こゆ
2024-12-28 22:00:44
2062文字
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鋏と影

#ハートのワンドロワンライ

お題:髪

※シャチの美容師設定はノベロから
※ペンギンの髪の色について言及があります
※ローさんとペンギンの入れ替わり作戦等を匂わす描写があります



※ この作品は無断転載禁止AI学習禁止です(こゆ)



鋏と影


「襟足が鬱陶しい」
「そろそろ切っとく? つっても外には出れないっすけど」

ハートの海賊団は現在冬島の海域を潜航中。
晴れた日の甲板で、美容室で働いていた過去のあるシャチがクルーの髪を切るのは良くある光景だ。
しかし、あいにくとしばらく甲板には出られそうにない。どこでも切れるが、後始末は楽な方がいい。そんな話をローとしたのが三日前。

「シャチ、後でペンギンと俺の部屋に来い」
「アイアイキャプテン」
 
昼食が終わり、クルー達がそれぞれに食堂を出ていく最中、ローがシャチを呼び止めた。自身の頬にあたる数本の髪をつうっと指でつまんで引っ張る仕草。シャチは「わかりました」と告げて一旦部屋に戻り、私物のロッカーの上から二段目、自分用の引き出しを静かに開けた。下着や靴下のその端に置いてある皮袋を取り出してそそくさと部屋を出る。
そして、船長室に向かう途中で、ペンギンの持ち場へ顔を出す。「キャプテンの髪切るよ」ペンギンにそう伝えたら「後から行く」って。それだけ。

いつからだったろうか。
ローの髪の毛を切った後にペンギンの髪の毛を切る。だってどうせ同じ様に仕上げるなら見本があった方がいい。
ローは最初は嫌がった。いや、今も決していい顔はしていない。だってそんな作戦、本当はない方がいいから。それでも、何回か実行してみれば、メリットもあるのも事実で。それを認めさせるのに時間はかかったけど、繰り返し繰り返しやってきて、もはや習慣になって。ローも作戦の一案に自ら出してくれるようになって。それで、今は当たり前のようにふたり一緒に散髪をする。多分、この件に関してはシャチとペンギンの粘り勝ちだ。

「今日はどんな感じに?」
「いつも通りでいい」
「はいよ」

いつも通りと言われるのも、いつも通り。
シャチ特製の白いケープをローの首に巻き、服も部屋も汚さないようにして、鋏に指を通し左手にもった櫛で髪を解く。多少引っかかったが、櫛を通せばするんと流れた。





ちょきん。
切った髪はローから離れて、白い布に落ちる。
ローは髪が目に入らぬようにと目を閉じていた。座り慣れた自室の椅子に座って、机に鏡を立てられて、散髪用に整えられた空間。シャワー室に行くか、談話室で人払いをしても良かったのだが。狭くはあるが、この空間は何故だかとても居心地が良かった。そして、ローの髪を切る目的でシャチとふたりでここに居るが、いずれやってくるペンギンを待っている時間でもある。

ちょきん、ちょきんと小気味良く鋏を動かし襟足を整えるころにはローはすっかり眠気に襲われていて、コンコンっと扉を叩く音で意識を浮上させた。

「ペンギンです」
……はいれ」

短い問答。
両手に黄色いタオルを持ったペンギンが顔を出す。

「あれ、キャプテン、寝てた?」

黙々と髪を切っていたシャチがローを覗きこむ。
いつの間にか髪を切り終えていたようで、身体にかけられた白いケープが外される。それに溜まった細かい毛ごと器用にくるくるまとめて、バケツに入れると首筋にブラシをかけて、仕上げとばかりにペンギンの持ってきたホットタオルを首に当てる。

「よし、出来上がり。どう?」

特に大きく変化はしてないが、僅か数センチで快適になることもあるもんだと、毎回ローは関心する。

「襟足は今回結構短くした」
「お、サンキュー」

ローではなく、入ってきたばかりのペンギンの返事。

「ぶははっ、気がはえーよ。それではペンギンさん。くふふっ、えっと、今回はどうされますか?」 

ローと交代するように椅子に座ったペンギンが、振り返って、すでにシャチの笑いが伝染している。

「ふふっ、そこの男前とおんなじ感じでお願いします」
「アイアイペンギン、イケメン具合はちょっと足りねェかもだけど、色形同じに善処します」

毎回のやりとりにペンギンもシャチもくすくす笑い出した。ローだけがひとり、何とも言えない顔をする。頭はさっぱりしたものの、そのやり取りに特に笑う気には未だなれない。今は、このふたりがハートの海賊団の最善を尽くそうと始めたことだと認められる。ただ、手放しで受け入れられないのはしょうがない。
上手く説明できない。寂しいとか悔しいとかじゃなくて。否定したいわけでもなくて。きっと世話のやける子どもが親離れをした時、こんな気持ちになるのかもしれない。少しの心配、でもそれは伝えるのを躊躇する質のもの。

ちょきんちょきんと、シャチから放たれるリズミカルな鋏の音。ペンギンとシャチのいつもの賑やかな掛け合いがそれに乗る。馬鹿みたいに穏やかな音。
ローにとってそれは、どうやったって身代わりにしたいわけではないと思う光景。絶対に。それは決意であって、事実であって、境界である。



それでも、目の前のふたりもまた決意をもった海賊であることも知っている。









【了】