ゆうな
2024-12-29 11:01:01
3053文字
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付き合ってる高校生爆轟
雨の中告白をされる爆豪を見かけた轟の話。結局ラブラブです。

◆Pixiv:ログ1に格納済み
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 雨が降っていた。
 天気予報を見逃したとて問題ないと思えるくらいの長雨は今朝も変わらず地面を叩く。轟は恋人のように特別に雨が苦手ということはないから、これが良いだとか悪いだとかの感想すらも出てくることは無かった。しかしこうも続くと、洗濯物が外に出せねえなとか、今日の屋外戦闘訓練も大変そうだなとか、結局そういうところに考えが着地する。
 つまり、どちらかというとマイナス気味な思考になりがちというわけだ。
 
 今日はそもそも寮に人が少なく、紺色の傘を広げ一人で登校していた。大きな水溜りを避けていると前方に人影が見えて、轟は足を止めた。男の背中を覆い隠す黒い傘は、それでも見慣れた猫背とスラックスの履き方だけで彼なのだとすぐにわかった。
「ばく──」
 立ち止まるグレーの背に声を掛けようとして、口を噤む。男──爆豪の前にまた別の人影が見えたのだ。しかもそれが自分の交友関係に無い全くの初見の人物であることに気付き、ぐるりと遠回りをするように斜め後ろから様子を伺った。
 スラリと伸びた白い足をスカートから覗かせるのは、自分たちと同じ制服を着た女生徒だ。白い傘を差しながら、空いた手は口元に添え、赤らめた顔を見せる姿はなんともいじらしい。これは告白をしているのだと、勘の鈍い轟でもすぐにわかるほどの雰囲気を纏っていた。
 何もこんな雨の日に、とも思うけれど、彼女からすればこの日に絶対に伝えると前々から決めていたことなのかもしれないし、手紙とかで日付を指定して呼び出したのかもしれない。
 なんにせよ、告白をする勇気があるというのは凄いことだ。例えば大きな敵に立ち向かうとか、困難な状況でも人を救けるとか、そういうのとは全然別物だと思う。
 自分も何度か、そういった経験がある。もちろん、される側の。
 大抵どこか人気の無い場所に呼び出され、誰だ? とか思っているうちに、貴方のことが好きですと告げられる。声を震わせ、くるんと巻かれた長い睫毛を上下させながら、付き合ってほしいと言われるのだ。こんな自分を好いてくれる人が一定数居ることはとても有難いことだとは思う。きっとすごく悩んで、悩んで、溢れる想いを止められなかった故の行動だろうから。
 しかし、轟には恋人が居る。
 鮮烈な赤も、まるで決定事項のような告白も、全部が愛おしくなって返事をする前に抱き締めてしまうくらい大好きな恋人が。
 この恋を知る者は誰もいない。だからそれを理由に挙げて断った事は一度も無く、テンプレートな言い回しで傷付いた顔を沢山見てきた。そして、その度に爆豪の顔が過った。
 想いが通じ合う喜びを初めて知ったときから、漠然とこの先ずっとあいつとは一緒に居るのだろうと思ってはいた。だが自分たちは公衆の面前で堂々と好きだとも、ましてや交際宣言なんてもしかしたら一生出来ないかもしれない。爆豪だってそんなこと承知の上で告白してくれたに決まっている、けれど。
 
