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ぬこ尻ryo
2024-12-29 19:18:56
7265文字
Public
ワンドロ企画など
聖剣ワンドロワンライお題15回
聖剣ワンドロワンライお題15回
『ラビ』『秘密』
みにぐれとデュランのお話。
※5月に書いた当時より紅デュ味増量(※当事者比)して誤字脱字修正しました。
1
2
ラビの森の秘密
城塞都市ジャドへ向かう定期船の甲板に立つと、懐かしい潮の香りがした。
穏やかな海風をいっぱいに受けた船の帆は、船の推進力となる白い巨大な櫂のよう。
雲一つない青空にギラギラと輝く太陽の光が、碧い海の表面を乱反射して、海面は一面に敷き詰められた宝石が煌めいているように見えた。
転生後初めて見る海の光景に、デュランの頭にしがみついていた『みにぐれ』は、まん丸な眼をさらに大きく見開いていた。
、、、ついでに口も、開いていた。
デュランがそれに気が付いたのは、頭上からぽたぽたと垂れてきた液体のせいだった。
一瞬、波の飛沫か何かかと思ったが、そのわりには潮の香りがしない。
もしやと思い、デュランは頭に手を伸ばすと、みにぐれの首根っこをむんずと掴んで目の前に下ろした。
「おいおい、よだれが垂れてるぞ」
デュランが苦笑しながらぽかんと開いたみにぐれの口元をハンカチで拭ってやる。
みにぐれは顔じゅうをごしごしと拭われながらも、興奮した口調でぎゃあぎゃあと騒ぎ立てた。
「サカナがいっぱいいるぞ、デュラン!!」
まん丸な二つの眼はきらきらと歓喜に輝いているくせに、口元からはだらだらとよだれを垂れ流すみにぐれの様子に、デュランは思わず笑ってしまった。
「なんだよお前、腹減ってんのか?」
「むむ!?そんなことはないぞ!!」
デュランに指摘されて、みにぐれは眉を吊り上げぶすっと頬を膨らませた。
小さな子供みたいに抗議するみにぐれの姿を見て、デュランはウェンディが今よりもずっと小さかったころを思い出して、また、けらけらと楽しそうに笑った。
「もうすぐジャドにつく。着いたらまずは飯にしような」
お腹を抱えながらもデュランは、幼い子供をあやすように、よしよしとみにぐれの頭を撫でて自身の左肩に乗せた。
『飯』という単語にみにぐれが鋭く反応する。
デュランの言葉にふたたび大きな眼をきらきらと輝かせた。
「なんだ貴様も腹が減っていたのではないか。いいだろうその提案にのってやる!」
ちいさくなっても偉そうな態度はちっとも変わっていない。
ふふん、と鼻で笑うみにぐれの姿に、デュランはすうっと目を細めて笑った。
今日はフォルセナ国王の遣使として、デュランは城塞都市ジャドと湖畔の村アストリアの視察に出向いていた。
普段なら自宅でステラ伯母さんと留守番をするみにぐれだが、デュランから視察の仕事の話を聞くと、自分もついていくといいだした。
海が見たい、船に乗りたい、フォルセナ以外の国を見たい。
みにぐれの主張はごくごく当たり前の欲求だった。
デュランはしばし黙考したのち、ため息交じりに「仕方がないよな」、とその主張を受け入れた。
事実デュラン自身、この第二の人生を歩みだした『みにぐれ』には、かつての紅蓮の魔導師が選べなかった『当たり前のこと』をたくさん経験してほしいと願っていた。
ならば今回の視察はみにぐれにとってもよい機会となるだろう。
デュランが承諾すると、みにぐれは小さな子供のようにきゃっきゃとはしゃいで喜んだ。
そんなみにぐれの姿を見たデュランも、つられて口元をほころばせた。
ジャドの港に船が着くと、みにぐれを肩に乗せたデュランは真っ先に食堂へと足を向けた。
船上でのみにぐれとの約束を果たすためだ。
食堂のカウンターに座ると、デュランはみにぐれ用の魚料理と自分用の肉料理を注文した。
ほどなくして提供された魚の香草焼きに、みにぐれは目を輝かせながらよだれをだらだらと垂らした。
そしてうれしそうに、ラビのように大きな口を開けて魚にかぶり付いた。
あれだけ「サカナサカナ」と騒いでよだれまで垂らすくらいだったのだ、よっぽど嬉しかったのだろう。
デュランはそんなみにぐれを愛おしそうに眺めながら自分用に提供された肉料理をほおばった。
普段一人で食べているときよりも、そのときの料理は格段に美味しいと感じた。
