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haru_haru0704
2024-12-30 19:54:39
8766文字
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酒に飲まれた男たち
CPなし 全年齢
哥舒臨とカカロと忌炎が仲良くお酒を飲む話
時刻は午後10時。
忌炎、哥舒臨、カカロの3人は珍しく今州城内にいた。
彼らが集うは、貸切状態になった酒場である。
店内には彼ら3人しかおらず、他の客はおろか店員すら1人もいない。
酒場のテーブルには、ずらりと酒や割り材が並んでいる。それから数十個のグラスと、申し訳程度のつまみも。
「さて、今日は・・・」
「氷はないのか」
忌炎は本日の主旨を説明しようと口を開いたが、哥舒臨はそれを遮った。
彼は既に酒瓶を物色し始めており、いかにも飲む気満々といった風情である。
「まずは説明させてくださいよ・・・」
呆れた、というように溜息を吐いた忌炎に対し、哥舒臨も負けじと呆れ返す。
「そんなもの、飲みながらやればいいだろう。たった数杯で酔うほど弱くもあるまい」
「まあ・・・そうですね、確かに。じゃあ氷を取ってきます」
そう言い残し、忌炎は店の奥へ消えていった。おそらく調理場にでも向かったのだろう。
その場に残された哥舒臨とカカロは、ひとまず椅子に座った。哥舒臨は角の席、カカロはその斜向かいという位置取りである。
「お前と飲むのは初めてか?」
哥舒臨は気になる酒瓶を手に取りつつ、カカロに言った。
「ああ、そうだな。初めてだ」
カカロは何となく手持ち無沙汰な気分で、並んだ酒瓶たちを眺める。
ウイスキー、ウォッカ、テキーラ、リキュール、ワイン。それと、あまり見たことのないような瓶もある。
まずはどれを飲もうか。
考えていると、忌炎がアイスペールを手に持ち戻ってきた。
「はい、氷です」
「まず何を飲む?スピリタスのショットガンか?」
「馬鹿言わないでください」
忌炎は冷たくあしらったが、哥舒臨は上機嫌のまま笑った。
「たっははっ!さすがに冗談だ!」
「最初はハイボールくらいにしておいてください。俺が作りますから」
「お前が作ったのは薄くて不味そうだから嫌だ」
「だから、最初は──」
「分かった分かった、俺が作る。いちいち喧嘩するな」
口喧嘩を始めそうになった忌炎と哥舒臨にうんざりして、カカロは思わず口を挟んだ。
まだ、今回ここに呼ばれた理由すら聞いていないのだ。別に急いているわけではないが、あまりにも話の進みが遅いとやきもきする。
「ああ、すまない。じゃあ頼む」
忌炎からアイスペールを受け取り、グラスにガラガラと氷を移していく。
忌炎は哥舒臨の正面、つまりカカロの隣に座ると、重たげに口を開いた。
「実はこの店、いわくつきなんです。今日はそれを何とかするために、集まってもらいました」
グラスにウイスキーと炭酸水を注ぎ、マドラーでかき混ぜる。
しゅわわ、がらごろ・・・という音をBGMに、忌炎は話を続けた。
「少し前、この店で深酒をした者が、何かに襲われて全治3ヶ月の怪我をしました。本人の証言によると、その何かは残像のように見えたとか。その後、研究院で解析をしてもらったところ、その残像の出現条件らしきものが判明しました」
3人分のハイボールを作り終えたカカロは、それぞれの前にグラスを置いた。
哥舒臨はすぐさまグラスを掴み、一気に半分飲み干す。
カカロと忌炎もグラスを手に取り、一口、二口と飲んだ。そして、テーブルに戻す。