 は、と気づいた時には、雨の中告白していた女生徒は何度も頭を下げていて、名残惜しそうにその場から離れて行った。細い背中を見送る爆豪が傘を揺らして、相手の影が遠くなってから雨音に紛れて歩き始める。
 轟もストーカーのように歩調を合わせるも、傘の隙間から赤い目が覗いて、ばちりと目が合ってしまった。見ていたのバレたかな、と足がもつれそうになったけれどここで避けるのも怪しすぎる。靴が濡れるのもお構い無しに早足で爆豪に近寄った。
「おはよう」
「なに気ィ遣ってんだ」
 やはりバレていたらしい。爆豪の右側に付いて、雨を弾く音を二人分にする。
 歩きながら、悪ぃと呟いて、だらりと重力のままに下がっている右腕を見遣る。この男はこうやって鞄も傘も左手で持って、学校に着いたら少しだけ握れるようになった右手でなんとか柄を持って傘を巻くのだ。
 さっき告白していた生徒のように小柄な女性であれば「私が傘を持つから」なんて微笑んで、二人で一つ傘の下、共に歩くこともできる。
 だが轟は男で、爆豪も男だ。しかも互いに平均身長よりは少し高めで一般的な高校生よりかは体の厚みもある方だろう。いわゆる相合傘なんてしようものなら、たとえこのデカい傘を以ってしても、なんの遊びだ? とクラスメイトから濡れた半身について突っ込まれることは確実である。
 別にそういう甘酸っぱい恋人みたいなことをしたいとは思ったことは無い。だけれどああやって、貴方に恋をしていますという目で爆豪を見つめる女子と、それに向き合う爆豪、という構図を目の当たりにしてしまうと、なんかこう、良いのだろうか、みたいな気持ちが湧いてくる。
「爆豪」
 頬に散る雨粒に舌打ちをする、その横顔に問いかける。告白をしてきたのは爆豪だし、それに応えたのは轟だ。それでも。
「俺で良いのか?」
 雨のストライプから見える赤の範囲が大きくなるにつれて、あぁやっぱりお前のすべてを貫くような強く燃える瞳が好きだなあと、他人事のように考えてしまう。
 丸まった目がすぐに半分になって、それから口を尖らせる。
「俺は、てめェのこと信頼してんだわ」
「、お、ぅ」
 思ってもみなかった言葉が爆豪勝己の口から出てきて、思わず喉がつっかえた。この男はこういうときに嘘を吐かない。それがわかっているから尚更だ。
 この二年でだいぶ丸くなった爆豪の真っ直ぐな「信頼」の二文字はどこかむず痒く、その言葉だけでこの重たすぎる雨雲まで薄くなったんじゃないかと思えてくる。
 再び前に向き直る爆豪が傘をぎゅっと持ち直す。
「だから俺は訊かねえ。こいつほんとに俺のこと好きなのかよって思うときなんて死ぬほどある。例えば俺が出久と言い合いになってもてめェは絶対向こうの肩持つしよ」
「それは、緑谷の方が正論言ってるからだろ……
 確かに爆豪の味方をした事は無いが。だからと言って俺が爆豪のことを信頼していないわけがないだろう。
 不安なわけじゃない。本当に、ただおまえはこの先俺だけで良いのかと、ちょっと、気になってしまっただけで。
 ムッとした顔を見せるとそれに気付いた爆豪がふはっと大きな口から歯を見せて「冗談」といたずらっ子のような顔をする。
「でも、」
 隣を歩く気配が消えて、轟が一歩前で同じように立ち止まり、振り返る。傘を後ろに傾けると片眉を上げた恋人がなんとも楽しげに微笑んでいた。
「それ以上に、こいつまじで俺のこと好きだなって思う瞬間が山程あんだよ」
 ほら、こういう時とか。
 朱が滲んだ肌にゆっくりと、ゆっくりと伸びた右腕がぎこちなく頬をまぜる。自分の左手とは違った温かさを持つ太陽みたいな手が、轟は大好きだった。
「俺は自分がしたくねえことは死んでもしねぇ。それが答えだろ」
 この質問にそんなに深い意味はなかったというのに。大丈夫かと訊いたくらいで、こんなにもしっかりと愛を伝えられてしまうだなんて。
 もしかしたら轟が好きだ好きだと言い倒せば、同じくらい、いや倍以上の言葉で返してくれるのではと思えるくらいには、

 おまえだって、俺のこと大好きじゃねえか。

 片手で器用に傘を閉じた爆豪が肩で体を押してくる。紺の傘が揺れて、水滴が轟の方に落ちた。
「てめェの傘入れてけ」
「ちょ、濡れ……
「もー止むだろ」
 ぎゅうぎゅうの傘の中、水溜りを蹴って歩き出す。
 本当だ。東の空は明るい。
 でも今はこのまま二人、肩を濡らして。