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とはり
2024-12-29 00:39:35
2039文字
Public
ひめこは
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アンコール
おそらく2024年書き納め
アンコール前の舞台袖でふわふわしているふたり
ひめこはワンドロ143回目のお題である「もう一回」と「キス」の組み合わせに滾って慌ててこさえた
9thのアーカイブ観ていたこともあってもう一回=アンコールの構図しか浮かばなかった
気分屋で遅筆ゆえにワンドロは不得手としていたけどお題の力を借りてテンポ良く書けたので楽しかった ざくざくガサガサと殴り書きに近いけど
「ほんまおおきに! またなー!」
Crazy:Bとして今年最後の単独ライブイベント、黄色の波に見送られてステージを後にする。それから少しも経たない内に、降りた幕の向こうからアンコールの声が泡のように生まれ、それはやがて大きな波になる。
汗を拭き、アンコール用の衣装に着替えて、メイクを整える。ライブパフォーマンス後の高揚とアンコールへの準備の忙しさで息つく暇もない。
地響きのように伝わってくるCrazy:Bの再来を求めるファンの声に焦燥感に駆られる。早くまたあの音と歓声のうねりの中に戻りたい。沸き上がる興奮が体を震わせる。頭に血液が集まる感覚があって更に息があがっていく。
飛び出す準備は整ったが、呼吸は荒いまま整わない。はち切れそうなほど膨らんだ期待で体が弾けてしまいそうだ。
暴発してしまいそうなエネルギーを持て余して一瞬もじっとしていられなかったこはくはそのよく利く目で舞台袖の暗がりから勿忘草色を見つけ出す。
「ひめるはん
……
っ」
天井から一本の糸で吊るされているみたいにしゃんと背筋を伸ばして立っているHiMERUの背中に夢中で手を伸ばす。感情の奔流に押し流されそうな自分がしがみついても揺るがないような支柱を求めていた。
腕を掴むと振り返ったHiMERUはこはくに気づくと目を少し見開いた後、ゆっくりと顔を近づけて額にキスを落とした。
「、わ
……
っ!」
羽よりも柔らかく額に触れた唇の感触を反射的に手のひらで押さえる。不意な感触にHiMERUを見上げたままぱちくりと瞬きを繰り返すこはくへととろけた微笑みが向けられる。その蜂蜜色の瞳がいつもよりも色濃く明るく煌めいているのに気づいて、HiMERUもまた自分と同じく高揚の渦の中にあるのだと知った。でなければHiMERUがカメラもファンも見ていない場所でこんな大胆なことをするはずがない。
意識すると、むずむずとくすぐったかった額の中心からぶわりと花開くように顔に熱が広がる。HiMERUの唇を受けた衝撃でしばらく息が止まっていたおかげで呼吸は平静を取り戻したが、今度は心臓の高鳴りがうるさくて仕方ない。
「聞こえますか、我々を呼ぶ声が」
噛み締めるように言って、HiMERUが声の方へ視線を移す。その目が眩しそうに細められて、美しい横顔に息を呑んで見とれた。
アンコールの声はまだ止まない。それどころかどんどんと大きくなっているようにも思える。
「もうすぐですね」
「うん。また、はじまる」
呼ばれる声と手拍子に耳を澄ませているとまた高揚がぶり返して体が疼き始める。隣にいるHiMERUの体温が心地よくて愛おしいとすら感じる。じくじくと熱をもったままの額の中心を指先でそっと撫でると鼓動の温度がまたひとつあがった。
HiMERUの指を掴んで引っ張ると、少し屈んで耳を傾けてくれる。近くなったHiMERUの頬に妙にどきどきして、胸の鼓動に突き飛ばされるようにその滑らかな肌に唇をくっつけた。
大きく開いた蜂蜜色が頬の感触を確かめた後ふっと緩む。仕返しのつもりだったのに案外嬉しそうな反応が返ってきて、つられて顔が緩んでしまう。
「
……
なぁ、さっきの。もう一回して」
HiMERUと自分の間にある数センチしかない空間が全部甘い高揚に満たされているような感覚になり、浮かれて滑りのよくなった口から欲がぽろりとこぼれ落ちた。
さっきの、と首を傾げるHiMERUに額ごと顔を突き出すとくすくすと噴き出した。
「どこにしますか?」
「はぁ!? え、えっ」
動揺を隠しきれずひっくり返った声にまたHiMERUは肩を揺らした。そして、こはくの狼狽をひとしきり楽しんだ後、美しい弧を描いた自身の唇に人差し指を押し当てて小さくウインクをする。艶やかな所作がこれ以上なく似合っていて、些細な仕草も完成されたパフォーマンスのように見えて惹き込まれる。
「この唇は、今は求めてくれるファンへ歌と言葉を届けるために使いましょう。答えはその後で聞きますね」
ふわふわと甘い言葉を紡いだHiMERUの指先がこはくの唇に触れる。熱が触れた肌からぴりりと爪の先まで痺れるような電気が走った。
「ほら、早くしないと置いていきますよ」
呆気に取られているとぽんと肩を叩かれる。アンコールに向かう気持ちとHiMERUに翻弄される心とに引っ張られ振り回されて胸の内は分離してしまいそうなのに、気づけば体に溜まっていた余分な力はすっかりと抜け落ちていた。息苦しさもなく、鮮明な視界のまま、鼓動は力強く弾んでいる。
「ちょお、HiMERUはんっ、今のなんなん、どういうことっ」
「ははっ」
声を張り上げて追いかけると、前を行くHiMERUは珍しく声を出して笑っていた。ステップを踏むように軽やかな足取りで明るいステージの方へ向かっていく。
歓声の海が近づいてくる。
ここにいる誰もが「もう一回」に浮かれている。
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