グラスとテーブルが触れ合い、コトリと小さく音を立てた。
「──出現条件は、酩酊すること。つまり、酩酊している者にしか見えない残像なのではないかというのが、研究院の見解です」
シン、と店内が静まり返る。
哥舒臨はもう一口ハイボールを飲み、それから大声で笑った。
「ハッハッハ!面白い与太話だな!」
カカロも耐えられなくなり、肩を揺らして笑う。
「お、俺だって信じられませんけど!でもそういう見解なんですよ!」
忌炎は恥ずかしそうに叫ぶと、再びグラスを手に取りごくごくと飲み進めた。照れ隠しだ。
「その深酒をしたという奴が、妙な夢でも見て転んだだけじゃないのか?」
カカロも酒を呷りつつ問う。
酩酊した者だけが見える残像など、さすがに突拍子が無さすぎるのだ。
突然、店内に音場が現れたという方がまだあり得る。
「俺もそう思ったが・・・どうやら、被害者の体に爪痕のようなものが残っていたらしくてな」
哥舒臨はフンと鼻を鳴らし、ハイボールを飲みきった。
「飲める口実があるなら何でもいいがな。しかし酩酊するのが目的となると、ちんたらやっていては夜が明けてしまうぞ」
哥舒臨の言い分はもっともだ。なんせ、彼ら3人はかなりの酒豪である。
スローペースで飲んでいては埒があかない。
忌炎とカカロは哥舒臨に急かされ、ハイボールを飲み干した。
「次はビールを一気飲みでもするか」
「体に悪いですよ」
「仕方ないだろう。酔うのが目的だからな」
彼らは口々に言いながら、各自グラスを持ってビールサーバーへと向かった。
「ここの店長が、サーバーの中にある分は全部飲んでもいいと言っていました」
「よし。飲み干すか」
哥舒臨がいの一番にグラスをセットする。取っ手を手前に倒すと、小麦色の液体が注がれていった。
満たされたグラスを手に取り、その場に立ったままぐびぐびと勢いよく飲んでいく。
忌炎とカカロも同じようにグラスをビールで満たし、胃に流し込んだ。
10分もかからずサーバーを空にした彼らは、再びテーブルに戻った。
「腹の中がちゃぷちゃぷしている・・・」
忌炎は不快そうに顔を顰める。
まだまだ酩酊にはほど遠いというのに、こんなに腹がいっぱいで大丈夫なのだろうか。忌炎が不安に思っていると、哥舒臨が瓶を掲げた。
「やはりスピリタスが最適解だ」
「手っ取り早くはあるな」
カカロも同意する。
忌炎は溜息を吐いて、「いいでしょう。お付き合いしますよ」と言った。
ショットグラスに炭酸水とスピリタスを注ぎ、テーブルに叩きつける。
そのまま一気に飲み干すと、喉がカッと熱を帯びた。
熱はそのまま食道を通り、胃へと落ちていく。
「ろくに味がしない。次は白酒で割って飲むぞ」
「白酒って度数いくつでしたっけ」
「60%だな」
「それ、割ってないな・・・」
「何を言っている。度数は多少下がるだろう」
何だかんだと言いつつも彼らはショットグラスにスピリタスと白酒を注ぎ、テーブルに叩きつけ、そして飲み干した。
「さすがにキくな」
「白酒は初めて飲んだ。甘いんだな」
「つまみが欲しくなる味だ」
「豆ならあるぞ。少しだけだが」
カカロの言う通り、テーブルにはアーモンドやピーナッツが少しだけ置いてあった。
哥舒臨は3杯目の白酒割りスピリタスを作りつつ、不満げに口を尖らせる。
「全然足りん。俺は腹が減ってきたぞ」
「何か作るか」
「冷蔵庫の中のものは好きに使っていいらしい」
「分かった。何か適当に作ってこよう」
カカロは立ち上がり、ワインボトルを片手に調理場へと向かった。
