浮き流し
2024-12-30 20:36:12
2042文字
Public イチ松
 

帳で覆えば光をも抱く(イチ松)

成立済 1年、個人部屋設定
松からの矢印が強いです

雪積もると夜でも明るいよね&イチ松のふたり寒い中カーテンの内側で密着してて。の願望とクリスマスを悪魔合体させた話

「クリスマスなのに味気がない」
 正確にはいつもより豪華な夕食はあった。中身の詰まったサンドイッチにシチュー、1人3切れずつ配られたローストチキン、そしてプレゼントを称したありがたくも強度の高い詰め込み練習があった。
 ただ山王で初めての聖夜は、友人同士のプレゼント交換がなければ恋人ロマンチックな夜を過ごすこともできない。
 嘆くオレを見かねたのか、一之倉が声を掛けてきた。
「ちょっと見てほしいものがあるんだけど、オレの部屋来てくれない?」
 すぐじゃなくて消灯の1時間前ぐらいがいいな。
 そう言われ、一之倉の部屋の扉を叩いた。

「イチノ、いるか?」
 声を掛けると、早く入ってと急かされる。
 一之倉は窓の側にいて、ご機嫌な効果音とともにカーテンを開く。
「ジャーン」
 すると扉の正面に自分達の姿が映る。窓ガラスに室内の光が反射したためだ。元々あったレースのカーテンは隅に寄せられ、ピカピカと点滅する電飾が巻き付けられている。
「無理矢理だけど、ツリーっぼくない?」
「それは、嬉しいけど……
 折角工夫してくれたところ悪いが、そう見立てるには少々難しい気がする。オレ曖昧な言葉に一之倉も同じ考えではあるのか、そう。と短く答える。
 そして床に伸びていたコードを掴み、窓にセロテープで波打つように固定する。仕上げにルーズリーフに蛍光ペンで書いたであろう星を貼ると、こちらを振り返る。
「電気消してくれる?」

 室内が暗くなれば、窓から見えるのは室内の反射ではなく寮を囲む白い樹木だ。
「こうすると外の木もイルミネーションっぽいでしょ」
 一之倉の指摘に窓を確認すると、確かに木々と赤や緑の電飾が重なったように錯覚する。
「本当だ」
 一瞬でできたクリスマスの装いに感心していると、一之倉が勉強机からガサガサと袋を取り出す。
「で、ここにお菓子があります」
 一之倉の行動にオレは驚く。禁止されている甘いものを、しかもこんな就寝間近に食べるなんて。
 しかし浮かぶのは一之倉と同じく不敵な笑みだ。
「悪いヤツだ」
「一緒に悪いことしよ?」


 はい、と大袋から小分けの袋を渡される。よく見るコアラや船のお菓子で、味は変わらないもののパッケージはクリスマス仕様になっている。

 外を見ると連日雪が降り続いたため、木々の緑も道路の黒も空さえも白く染まっている。昼間でも分厚い雲が日光を覆い、連日夕方のような薄暗さを呈する。しかし夜になればその薄暗さも、相対的に懐中電灯のいらない明るさへと変化する。

 この催しをより秘密のものにするため、イスを持ち出して窓の側に置く。そして厚手のカーテンの内側に入ると小さな空間ができる。
 窓に近づくと室内とは違った不思議な匂いがする。なんだろう。似たような匂いの記憶を探っていると、腰の辺りの服を引っ張られる。
「寒いからもっとくっ付いて」
 一之倉の言葉に、内心踊り立つ。
 太陽光を遮断するカーテンは冷気も防いでくれていたようだ。この空間は意外と肌寒く、普段部屋にいる時には感じることの少ない冷気に包まれる。
 イスを斜め前に移動させると2人だけのイルミネーションは見え辛くなってしまった。しかし今はそれよりも一之倉と密着して体温を分け合っている、この状況の方が重要だ。
 赤や緑の光に照らされながらチョコ菓子を口に運ぶ一之倉を見つめる。肩の高さにある頬が咀嚼のたびに動くのが可愛い。撫でたい。愛おしい。
 じっくり眺めていると不審に思ったのか、一之倉が不思議そうに見上げる。
「食べないの?このお菓子、中身までサンタがいるよ」
「あ、ああ」

 無邪気に柄を見せてくる一之倉から焦点をずらしながら、こっそりと深呼吸する。
 するとお菓子の匂いに混ざって一之倉の匂いが鼻腔に届く。多分、距離の近さに加えて、この狭い空間が体温で温められてきたからだ。
 途端にこの小さな空間が落ち着かないものに変わる。そんな内心を知ってか知らずか、一之倉はさらに体を預けてくる。

「松本くんはもうサンタさんにお願いした?」
「サンタって……そんな年じゃないだろ」
「そう?オレはお願いしたけど。松本の時間をくださいって」
 だから今のがクリスマスプレゼントなんだよね。
 目を細めて笑う一之倉に、体中の血液が沸騰する。気付いた時には一之倉が手に持つそれを自分の口へ放り込み乱暴に噛み砕いていた。
 動いた拍子に触れたカーテンが冷気を伝えるも冷静になるほどの効果はない。しかし目を見開く一之倉の表情に、霧散していた理性が急ブレーキを掛ける。
 いくら付き合ってるとしても、一之倉が嫌なことはしてはいけない。
 唇が触れる先を、掴んだままの一之倉の手首に変える。上がる興奮と緊張に震える体を抑え口を開く。
 このプレゼントを用意できるのは一之倉だけだ。でも、触れる前にまず聞かなければ。

「いま……願い事ができた。一之倉と、キスがしたい」