ichib29
2024-12-31 01:20:16
931文字
Public 《 文章 》
 

夜の海辺で

ツムグ/リッカ



 夜の海辺に、ふらふらと歩く遠くの人影に気づいた。雲間から顔を覗かせる月が、海に吸い込まれるように近づく華奢なシルエットを映し出す。
 青年は連れの男に一声かけると、その人影の元へと向かった。近くで見るとやはり、それは10代前半頃の少年だった。

「こんな夜に、こんなところでどうしたの」

 少年は驚いたように肩を震わせた。振り返った視線は鋭い。

「一人?」

……

「お父さんとか、お母さんとかは?」

 少年は「煩い」と険しい顔をする。

「死んだんだよ」

「二人共?」

「煩い。寄るな」

 少年の声に、とんと胸を押されたような感覚がして二、三歩後ずさった。

「もしかして今の、異能力?」

 あからさまな拒絶と、不可解な力にも穏やかな表情を絶やさない青年に、少年は怪訝そうな顔をする。

「ねぇ、もしかして死のうとしてる?」

 その内容とは裏腹な軽い声のトーンに、少年は更に眉間に皺を寄せた。

「一人になっちゃって、死のうとしてる?だったら、俺と一緒においでよ」

「は?どこに。つか、お前に関係ないだろ。俺に構うな」

 また胸を押されるような感覚があった。先程よりも強く、後ずさる。やはり異能力だろうか。

「関係ないね。でも、俺が、君を見つけた。関係あると思わない?」

……

 少年は男から目をそらし、海へと歩を進めた。青年は小走りに少年に近づき腕を掴む。少年は腕を振りほどこうとしたが、青年はその手を離さなかった。

「俺もさ、両親が死んだんだ。たぶん、君と同じくらいの時だった。だから、わかるよ。どうしたらいいのかわかんないよね。だから……どうしても死にたいならこれ以上は止めない。でも、そうじゃないなら、俺が止めてあげる。どう?」

 目を逸らしたままの少年は俯き、しかし今度はその手を振りほどこうとしなかった。

「おいで。行こう」

「だから、どこに」

 少年が青年を見上げる。青年は微笑んだ。

「海の上の、秘密の街」

 潮が満ちてきたらしく、冷たい海水が二人の足元を濡らす。青年が指差した海の先には、先程まで無かったはずの街のような巨大な影が、ぼんやりと浮かんでいるように見えた。