彼は何故ワインを持っていったのか?それはもちろん、料理を作りながら飲むためである。
冷蔵庫の中から卵とベーコンを取り出し、そのあたりに適当に置いて、フライパンを火にかける。
フライパンが熱されるまで、多少暇だ。その間にワインを飲もう。
「ワインオープナー・・・まあいいか」
カカロは面倒になり、影を呼び出してボトルネックの部分を切断させた。
切り口が鋭くなっていて多少危ないが、唇をつけなければ問題ないだろう。
口に直接注ぐようにして、赤ワインをごくごくと飲んでいく。
そうしている内に、フライパンがしゅうっと音を立てた。
カカロは卵を掴み、軽く叩きつけてヒビを入れ、片手のままパカリと割った。
その動作を何回か繰り返し、どんどんフライパンに卵を落としていく。
「あ・・・ああ・・・」
カカロは思わず情けない声を漏らした。
4個目までは順調に卵を割れていたが、5個目で手に力を入れすぎてしまったのだ。
そのせいで卵の殻がぐしゃりと潰れ、小さな破片がいくつかフライパンに落ちてしまった。
「・・・まあ・・・いいか・・・」
カカロはそのまま卵をかき混ぜた。
多少殻が入っていたところで、死にはしない。
一方、哥舒臨と忌炎はカクテル作りに勤しんでいた。
しかし、彼らにまともなカクテルの知識は無い。なんか色々混ざってる酒、程度の認識である。
「うむ、まあまあじゃないか」
「案外飲めますね」
彼らは仲良くグラスを傾けている。
その中身は、ウォッカ、ジン、テキーラ、レモンジュース、アブサンを適当な配合で混ぜたものである。
忌炎はアーモンドを摘もうとして、一度失敗して落とした。二度目は成功し、ようやくアーモンドを口に運ぶ。
「そういえば、どこぞの国では卵を使ったカクテルを飲むらしい」
「卵ですか?あんまり美味しくなさそうだな・・・」
「試しにやってみるか」
哥舒臨はグラスをドンと置くと、調理場に向かって大声を出した。
「カカロ!卵をひとつ持ってこい!」
カカロはスクランブルエッグとベーコンの載った皿を右手、生卵を左手に持ち、テーブルへと戻ってきた。
ワインボトルはというと、調理場に置き忘れられている。
「随分とたくさん炒めたな」
「冷蔵庫にほとんど何も入っていなかったから・・・それくらい食うだろう、お前なら」
「任せておけ」
「で、生卵は何に使うんだ?」
哥舒臨はカカロの手からひょいと卵を取ると、空になったグラスの中に割り入れた。
「何が合うと思う?」
「卵といえば、プリン・・・つまり牛乳・・・?」
忌炎はこてんと首を傾げながら提案する。
カカロは着席し、「牛乳は冷蔵庫になかったぞ」と言った。
「じゃあ、牛乳に近い・・・チョコレートリキュールとか」
「近いか?」
哥舒臨も首を傾げつつ、ひとまずチョコレートリキュールを生卵に振りかけてみた。
「次は」
「果実酒はどうだ?チョコレートには合うだろう」
カカロの提案に頷きつつ、哥舒臨は適当な瓶を手に取り、グラスに注いだ。
黒っぽい赤色をしたそれは、さくらんぼが漬け込まれたものだ。
「ずいぶん甘そうだな。とりあえずレモンジュースとウォッカで味を調整して・・・」
「胡椒をかけるのはどうですか?ピリッとしたのがアクセントになるかも」
マドラーでよくかき混ぜた後、仕上げに胡椒をひと振り。これで完成だ。
哥舒臨はグラスを掴み、それを一口飲んだ。
「ハハハ!まずい!」
「卵以外はそこそこ美味そうな組み合わせだったがな・・・」
「じゃあ、俺は卵抜きのを作ってみます」
哥舒臨はスクランブルエッグを食べ始め、カカロはコニャックをグラスに注いで飲み、忌炎はカクテル作りに挑戦している。
