zxzx1231
2024-12-31 01:41:52
3200文字
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とある年の瀬

年末のカブミス

 物音が聞こえて眼を覚ましたが、瞼を開けて音の方向に視線を向ければ、ドアはもう締まっていた。
 どこか気だるい体をベッドの上で起こせば、早朝の青い光がカーテンの隙間から部屋へ俯きがちに落ちていた。鳥の囀る音すら聞こえない冷えた空気の中で、ゆっくりとベッドから足を降ろし立ち上がる。乾燥のせいか目の際が開けづらい。何度か手の甲で目を擦りながら足を向かわせた先にあったのは、小さなラウンドテーブルだ。
………
 ざらついた質感の紙に掛かれた文章をなぞる。書かれたての文字は急いで書いたのだろう、走りがきで最後の部分はインクが掠れている。ミスルンは少しばかりその場で首を横に倒した後、やおらに近くの棚の引き出し一番目をガソゴソと漁りだす。必要だったのは少しの紙と、ペンとインク。胸に抱えたそれらをミスルンは落とさぬように歩いてまた近くに置かれた机の前の椅子に座る。目の前のカーテンを少しだけ引けば、淡い光が紙に落ちた。静かな朝の始まり。部屋に紙にペン先を走らせるカリカリとした鋭く硬質な音が小さく響きだす。

 今日も遅くなります。
 置かれた紙にはそう書いてあった。

-

◯月◯日
 おはようございます。
 手紙、嬉しかったです。返事すぐに書けなくてごめんなさい。夜書く時間が取れなくて、宮殿でこれを書いています。あまり長くも書けないんですが、許してくださいね。
 今日も西に東にと慌ただしく走り回りました。一体いつ落ち着くんでしょう。あなたも知っての通り、宮殿でライオスを狙った誘拐事件が起きました。(未遂ではありますが)いつかは起きかねないと思っていたことですが、ついに現実のものとなってしまいました。宮殿内に手引きする人間がいることは明白です。詳しくは書けませんが、その調査にひどく手間取っています。
 なんとか今は帰れていますが、寝るだけになってしまっていることが歯痒いところです。

 ご飯、食べられていますか?最近は寝顔しか見れていませんが、少し痩せたように思います。センシさんが作ってくれたすぐりのパイを宮殿から持ってきました。甘いものお好きでしょう。執筆の合間にでも食べてください。


◯月◯日
 おはようございます。
 昨日の昼頃、宮殿に来たと聞きました。皿を返しにきたとか。マルシルに聞いたかと思いますが、ちょうど時間が出来て俺も屋敷に行っていました。少しでも会えればと思っていたんですが。まさか入れ違いになるとは。あなたはそのまま帰ってしまったと聞きました。もう少しいてくれれば日の高いうちにあなたの顔を見られたのに。誰かもう少し引き留めて欲しかったところですが、皆今の時期は忙しいですから文句は言えません。
 調査はもちろん続けています。少しチルチャックの力を借りることになりそうです。

 あと、(文字を消した跡)
 すみません、ヤアドが頭を抱えているのでちょっと行ってきます。まだ灰になられては困るので。

 日中も冷えます。どうか暖かくしてください。


◯月◯日
 あなた、どこへ行っていたんですか。冬の間は調査に行かないという約束だったでしょう。「帰りが遅くなる」なんて。当てつけのような書き置きしなくてもいいじゃないですか。一昨日なんてせっかく仕事を早く終わらせて帰れたのに。寝床にあなたの姿がなくて、屋敷の中を夜中、ランプの灯頼りに探してしまいました。
 俺の物音で起こしてしまった◯◯には悪いことをしました。でもそれであなたが迷宮へ調査へ出たと知ったので彼には感謝しなければ。
 
 でも、それから、冷たい寝床に横たわっていて思いました。あなたはここで俺をずっと待っていてくれたことに。これを知らせたかったんですか?そうだとしたら大成功かも。目論み通り、一人寂しく夜を過ごしました。朝も、出る時間より大分早く目が覚めてしまって、あなたがきっと俺宛の手紙を書いてくれていた机でこれを書いています。

 猫とか飼うのはどうかな。ちょうど宮殿の厨房近くに住み着いた猫に子猫が産まれて引き取り先を探しているんです。そうしたらきっと、どちらかがいない日も少しは寂しくないのかも。

 犬か猫かっていうやつあるでしょう。俺、今まではどちらでもなくて、強いて言えば犬かな?というくらいだったのが、あなたと暮らすようになってから猫が好きになりました。どうしてでしょうね。分かりますか?


