね」
 照れ照れとはにかむ愛廻の可愛らしさに、國正は一瞬ここがどこか忘れた。
 教室のベランダなんて、なかからは丸見えだ。さっき見ない振りをしてくれたクラスメイトだって、きっとちらちら何度か盗み見をしている。
 でも、でも……と國正は愛廻の頬に手を添え、そっと身を屈めて顔を寄せてしまう。
 近づいた國正の顔に愛廻がぎゅうっと目を閉じる。反射のように結ばれた唇は舌でつつけば解けるのを國正はもう知っていた。
 三センチ、二センチ、ゼロに近づく唇。
 だが、唇が重なり合う直前に國正と愛廻の体はぎくりと固まる。
 予鈴が、鳴ってしまったのだ。
……こんなところでごめん」
……ううん」
……戻ろっか」
…………うん」
 國正はだぼついた袖から覗く愛廻の手を握って掃き出し窓を開ける。
 教室に戻れば案の定クラスメイトたちはにやにやしながらさっと顔を背けたけれど、翔と恋はおかしそうに肩を寄せ合って笑っているけれど、國正は堂々としながら教室を闊歩して自分たちの席まで戻る。
 愛廻が着席し、自分も席に着かなければいけない國正だが、彼は教師がまだ到着していないのをいいことに愛廻の耳元へ顔を寄せた。
「後でね」
「っうん……!」
 ──さっと赤くなった耳にちゅっと口付けてしまったのは、青春が故であった。