彼らの宴は、まだまだ終わらない。
「ほら、俺の炎で燗をつけてやったぞ」
「ああ、いただきます・・・あっつ!」
「大丈夫か?」
「水をくれ」
透明な液体で満たされたグラスを差し出され、忌炎はそれを呷った。
何だか、味がある気がする。
「この水、うまいな・・・」
「ハハ、それ酒じゃないのか?」
「グラスがありすぎて、どれがどれだか」
「この際なんでもいい」
「で、味はどうだ」
「水のですか?」
「燗のだ」
「まだ熱くて飲めません」
「冷凍庫にバニラアイスがあったぞ」
「食う」
「俺も」
カカロは1ℓ容器の蓋を開けた。
酒の匂いで満たされた空間に、甘く華やかな香りが立つ。
彼らは各自スプーンを持ち、容器から直に食べ始めた。
「冷たくてうまい・・・」
「ラム酒をかけるとうまいらしいぞ」
哥舒臨はラム酒の瓶を傾けた。
どぽぽ、と大量のラム酒がバニラアイスへと降り注ぎ、その様相はまるで洪水のようである。
「あ〜あ、かけすぎですよ・・・」
「だが、たしかにうまいな」
哥舒臨は溶けたバニラアイスとラム酒の混合液を飲み干すと、忌炎に問いかけた。
「そろそろ限界か?」
「いや・・・まだ、いけますよ・・・そこのシャンパン開けましょう」
「俺が開けよう」
カカロは先ほどと同じように、影にボトルネックカットをさせた。
その途端、シャンパンが噴き出す。
「うわ!」
忌炎は慌ててボトルを手に取り、瓶に口をつけた。
シャンパンが強制的に彼の口へと流し込まれていく。
「おお、いいぞいいぞ。そのまま一瓶飲み干してしまえ」
哥舒臨は拍手で無責任に応援した。
哥舒臨の歌に合わせ、3人は踊っていた。
忌炎は優雅な舞踊、カカロは派手なストリートダンス、哥舒臨はセクシーに腰を振り、三者三様に楽しんでいる。
「頭がくらくらする・・・」
忌炎はひらひらと舞い踊り、服をなびかせる。くるりと回転した拍子に転げそうになり、青龍が彼の体を支えた。
青龍は彼の周囲を飛び回り、忌炎はまるで洗濯機の中にいるかのようにぐるんぐるんと回転し始めた。
「青龍、おちつけ・・・あぁ・・・」
「・・・・・・」
カカロは無言で激しく体を揺さぶり、変則的なステップを踏んだ。
彼の目は据わり、どこか遠くを見ている。
時折がつんと椅子に体をぶつけているが、特に痛みを感じている様子はない。
彼の影も不意に現れたり消えたりして、ダンスを楽しんでいるようだ。
「バイバイサヨナラRockin Lookin ベリー!」
哥舒臨は大声で歌いつつ、腰を前後に振りたくる。
忌炎やカカロと比較すると、彼はまだ酩酊が浅いと言えるだろう。しかし無事というわけではなく、たまにふらついている。
彼は運動中の水分補給とばかりにテキーラを呷り、上機嫌で歌い続けた。
「うっ・・・おぇ・・・」
忌炎はテーブルに突っ伏し、吐き気を堪えていた。青龍洗濯機が相当にキいたのである。
その近くで、哥舒臨とカカロはテーブルクロス引き勝負をしていた。
テーブルクロスの上にいくつか酒瓶をのせて、クロスを引き抜くだけ。いたってシンプルな遊びである。
「まずは俺から・・・」
カカロが思い切りクロスを引っ張る。
ガチャン!と音を立て、酒瓶たちは無惨にも落下し割れた。
周囲に、ぷんと酒の匂いが立ち込める。
「次は俺だな」
哥舒臨が思い切りクロスを引っ張る。
ガチャン!と音を立て、酒瓶たちは無惨にも落下し割れた。
周囲に、ぷんと酒の匂いが立ち込める。
「失敗だな」と、彼らは笑い合った。
「う〜〜ん・・・?カカロがふたりいる・・・?」
すっかりダウンしてしまった忌炎が、テーブルに突っ伏したまま何やら妙なことを言い出した。
