こびゅ
2024-12-29 23:39:55
4514文字
Public JB
 

ねこさめさんが毛繕いをして貰う話

X(Twitter)にてさいさん(https://x.com/nanamimiBBB)発祥のけだまししさんとねこまたさめさんのお話。(さいさん了解済)
ちょっと大きくなったけだまさんが、ねこまたさめさんに毛繕いをするお話。
元ネタツリー→ https://x.com/nanamimiBBB/status/1815347823149486259

 一日の諸々を終えて、やっとひと息つける時間となった夜。
 村雨はひゃー! と元気な声で呼び止められ、そっと膝をついて聞く体制に入った。
 出会った頃からは見違える程毛並みも良くなり、ふんわりと一回りほど大きくなった毛玉である。
「どうした」
「ひゃー! ぴゃー!!」
……毛繕いをしたい?」
 全身での訴えに、村雨は思わず首を傾げた。
 毛繕いは常日頃からやっていることで、毛玉との大事なコミュニケーションの手段であり大事な癒やしの時間だ。そもそも野生でない我々は普通に風呂に入るので、身を綺麗にするという意味での毛繕いは必要ではない。
 必要ではないけれど、毛玉に合わせて猫の姿に戻り小さな体を舐めてやるのも、くすぐったさに耐えながら小さな舌で一生懸命舐められてやるのも、村雨が大層好んでいる時間だった。
 途中で疲れてころんと眠ってしまう毛玉を、丸めた体で守るように抱いて共に眠りに落ちるまでを含めて。
 だが、どうにもそのいつもの誘いではないらしい。
 毛玉曰く。
 最近人型への変化を会得し、毛玉は気付いた。
 人型の自分はそれでもまだ子供の姿だが、人間の子供は猫よりも大きいのだ、という事実に。
 自分が村雨より大きいことにまず驚いたと全身を使って語った後、毛玉はお願いしますと深々と頭を下げる。
 いつも時間が掛かり過ぎて毛繕いしきれずに寝てしまうから、人型でしっかり村雨に毛繕いしたいのだ! と。
「なるほど。確かに人型のあなたと猫姿の私ならあなたの方が大きいし、毛繕いも容易だろう」
 少しずつ教えていた人型への変化も数十分程度なら維持出来るようになったので、その覚えの良さに鼻が高いと友人達に自慢したのも記憶に新しい。
 そんな毛玉からの申し出を、村雨が断る理由はどこにもなかった。
「分かった、部屋に来なさい」
 微かに笑んで了承すれば、毛玉はひゃー!! と飛び上がって喜びを表現する。
 その姿に笑みを深くしながら、村雨は毛玉がついてこられる速度で自室に向かった。
 部屋着を脱いで邪魔にならない所に寄せると、ベッドに乗り上げてするりと姿をほどき、真っ黒な猫又に戻った村雨はおいでと一声鳴く。
 するとベッドの下からぴゃー! と元気な返事が届き、暫くしてぽんっと軽快な音と共に人間の子供が姿を表した。
「出来た!」
「ああ、上出来だ。服は……私の部屋着を被っておきなさい」
「うん!」
 服ごとの変化はまだ難しい。村雨自身は出来るが、日々の生活では余程の非常事態でない限り、常に服ごと変化する理由もなかった。
 こちらの部屋にも子供用の服を置いておくか、と思案しながら、獅子神の姿を見る。
 毛並みと同じ黄金色の髪をした、人間でいえば十歳程の白皙の美少年。仔狐らしく耳が大きいしまだ尻尾も一尾しかないが、長ずればどんな雌も振り返るような立派な狐となるだろう。そして――
 遠い先の予感に胸の何処かがしくりと痛むのを無視しながら、村雨は二股に別れた尻尾を揺らめかせて獅子神を誘った。
「頑張るからな、村雨」
「ああ」
 これから戦いにでも赴くような真剣な顔で宣言するのが可愛らしい。ベッドの上にあぐらをかいた子供の腕へ不器用に抱かれてやって、まずは額をぺろりと舐められた。
 確かにいつもより大きく梳られるので、くすぐったさよりも気持ちよさの方が勝る。
……上手だ、そう……毛の流れに沿って」
「ん、んー」
 耳、後頭部、顎下から頬のあたり。さりさりと舐められ、時にやり方を指示しながら村雨は獅子神に身を任せた。
 普段毛玉にされる時は、その一生懸命さを好ましくは思っても、毛繕いが毛繕いになっているとは言い難い。
 だが今まさにきちんと毛繕い出来ていて、やり方自体は毛玉の時と同じで、ちゃんと学んで身に着けているのだという実感に満足した。
 やがて背中が終わり、ころんと村雨はベッドに転がされる。両の前足を丁寧に、肉球の間まで舐められて、こそばゆさに指がぎゅっと丸まった。
 真剣で必死な獅子神はこちらの様子には全く気付かず、そのまま胸から腹へと取り掛かっていく。
 ぺろぺろさりさり、気持ちよさに身を任せていた村雨だが、突然の刺激にカッと目を見開いた。
「んにゃぁ!?」
……? 村雨?」
「い、いや。大丈夫だ、続けなさい」
「うん」