みにぐれのお腹を満たしたあと、デュランはジャドの商業組合の会合に出席した。
ジャドの経済状況、市井の様子など現況報告を受け、英雄王から預かった書簡を広げてフォルセナからの支援を伝えた。
相互協定の見直しや新しい提案など、一通り話がまとまると、提出用の書類に署名をもらい、デュランは組合長と固い握手をしてジャドの街を後にした。
退屈な大人の会合の間、腹が満たされたみにぐれは、デュランの道具袋という名の特製寝袋の中でぐっすりと食後の昼寝を満喫していた。
デュランがアストリアの村を目指してラビの森を歩いていると、道具袋からひょっこりとみにぐれが顔を出した。
寝癖のついたはちみつ色の金糸と半分しか開いていない寝ぼけ眼は、まるでぬいぐるみのようだなと思い、デュランは小さく笑った。
デュランの腰に括られた特製寝袋から顔を出したみにぐれは、ふわああああと、顔いっぱいのあくびをした。
それからのそのそと移動式の寝床から這い出してきて、自分のいつもの定位置、デュランの左肩の上に座った。
「でっけえあくびだな、ラビみたいだぞ」
みにぐれのあくびを見たデュランは、からかうように周囲を飛び跳ねているラビたちを指した。
まんまるくて黄色い体に大きな二つの耳。全身を使ってぴょんぴょん飛び跳ねる姿はまるで、みにぐれと同じだな、とデュランは思った。
さらにさきほどの大きなあくび。
ラビが口をあけたときとそっくりではないか。
思い出してデュランはまた笑った。
みにぐれは自分のことを話題にして笑われているとわかっているのかいないのか、それともすでにデュランの言葉が耳に届かないほどラビに興味を示していたのか、
「あれがラビなのだな、なるほどうまそうだ」
と見当違いな返事をした。
「もう腹が減ったのかよ」
デュランはあきれながらも肩かけ鞄の中からまんまるドロップをひとつ取り出すと、それをみにぐれに差し出した。
「私は燃費が悪いのだ」
一切の悪びれもなくいいのけると、大きな口をあけて受け取ったまんまるドロップをほおばるみにぐれの様子は、まるでラビそのものだった。
「アストリアでは食事しないから、それで我慢しておけよ」
リスのようなほお袋を作るみにぐれを眺めながら、デュランはあきれたようにそう言った。
みにぐれは、ほおばったまんまるドロップが大きすぎたのか返事に窮したようで、もがもがと口を動かしただけだった。
そんな二人の人間のやりとりを珍しそうに、森にすむラビたちが遠巻きに眺めていた。
先の戦争で壊滅状態に陥ったアストリアは、現在各国の協力のもと、着実に復興の道を歩んでいた。
当然、フォルセナも復興支援のために兵士を派遣している。
アストリアに到着すると「腹が減った」と騒がしく訴えてくるちいかわ紅蓮魔をなんとかなだめつつ、デュランは現地に派遣されたフォルセナ兵の詰め所に顔を出した。
フォルセナ兵たちはデュランの姿を確かめると、一斉にわきたった。
デュランは今や世界を救った勇者の一人であり、外交を担う英雄王の側近、近衛兵の一人でもある。
その張本人が足を運んだのだから、現地の兵士たちの英気は一気に養われた。
兵士たちの熱烈な歓迎を一身に受け、デュランは照れ臭そうにしながらも、本来の目的である国王陛下から言付かった慰労と激励の書簡を読み上げた。
英雄王から直々に預かった特別報奨も各人に手渡しながら、アストリア復興の現状と各人の提案や要望を伺った。
それらを書類にまとめると、最後にデュランはアストリアの現地調査のための案内を頼んだ。
派遣団の団長と思しき一人の壮年の兵士が一歩前に出ると、デュランの案内を申し出た。
デュランは協力に感謝の意を述べ、派遣団長と共に詰め所をあとにした。
そのときデュランは、詰め所に入る前に移動式寝袋に押し込んだみにぐれが妙に静かであることに、疑問を抱いた。
寝床に押し込まれる前は「おやつを食わせろ」とぎゃあぎゃあ騒ぎ立てながら文句をいっていたのだが、デュランが詰め所で派遣員たちと話をしている間、その要求の声がぱたりと止まっていた。
そのことを怪訝に思いながらも、デュランは、「どうかしましたか?」と気遣う派遣団長の言葉で意識を仕事へ戻した。
アストリアでの現地視察を終えたデュランは、兵士たちの詰め所に戻ると案内をしてくれた団長に厚く感謝の意を伝え、継続して駐屯する派遣兵たちにも激励の言葉を伝えた。
