鶏屋栄/夢鮪 20↑
2024-12-28 22:27:32
1431文字
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友引

本橋が夢主を連れて行ってしまう話
死ネタ注意
本橋と個性強め強気夢主。鍵垢に掲載していました。

萩生本橋依央利が死んだ。

その知らせがハウスに届いたのはその日の晩の事だった。不注意で突っ込んできた車によってぺしゃんこ、というのが事の次第らしい。

葬式のことは覚えていない。と同時に、本橋依央利というひとりの人間がどれだけ私の人生を占めていたかを知った。まるで、自分の半身を失ったような、息さえ、歩き方さえ忘れてしまうほど、大切な。大切な、人。だったのだ。だったのに。
ベッドに入るだけで思い出す。本橋、本橋依央利のこと。声、匂い、体温。どうにも彼がいないと眠れそうになくて、住人の居なくなってしまった、全てが残った部屋を訪ねた。
見慣れたベッドに体を挟んで、残り香に顔を埋める。もう居ないのに、そこにいる気がして。
都合のいい錯覚を抱いた脳は、簡単に意識をシャットダウンさせた。

次に目を覚ますと、彼岸花が一面に咲き誇る場所にいた。周りは月明かりもないほど一面の黒なのに、彼岸花だけが仄かな光を纏って存在感を放っていた。
明らかに夢だと分かりきっている景色。
しゃらん、と音がして振り返ると本橋がそこに居た。胸元のはだけた、着物姿で。
きっちりと結われているのだろう。簪が六本、髪に挿されている。裾から覗く生っ白い足に履いた三本歯の下駄がぐんと背を高くして、生意気だ、と思った。元から私より背が高くて生意気なのに。
彼岸花を戴き、眦に赤い紅をさしたその姿を、私は知っていた。
心中ブレイク。一生の、輪廻転生の果てまでの服従を誓った本橋の姿。
……依央利?」
怖気付いて名前を呼んだ私に、本橋はただ微笑みを返した。足音の代わりに布を擦る音を伴って近づく男がなんだか怖かった。けれど、そこから動くことも出来なかった。
見上げるのも癪で、横に顔を逸らしていれば本橋の顔が目を合わすように視界いっぱいに映った。
ちゃん」
真っ黒な目が私を見た。
いけない。だめ。これは「本橋依央利」じゃない。
脳が警鐘を鳴らすけれど、「それ」は逃げることを許してはくれない。
「どこへ行くの?」
間の抜けたような声。それを聞いて途端にふつふつと腹から怒りが込み上げてきた。
ヘッタクソ! たったの数日で私がアイツの声を忘れるもんか!
「本橋のところに決まってるでしょ!」
啖呵を切ればこっちのものだった。得体の知れないなにかの拘束を振り切り、どこへともなく走る、走る。
その途中で人にぶつかった。
「ッあ! ごめんなさい!」
「いやこちらこそ……て、あれ? ちゃん?」
そこに立っていたのは、本橋だった。
気づけばあたりは真っ白で、なにもない。どこまで走ってきたのだろう? どうせ夢の中だし、分からないけれど。あの得体の知れないものを振り切れたのなら、それでいい。
今度の本橋は、普通だ。いつもの服を着た、私がよく知った姿の本橋。
「ここで何してるの?」
本橋に問われて、首を傾げた。何をしているんだろう。さっきまでは遮二無二に逃げていたけど、これだけ景色が違うならもう追ってこないに違いないし。
「何……てことはないけど。アンタは?」
言葉を返せば、本橋は視線をあらゆる場所にめぐらせた。言えないことなのだろう。
「まあいいわ。付いてったげる」
「え」
「夢の中くらい、一緒にいたいもの」
……うん、じゃあ、一緒に行こうか」
本橋は困ったような、照れたような顔をして笑った。



萩生が本橋依央利の部屋で冷たくなって見つかったのは、朝の事だった。