スヲマシ
2024-12-30 13:32:42
1595文字
Public 探偵パロ
 

あの子の憩いの場

柴チヒ探偵パロのベース部分に近く、シャルちゃんとの関係性を書いた短い物です。
Twitterの文庫メーカーで上げていました。cp要素はこの回に限ってはありません。

気持ちのいい秋晴れの日差しが小窓から降り注ぐ。
「おはようございます。朝ごはん出来てます。今日は遅起きでしたね」
 普段より遅い時間、あくびをしながら洗面所に登場した柴に声をかける。
 毎朝のタオル交換をし終えたけれど、チヒロは柴がいるなら、と何となくその場に残った。そのことに柴は気づかない。
「おはようさん。ごはんありがとう。昨日ちょっと事務処理しとったら予想外に手間取ってなあ」
「事務処理こそ助手を頼ってほしいんですけどね」
「そういう訳にもいかんやろ~」
 助手を名乗るからには、とチヒロは小さく抗議したけれど、当然のように流された。ここで食い下がっても柴は折れない。そのことが分かっているから、長い髪を後ろでくくって洗顔する姿を横目に話題を変える。
「柴さん美意識高いですよね」
 その言葉に化粧水を塗りながら苦々しい顔をした柴がチヒロの方を振り返る。
「ちゃうんよ。こっちは四十路やから。若返りとは言わんでも、現状維持が大事やから」
「そういうもんですか」
「せやで。チヒロくんも今は若いからええけど、歳取ったら分かるよ。あ、そん時俺おじいさんやから人のことどころやないな。元気かな?」
 口をついた瞬間、しまったと思った。
 今度はチヒロが苦い顔をする。チヒロは国重が巻き込まれた事件以来、近しい人の死を連想させる言葉には敏感になった。
「ごめん、一言余計やったね」
「こちらこそすみません」気まずい空気が流れる。
 紅い大きな瞳に捕えられない様に目線を逸らした柴は、探偵をする自身にチヒロが見習い兼助手を名乗り出て来た日を思い出していた。
 さっきのように想像でも人の死を悼む心を持ち合わせるような優しい彼は、凄惨な現場に似合わない。
 この仕事は人の役に立つものばかりではないし、危険な目にだっていくらでも遭う。刑事の薊と繋がりがあるこの探偵事務所は、尚のこと危険な事務所だった。
『俺が六平の事件の犯人を必ず探し出すから。チヒロくんは社会の裏のことや危ないことに関わらんで済むような、そんな道で生きていってくれ』
 と、何度も諭した。
『けれど、父さんが殺された事件の謎だけは解決しなければそれ以外の生きていく方法がない』そう言い切る程にチヒロの決意は固かった。
 その姿に一人で危険に突っ込んでいかれるよりは自分の近くにいてもらった方がいいと判断して、結局柴の方が折れた。
 双方無言の緊張を打ち破ったのは、
「チヒロいるー?」
 事務所の戸を叩く音と共に響いた元気な幼女の声だった。
「お、シャルちゃんや。いつもより早く来たな」
 気まずい空気を吹き飛ばしてくれた彼女を迎えるべく、二人で洗面所を出る。
 シャルは、事件に巻き込まれていたところをチヒロが助けた近所に住む幼子で、随分と彼に懐いていた。
 彼女は平日の事務所が暇な時間を熟知していて、その頃を狙って遊びに来るのを習慣にしている。
 幼さに見合わない聞き分けの良さで、依頼者が突然来たり、調査が忙しそうであればそれをすぐに察する。そして気づいた途端、家に帰るか別室の二人の住居へと身を隠す。
 情報屋のヒナオとも仲がいい所以か、野生の勘が鋭いのか、・・・事件の影響なのか。
 仕事の邪魔になるだとか、そういったことはほとんどなかった。
 戸の前からは早く開けて欲しそうな足踏みが聞こえる。その音に少し笑顔になってチヒロは小走りで向かった。
 廊下の先を行くチヒロの背中と、すりガラス越しの小さなシルエットを見て柴は思う。
 ヒヤヒヤする面はあれど、自分自身助けてもらっているのもまた事実で、こうして一人だけでは救えなかったかもしれない命を思うと、何とも言葉にできない気持ちになる。
 戸を開けた先にいたシャルは、過去の事件のことなど思わせない笑顔だった。
「今日は何する?私、アイス食べたい!」