デュランの対応に感激のあまり涙する兵士もいる中、兵士たちに見送られ、デュランはアストリアの村を後にした。
ラビの森の入り口までくると、デュランはううーんと、大きく腕を伸ばし、首と肩をまわした。
だいぶ慣れてきたとはいえ、政治的な業務や外交的な視察などは元来デュランの性分に合わない業務だ。
凝り固まった体をほぐすように軽く全身を伸ばすと、デュランは移動式寝袋にいるはずのみにぐれに声をかけた。
しかし、返事がなかった。
また眠っているのかと思い、デュランが寝袋に手をかけると、袋の中が空であることに気が付いた。
その瞬間、デュランの全身から血の気が引いた。
背筋が凍り付く。
「いない」
太陽は西に傾きかけてはいたが、まだまだ日差しは強く照り付けていたというのに、デュランの体温は一瞬にして奪われた。
過去の記憶がフラッシュバックする。
ドラゴンズホールで紅蓮の魔導師を失ったあのときの記憶が、電流のようにデュランの全身を貫く。
はじかれるように、デュランは駆け出した。
脇目もふらず、ラビの森を無我夢中で駆けずり回った。
声を上げて名を呼んだ。
喉が枯れるまで、その名を叫んだ。
けれどデュランの悲痛な叫び声は、ラビの森にむなしく吸い込まれただけだった。
ラビたちが、一人焦燥に駆られるデュランの行動を、黒い大きな双眸で不思議そうに遠くから眺めていた。
太陽が西の空を紅く染め始めると、デュランは己を苛んだ。
自分の迂闊さを、呪った。
悔み始めると、負の感情に歯止めがきかなくなった。
どうしてあのとき、詰め所を出るときにもっと注意をむけなかったのか。
それ以前に、腹が減ったと文句を言うみにぐれを無理やりなだめず、望むようにおやつをあげて欲求を満たしてやっていたら、こんなことにはならなかったのではないか。
いまさら悔いてももはや手遅れだということは重々承知していたが、己の迂闊さを恨む感情があふれて止まらなかった。
心臓の音が早鐘を打つのは、息が上がっているからだけではない。
脳裏によみがえる喪失の恐怖と、こみ上げてくる吐き気と不安。
それらを無理やり振り払う。
めいっぱい頭を振って、両頬をはたき、己を叱咤する。
負の感情に飲み込まれるな、と。
けれどデュランの思いとは裏腹に、すでに己の歩みは止まり、両膝は根が生えたように大地についていた。
デュランは、思わず地面を握りしめた。
土が爪の隙間に入り込む。
ラビの森を隅から隅まで探しつくした両手は、すでに擦り切れて血が滲んでいた。
自身の両手を見つめる眼球の奥が熱を帯びてくる。
視界がぼやけてゆらぎ始める。
手の甲に、ぽたぽたと水滴が落ちてきた。
転生してきたあの男を、再び失うことが悔しくて、苦しくて、心臓が抉りとられるかと思うほど、痛かった。
デュランは、奥歯をぎりぎりと食いしばった。
痛む胸の左側をつかんだ。
その瞬間、突然がさりと草の根を分ける音がした。
反射的に音のした方へ身構えて視線を向ける。
草の根の隙間からはちみつ色の金糸が、きらきら輝いていた。
ラビのようなくりくりとまんまるな目が、デュランを見上げていた。
デュランははっと息をのんだ。
「どこ行ってたんだよ!探したんだぞ!」
デュランはやっと見つけたみにぐれに向かって怒号した。
当の本人はそれに臆することもなく、ひょこひょこと何事もなかったかのようにデュランの傍に近づいてきた。
そして眉尻を吊り上げると
「私はペットではないぞ」
と鋭く一喝した。
けれどすぐに
「貴様に手土産だ、小僧」
とぶっきらぼうに言い放つと、小さな両手を差し出した。
その手には色とりどりの花が集められていた。
白、蒼、黄、紅、、、薄紫。
花束にしてはみすぼらしいそれを、デュランはぽかんと口を開けて見つめた。
「いつも頑張っている貴様に、この私からのご褒美だ。ありがたく受け取るんだな」
みにぐれは、ふふん、と尊大な態度で胸を張って笑った。
いつもと同じ、なんらかわることのない、上から目線のものいい。
しかし怒鳴ってきたきり反応のないデュランを、みにぐれは小首をかしげて見上げた。
「おいデュラン、なんで泣いているんだ?」
みにぐれの指摘に、デュランははっと我に返った。
慌ててぐいっと目元を拭う。
「は、はははっ、ありがとうな!」
デュランは無理やり笑顔をつくると、みにぐれを顔に寄せて力いっぱい抱きしめた。