 何の疑問もなく、しかし何かしてしまったかと不安そうな表情を覗かせた獅子神に、大丈夫だと頷いてやる。
 よもや普段自分でも全く意識しない乳首を舐められて、鳴き声が出てしまったなど知られては養い親の沽券に関わるからだ。
「でも、いやだったら言ってくれよ。オレ、村雨を気持ちよくしたくてするんだから」
「勿論だ」
 余談だが、猫の乳首は個体によって数が違う。平均的には八個だが六~十二個と幅広く、奇数の場合もある。
 村雨は八個であり、つまり獅子神の真剣さからすると、あと七回は同じ衝撃に耐えねばならないということだ。
 そうして再び腹を滑られるが、分かって身構えていれば大丈夫の筈――だった。
 しかし。
「んにゃ、ぁう、んあっ」
「村雨? いや? なんか痛かった?」
「ちが、へいき……ッみゃっ」
 爪の先にも満たない突起を、腹の薄い皮膚を舐められて、今まで感じたことのない気持ち良さに村雨は抑えきれない鳴き声を上げる。
 認めたくはないがこれは性感を含んだものであり、獅子神には絶対悟られてはいけないものだった。
 獅子神は、自分に対する思いやりで毛繕いをしてくれているだけ、なのだ。
 それをして快感を得ているなど鬼畜の所業であるし、かといって中断させればやはり至らなかったのかと獅子神に思わせてしまう。
 真摯に慕ってくる毛玉に対し、不誠実なことはしたくなかった。
「ッ、ァ、にゃ、ん」
 どうしてもぴくぴくと震える体を、どうかただ毛繕いが気持ちが良いからだと思ってくれますように。
 そう願いながら腹を舐められ終えて、ふ、ふ、と呼吸を整えた村雨はうっかりと気を抜いた。
……はぁ……ッにゃあ!?」
 続いてべろ、と舐められたのは一部の哺乳類オスが保持している睾丸を内包した袋状の皮膚で出来た器官。
 村雨は猫の族なので、つまりは――にゃんたまである。
 胸、腹が終われば次は下半身に至るのは自明の理であったが、流石にそんなプライベートゾーンを舐められるとは思ってなかった。
 驚きに硬直する村雨を他所に、今度は足に取り掛かられる。うっかりか、わざとか。いや、獅子神がそんな事をするわけがない。
 思考を混乱させて動けずにいると、今度はこてんとうつ伏せにさせられて、何故か尻を上げさせられた。
 なるほど、あとは尻尾で終わりか……とホッとした瞬間、尻の付け根の――排泄に関わる――あらぬ場所を思い切り舐められる。
「んにゃぁんっ! ふにゃ、ぁ?! な、なぜっ!?」
 意識せず出た何故の言葉に、尻尾へと舌を這わせながら獅子神が答えてくれた。
「オレ、ずっと覚えてるんだ。拾われたばっかりで汚かったのに村雨はオレの全身を舐めてきれいにして、体をくっつけて温めてくれただろ」
 だから。
「早く大きくなって、ずっとこうして同じ様にしたかったんだ。大好きな村雨に、ちゃんと毛繕いしたくてさ」
 そんな言葉を聞いてしまっては、今すぐやめなさい、と獅子神を制止する事は出来なかった。
 拾ったばかりの頃の獅子神はボロ雑巾の方がマシという有り様で、本当に弱りに弱っていたのだ。
 まずは体を温めてやらねばならなかったし、スポイトで水分を与え、少し体力が回復したら噛み砕いて柔らかくした餌を口移しで少しずつ与えてやった。
 そして排泄もうまく出来なかった時は、確かに舐めて促してやったりもしたのだ。
 自分がして貰って嬉しかったことを、同じ様に返したい。
 その気持ちは本当に嬉しかったし、出来れば損ないたくはなかった。
 あと少し、あと少しと耐え、やがて別れた尻尾の境目もすっかり毛繕いをし終えた獅子神が、やりきった満面の笑顔で問う。
「どうだった? ちゃんと出来た?」
……ああ、ちゃんと出来ていたし気持ち良かった。ありがとう、獅子神」
「よかっ…………ひゃー」
 返事の最中にぽんっと音を立て、獅子神が毛玉に戻った。ぴぴぴっと戻った衝撃に耳と尻尾を震わせ、満足げに笑い、そのままぱたんと部屋着に埋もれたままシーツに倒れ込む。
 そうしてすう、と寝息を立て始めたのを見て、村雨は大きく大きく溜め息を吐いた。
 しゅる、と人間の姿に成ると、トイレに向かうべく前屈みになりながらベッドから降りる。
 クソ、という舌打ちはどうにもならない自身へ向けてのものであり、呑気に眠りこける毛玉へ向けて八つ当たりだ。
 村雨の番になる! と宣言して憚らない毛玉がこんな事をしたのだから、本当にしなければゆるさんからなと思う反面――叶うものでもないのだろうな、という思考もある。
 獅子神ならば番にしても良いと思った村雨が、獅子神を番にしたいと願い始めたのはいつからだっただろう。
 まだ幼い仔狐なのに。
 いずれ手放して立派な家族を持つことを、祝福しなければならないのに。
 ――村雨が、兄を見送った時のように。
 もう一度舌打ちすると、早く体をきれいにしてベッドに戻るべく、村雨は真っ暗な廊下を進んだ。