哥舒臨は面白げに身を乗り出し、忌炎に問う。
「カカロが2人?」
「くろいカカロと・・・しろいカカロが・・・」
「こいつはいつも、黒いし白いだろう」
「フ、ッ・・・!」
哥舒臨の言葉が妙なツボに入ったカカロは、くつくつと笑った。たしかに、服は黒いし髪は白い。
「んん・・・?なんだ、くろいカカロ・・・くすぐったいぞ・・・」
忌炎はふにゃふにゃと笑っている。
カカロどころか哥舒臨だって彼の体には指一本も触れていないというのに、一体彼は何を感じ取っているのだろうか。
「ハハハ、随分と酔って──」
言いかけ、哥舒臨は笑顔のまま固まった。
机に突っ伏した姿勢の忌炎が、不自然な姿勢で立ち上がったからだ。いや、無理矢理立たせられたという方が正確か。
その姿はまるで、脇の下に手を差し込まれ、上に持ち上げられた猫のようだ。
──『何か』が、忌炎を持ち上げている。
「おい、どういうことだ!」
「ま、まさか・・・酩酊しないと見えない残像・・・!?」
哥舒臨とカカロは慌てた。
そんな2人をよそに、忌炎はふにゃけた笑いを浮かべている。
「んん〜・・・やっぱり、そんな変なざんぞうなんていませんでしたね〜・・・」
「いる!いる!そこに!」
「その黒い俺は俺じゃない!」
「カカロはカカロじゃない・・・?」
忌炎はきょとんとした顔で首を傾げている。
何が何だか分かっていない、という顔だ。
「ダメだ、埒が明かん!俺たちでどうにかするぞ!」
2人は忌炎の背後に回り込み、『何か』がいると思しき位置に向かって手刀を繰り出したり、手で探ったりした。
だが、触れられない。
確実に『そこ』にいるのに。どうやっても干渉できない。
「どうすれば・・・!」
「酒だ!酒が足りんのだ!」
哥舒臨はテーブル上の適当な瓶を掴み、一気に飲み干した。
その瓶はアブサン!度数85度!
しかし、まだ足りぬ!
「次!」
スピリタス!度数88度!
「うぐ・・・!さすがに、キツい、な・・・!」
早く何とかしなければ、という焦りが哥舒臨の心拍数を引き上げる。血流が速くなり、アルコールが体中へと回っていった。
そして、視界がぐらぐらと揺れ始める。
──酩酊だ。
「ハァーッ・・・!見える、ようになったぞ・・・!」
今や哥舒臨の目には、忌炎を持ち上げる残像らしきものがハッキリと見えるようになっていた。
それは、二足歩行の黒い狼のような姿をしている。
なるほど、黒いカカロという表現もあながち間違いではないかもしれない。
「あれが、黒い俺か・・・うっぷ・・・」
哥舒臨同様に酒を流し込んだカカロも、残像の姿が見えるようになっていた。
吐き気を堪えつつ、戦闘態勢を取る。
そのまま残像に斬りかかろうとして──後ろに一歩、二歩、三歩。最終的にバランスを崩し、後ろに倒れ込んだ。
「何やってる、だらしない奴め・・・」
哥舒臨は自分の背に手を回し、大剣を掴もうとした。
しかし、そこには何もない。
彼は何度か虚空を掴んだ後、ようやく自分が大剣を持ってきていないことに気づいた。
「チィッ・・・!仕方ない、殴るか・・・!」
よた、よた、と歩を進める。
残像は警戒しているのか、ギィィギィィと耳障りな鳴き声を上げた。
「う〜ん、うるさいな・・・」
持ち上げられたままの忌炎は青龍を呼び出し、周囲を飛び回らせた。その動きには規則性がなく、まったく無作為だ。
「おい!やめろ!」
ゴウゴウと風が吹き荒れ、哥舒臨の歩みを阻む。
それでも彼が一歩踏み出そうとした瞬間。青龍が彼の足を攫った。
「何ッ・・・!?」