しかしサイズ的に抱きしめる、というよりは、握りしめる形になってしまった。
「苦しいぞ!何をする!」
そのためすぐさまみにぐれは抗議の声を上げてデュランの顔面で両手両足をじたばたさせた。
「あ、悪い悪い」
デュランはすぐに力をゆるめて、改めてみにぐれの首根っこをつかんだ。
そして、にやっと歯を見せて笑った。
「お前がもう、勝手にどっかいったりしないように、ってな」
デュランは心から笑ったつもりだったが、自分の言葉で再び目の奥がじんわり熱くなるのがわかった。
それに気が付いたのか、気が付いていないのか、みにぐれは
「ううむ、そうか」
とだけ答えた。
みにぐれはそれ以上に何かいいたげな様子だったけれど、デュランはそれを遮って、
「もう、心配かけさせんなよ」
とみにぐれのおでこを軽くはじいた。
デコピンされたみにぐれは、「なにをするっ」、と文句をいいながら額をさすった。
それから、デュランをまっすぐ見つめてきた。
「この私を、心配していたのか?」
真摯なまなざしでじっと見つめてくるみにぐれの疑問に、デュランは一瞬息を飲んだものの、すぐにわざとらしく盛大にため息をついてみせた。
「あっ、たり前だろ。めっちゃくちゃ心配した。また、お前がどっかいなくなっちまうかもって、すっげえ不安になった」
答えながら、デュランはゆっくりとにみにぐれの真摯な視線から逃れるように、顔を背けた。
目の奥の熱が冷めない。
デュランは、再び泣きだしそうな情けない自分の姿を、みにぐれに見られたくなかった。
デュランの様子の変化を見つめていたみにぐれは、納得したように「そうか」とつぶやいてから、
「そうだったのか。それは、すまなかったな」
と、素直に謝罪の言葉を告げた。
その声は、音色は、あの男が告げているかのように、デュランの耳に反響した。
だからデュランは吸い寄せられるように視線をみにぐれに戻した。
けれどそこにはいつものように尊大な態度でふふん、と鼻をならす『みにぐれ』の姿があった。
「安心しろ。私はもう二度と、お前の前から消えたりしないぞ」
その言葉に対して、デュランは思わず小さな子供のように反論する。
「なんでそんなこと言い切れるんだよ」
そしてジト目でみにぐれをにらんだ。
するとみにぐれはにやっと笑った。
「マナの女神との約束だからな」
その返答にデュランは、瞠目した。
※※※
みにぐれの説明によると、マナの女神が紅蓮の魔導師に新しい命を与えると決めたときに、頼み事をしたのだという。
『一番大切なひとのところへ転生させてくれ』と。
マナの女神は、その要求を受け入れてくれた。
『その代わりに、そのひとを哀しませるようなことをすればその瞬間に、あなたの命の灯は消え、再び燃えることはないでしょう』
これが、紅蓮の魔導師が交わした、マナの女神との約束だという。
※※※
「私だってせっかく転生したのだ、第二の人生を謳歌せねばな」
みにぐれの話を聞き終わるころには、デュランの頬には涙の跡がついていた。
デュランは乱暴にごしごしと顔を拭うと、精一杯笑って見せた。
「そうだぞ、お前はまだまだ楽しいこといっぱい経験しなきゃなんねーんだからな」
それが、今のお前の仕事だからな。
デュランはガシガシとみにぐれの頭を撫でた。
はちみつ色の金糸は、デュランが思っていた以上に柔らかく感じた。
それから、もうみにぐれが勝手に遊びにいったりしないように、胸当ての内側にぎゅうと押し込んだ。
フォルセナへの帰り道、みにぐれが突然ひょこりとデュランの胸元から顔を覗かせた。
そして、言い忘れていたことがある、と口を開いた。
「おい、デュラン。マナの女神との約束の話は、他言無用だぞ!」
「ああ、わかってるよ。もちろん、お前と俺だけの秘密、だな」
「そういうことだ」
わかっているではないか、とでもいいたげに、みにぐれはにやっと笑うと再びデュランの懐に潜り込んだ。
「ここは、あったかくてなかなか居心地がいいぞ」
「そりゃあ、よかったな」
そして間もなく、デュランの胸元からぐうぐうという寝息が聞こえてきた。
同時に、デュランはみにぐれの穏やかな心音を感じた。
デュランは、今までぽっかりと空いていた心の穴が、ようやく埋まったように感じた。
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