 ※ ※ ※

 ぴゃー……
 しょぼくれて小さくなっている毛玉を見ながら、真経津も叶も天堂も声を掛けられずにいた。
 斯々然々と、先日毛玉が人型になって村雨を毛繕いした話と、その後に性教育・真としてプライベートゾーンに関しての勉強をした話と、それとなく人型での毛繕いを避けられている話をされてからの今、である。
 どっちも悪くない。何なら村雨は大変だな~! と本人がいれば揶揄する類のネタですら、ある。
 だが、いやだったのかな、きらわれたのかな、と真剣に落ち込んでいる毛玉を前にすれば、流石にそんなことも出来なかった。
 村雨は獅子神を〝私の〟養い子だと思っているが、この三人にとってもいずれ成長することを願う逸材なのだ。理由はそれぞれ、違うとしても。
……獅子神」
「ひゃー……
「神である私が誓って言うが、村雨はお前を嫌ったりなど絶対にしない。ただ大きくなってきたから、相応の扱いをしているだけだ」
「そうそう! あと、敬一君はちょっと普通の狐と育ち方が違うからな。礼二君も読み違えたのかもだし」
「ぴゃー」
「うんうん。村雨さんだって、そのままで普通に毛繕いするのは許してくれてるんでしょ?」
「ひゃー」
 それぞれに慰めながら、でもこれはこれとして後で村雨本人では遊ぼう、と考えるいつもの面子も、流石に獅子神が言わなかったことには気付けない。
 毛繕いで鳴き声を上げる村雨を前にした獅子神が、ずっとドキドキもやもやしていた事実にも。
 そして、もっといっぱいそうしたい、という欲が芽生え、それが大きくなり続ける未来も――知る由も、無かった。