彼は転倒し、残像を巻き込みながら床へと伏した。
「ふぎゅ!」
残像に手を離された忌炎は、顔面からテーブルに突っ込む。
顔面を強打したショックからか、純粋に気絶したのか、青龍は消えた。
そのまま忌炎は動かなくなった。
「うっ・・・!おぇえ゛・・・!」
一方哥舒臨はというと、転げたせいで気持ち悪くなり嘔吐していた。
吐瀉物を吐きかけられた残像が、ギャアア!と叫ぶ。
暴れた残像に押し除けられ、哥舒臨は横へと転がった。
「ハァーッ・・・!ハァーッ・・・!」
吐いてスッキリした哥舒臨の頭の真横に、ガツッ!と何かが突き刺さった。
カカロの長刃だ。
「あァ・・・?」
哥舒臨は上を見上げた。カカロは長刃を杖にしているが、それでも足元がおぼつかずフラフラしている。
「やったか?」
「いや・・・外した」
「外すな、この酔っ払いめ!」
「お前も酔っ払いだ」
「で、奴はどこに行った」
「そこにいる」
カカロは虚空を指差した。
虚空。然り、虚空である。
残像はどこにもいない。
「おい、見えんぞ。なぜだ」
「知るか」
「ハッ・・・そうか、酒か、酒が足りんのか」
床にザクザクと何度も長刃を突き刺しているカカロを尻目に、哥舒臨はテーブルに縋りつくようにして立ち上がった。
酒。酒がもっと必要だ。
適当に瓶を引っ掴んで呷る。
味が分からない。今飲んだのは何だ?いや、何だっていい。とにかく酩酊だ。
哥舒臨の目は、再び残像を捉えた。
「おい、哥舒臨!つかまえた!」
ようやく攻撃を当てることに成功したカカロは、大声で哥舒臨を呼んだ。
見ると、残像の脚に深々と長刃が突き刺さっている。
「よくやった!そこから離れろ!」
「む・・・わかった」
カカロは長刃から手を離し、フラフラと後ろへよろめいた。そして、またもやバランスを崩して倒れる。
ガツン!と激しく後頭部を椅子にぶつけ、カカロはぐったりと項垂れた。
「手間を、かけさせやがって・・・!」
哥舒臨は腕に黒炎を滾らせる。
そのまま、床に倒れ込むようにして残像を殴りつけた。
床にこぼれていたものや、哥舒臨が吐いたアルコールまみれになっていた残像が、黒炎によって激しく燃え上がる。
ギィアアアァ・・・!という断末魔を聞き届け、哥舒臨は達成感を感じつつ意識を失った。
***
ズキン・・・ズキン・・・ズキン・・・!
「・・・ゔ・・・?」
哥舒臨は激しい頭痛によって目を覚ました。
──頭が、痛い。割れそうに。いや、もう割れて中身が出ているのかも。
「哥舒臨さん、大丈夫ですか・・・」
ひょこ、と視界に忌炎が現れた。
彼もまた、頭が痛いらしく青ざめている。
「・・・どう・・・なった、残像は・・・」
「ええと・・・多分、倒したみたいですね」
忌炎に助け起こされ、哥舒臨は周囲の惨状をようやく認識した。
床には無数の穴が開き、一部が焦げて真っ黒になっている。
かろうじて無事な箇所も、酒や吐瀉物で汚れていた。おまけにガラスも散乱している。
「忌炎、頭が痛い・・・二日酔いはどうすれば治る・・・」
カカロはテーブルに肘をつき、両手で頭を押さえていた。まるで世界の終わりが来たような体勢と声色である。
「ええと・・・二日酔いは・・・迎え酒、かな・・・?」
なんということだろうか。
忌炎はまだ、正常な判断力を取り戻していなかった。
「なるほど、迎え酒」
「飲むしかあるまい」
そして、哥舒臨とカカロも。
地獄の飲み直しが、今まさに始まろうとしている。
それを止める者は、誰もいない──。
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