◯月◯日 書き置き
 昨日は起きて待ってくれていてありがとうございます。少しだけでも話せて嬉しかった。また今日も遅くなりそうです。
 あなたも本の出版に向けて最近は大忙しでしょうから、無理して起きていないで。俺は必ずここへ帰るので。

…………
……



◯月◯日
 ショックなことがありました。なんと、白い毛が一本、髪に混じっていたのを見つけて。マルシルが驚いて教えてくれましたが、俺も驚いて声も出せないほどでした。年を取ることは当たり前のことですが、突然訪れるものですね。受け止めるのに少し時間がかかりそうです。
(その後マルシルがライオスの髪の毛をぐっと覗き込んで探しましたが、彼には白髪の一本ありませんでした。)

 最近は話せたり、話せなかったりですが、手紙のやり取りが楽しいです。俺が知らないあなたの生活が知れるのが嬉しい。今の厄介ごとが片付いたら、あなたが最近見つけたやりたいことを見せてください。あなたの打った蕎麦も食べたいな。

 子猫は無事全て引き取り先が決まったようです。あなたが猫にも嫉妬するとは思わなかった。いえいえもちろん、うれしい限りです。

…………
……


◯月◯日
 もう少しです。きっと年内には見つかるでしょう。あなたが書き添えてくれたヒントのおかげです。受け渡せる情報も少ない中、よく。迷宮の探索にもし片がつく時がきたなら、安楽椅子探偵などいかがでしょう?モノクルなんて片目につけて。きっと似合います。似合い過ぎなほどかも。

◯月◯日
 あなたが夜眠れるようになって本当に良かった。俺もあなたの横だとすんなり眠れるようになりました。
 二人で眠れない夜に昔話や色んな話をするのも、もちろん楽しかったですよ。

…………
……


◯月◯日
 証拠を突きつけて、あとついでに恩赦もチラつかせてやれば大臣自ら自供しました。やっとです。
 これは直接話したいな。もちろん、西方に内部情報を流すつもりはありませんのでご安心を。最低限です。(ヒントをくれたあなたには、申し訳ないことですが)
 ゆっくり年を越すつもりだったのに、まったく良い迷惑でした。冬祭りも宮殿から街を見下ろすばかりで。

 これを読んでる時、あなたは一人でしょうか?一人だといいな。俺はあなたの側にいれないのに、誰かがあなたの側にいるのは少しだけ嫉妬してしまうから。
 ねえ今少し鼻で笑ったんじゃないですか?本気ですよ。

 最近は早起きがすっかり習慣になって、夜明け頃に自然と目が覚めるようになりました。きっと明日も、あなたより先に目が覚めるでしょう。
 あなたが目を覚ました時には暖かいスープを用意して待っています。久しぶりにゆっくり一緒に朝食を取りましょう。食後の紅茶なんか飲みながら最近のこと話したりなんかして。

 手紙、楽しいと書きましたが、やっぱり俺はあなたと顔をきちんと合わせて、あなたの声を聞きたい。文字だけじゃ、あなたが笑って書いているのかも、不機嫌な顔をして書いているのかも時々分からなかったから。
 同じ屋敷に住んで一緒に暮らしているのに不思議です。いつかのデートみたいにすこしドキドキしてる。大袈裟ですかね?でも、本当ですよ。

 では、また。来年。
 よいお年を。

 今日も寒くなります。くれぐれも風邪には気をつけて。