いを
2024-12-29 22:14:11
2691文字
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タグまとめ12

刀神
モイラと鼎と糸車
それぞれフォロワーさんのお子さんお借りしています。

あまてる(刀神/山蕗さんと清親)

「勇はぶらっしんぐ、上手いな」
 あたたかい日に清親は勇の足もとにするりとやってきて、ブラシで梳いてくれと甘えるように鳴いてみれば、彼は苦笑しながらその手に愛用のブラシを持って毛並みを梳いてくれるのだ。それを学んだ清親は、今日も機嫌が良い。
 二又のしっぽをふわふわと揺らしながら、喉が知らぬうちにゴロゴロと鳴る。
「眠くなってきたぞ……
「今日は天気がいいからね」
 そんなすてきな声と言葉を聞けば目が細まった。自分の毛並みがふわふわになっていく気がして、ほかの刀遣いや刀神に自慢したいくらいだ。花多恵に見せたら喜んでくれるだろうか。鈴ちゃん、お日様のにおいがするわねと目を細めて笑ってくれるだろうか。
「勇と花多恵はいつもきれいにしてくれるから鈴は嬉しいんだ」
「それは光栄だ」
 くすりと笑った声が聞こえる。清親は猫ではなく刀神だけれど、猫みたいに一日過ごすのもよいかもしれないとひとつ、あくびをした。


蒼穹(刀神/優雨ちゃんと菊司)

「おいーす。七海どの、いつにも増してがんばってんねぇ」
 真剣な表情の横顔を腰を曲げて見下ろす。こちらの言葉は耳に届いていないようだった。真剣にヒビの入った豊和を見下ろしている。そして手元を見る。修繕か。〝なおす〟ことも峰柄衆の大切な仕事だ。菊司は手持ちぶさたにビニル袋をふらふらと揺らした。この中におにぎりとチョコレートが入っている。もちろん、コンビニで買ったものだ。ガサガサという音を聞いてもびくともしない優雨は、はたして誰に似たのだろうか。喉の奥で笑ってみせると、はっと顔を上げた。
「せ、清陵院さん……! いつから」
「んーと、一分三十秒くらい前から」
「す、すみません、気付かず……
 頭を下げようとする優雨を手で制して、「謝っちゃだめだよ」と笑った。
「僕のほうこそごめんね。邪魔して。ずいぶんがんばってるって言ってたから、差し入れ。はい、どーぞ」
「ありがとうございます……。あ、おにぎりとチョコレート……
「きみんちのお米よりは劣るかもだけどね」
 ふふふと笑うと、優雨は誇らしそうに、しかし照れるように笑った。とても、若者、という感じだ。
「そんじゃ。七海どの、ファイト」
「は、はい!」
 作業部屋のノブをそっと捻る。
 彼女の背中はまだ小さいかもしれないが、将来必ず化けるだろう。その日を菊司は楽しみにしている。


青と緑(モイラと鼎と糸車/恭介さんと春木)

 手首の、青白いような、緑色のような血管を見た。恭介の包丁を持った手が止まる。手もとにはしなびたにんじんがあって、いびつな断面をさらしていた。
 どうされましたか、というような視線に了はかぶりを振った。べつに何でもない、ただ手もとを見ていた。手首にあらわれた、からだじゅうに伸びる血管を。
「手首」
 しばらくじっと見下ろして、単語だけ呟く。恭介は手を止め、包丁の刃を左に向けてまな板の上に置いた。なにも言わず、右の手のひらを了に差し出してくる。それを両手で包んで、一生懸命に見えるくらいに見下ろす。親指で浮き出た血管を撫でる。手首の筋肉が少しだけ固くなる。シャツから伸びた手首は少し白い。日に焼けない場所だからだろうか。
「あんたの手首は俺よりしっかりしている」
「そうでしょうか」
 原稿用紙に一日中向かっていても、彼ほど筋肉はつかない。三十半ばにもなれば、付きづらくなるのだろうか。分からないが筋肉がきちんとあれば、健康的にも見える。そう言おうとしたけれどうまく言葉にならなかったのでくちびるは閉じたままだった。
「では、たくさん召し上がっていただかないと」
 恭介は暗に言いたかったことを先回りするように言った。


うつし(モイラと鼎と糸車/ユリ清さんと春木)

 了は足が遅いのでのろのろと歩くしかないのだけれど、彼は――ユリ清は歩調を合わせてくれているのか、とりあえず同じように歩いてくれる。
 街中を歩いていると、ふと甘い匂いがしてきた。嗅いだことがあるような、ないような気がするが「甘い」と理解したのだから、一応嗅いだことはあるのだろう。
……チョコレートですね」
 ユリ清がぽつりと呟き、彼の視線の先にはあたらしくできたと思われる洋菓子店があった。洋菓子専門なのだろうか。珍しいと思う。
「チューリップの球根じゃないだろうな」
 今はどうか分からないが、チョコレートの代替品は見たことがある。ブドウ糖と植物油、バニラが混ざったにおいを覚えている。食べたことはないが、あれはおいしいものだったのだろうか。
「せっかくですし、買ってみますか……
 異様に輝いているまあたらしい床を踏むのは少し難しかったが、彼が辛抱強く待ってくれたので二人で並ばれたチョコレートと洋菓子を見つめた。こっくりと甘い洋菓子のにおいに包まれる。スーツにもこびりつきそうな甘い匂いだった。
 チョコレートを一枚買ったけれど正直高い。が、妙に頭がすっきりした気がする。
「意外と美味いな」
 独り言のように呟くと、ユリ清も一度頷いた。


極月(モイラと鼎と糸車/夢見さんと大森)

 つんとスーツのボタンに何かが引っかかる感覚を覚えた。視線を落とすと黒い、つやのある糸のようなものが巻きついていた。いや、これは糸ではない。髪の毛だ。風の強い日だから流れてきたらしい。
「夢見先生」
 彼女の名を呼ぶと、杖の音が止まった。同時に流れる髪の毛が波を打つように揺れる。
「すみません。髪がボタンに引っかかってしまったようで」
「え……? あ……やだ、こちらこそすみません」
 彼女の髪の毛は長いので気付かなかったのだろう。ボタンの糸に絡んだそれをゆっくりと解いていく。女性の髪の毛を切ることは保のちっぽけな美学に反する。手袋ごしだとうまく解けないので手袋を外し、そっとほどいた。
……毛先が少し歪んでしまいましたね。もう少しうまく解くべきでした」
「いえ。そんな。ありがとうございます」
 夢見の髪の毛はとても美しいと思う。ここまで伸ばして、さらに手入れをするのは大変だったろう。
 美術館の鑑賞帰り、図録を買った。ふたりともだ。なかなかの重さのため、夢見のぶんも持っている。腕にかけている紙袋の中の図録は重みがある。これは、先人たちの芸術の重みであるとも保は考えている。
「大森さん。今日はありがとうございました」
「いえ。こちらこそ」
 まだ日が照っている。彼女は静かにほほえんだので、自分もそっと笑った。