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めやぬら
2024-12-28 19:28:59
4479文字
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兄フラ
にきひい(途中)
燐音バレ、ギリギリRealFace
「はっ、あ、あぁぁ
……
」
絶望したニキの声が部屋にこだました。その元凶というか原因のスマホ、もっと言うならその画面には現在進行形で着信が入り続けている。
「椎名さん?僕はまた何かやってしまったのだろうか」
不安気な一彩に弟さんは何もしてないと返してあげたいところだが、今回ばかりはそうもいかない。九割以上一彩のせいである。
ニキのアパートのキッチン、立ち尽くす二人、美味しそうなエビフライの匂いと断続的に響く無機質な着信音。一彩の手の中にはメッセージと着信通知で震えまくるニキのスマホ。ニキが恐れ慄く通知の送り主はどれも一彩の兄、燐音からであった。
--
遡ること数分前。もはやさっきであるが、ニキはすこぶるご機嫌だった。鼻歌まで歌いながらちょっと豪華な晩ご飯を作っていた。
大晦日を目前にし、年内最後に実家の掃除をしようかと思い立ったのがつい先日。今年は両親が久々に戻るということで、年始には顔を合わせようと連絡を取っていた。二人が揃って帰るのは本当に何年かぶりで、燐音が来てからも一回もなかった気がする。もうニキがそこに住んでいないことは両親に伝えているが、それでも椎名家であることに変わりなく、せめて掃除だけでもして、いつ帰ってきてもいいようにしておこうと思ったのだ。
時間の都合をつけて、先日寮のルームメイトたちに実家の片付けで二日ほど不在にすると伝えると、一彩がよければ手伝うと言ってくれた。年下の恋人がそう言ってくれているのに断るほどニキは初心でも純心でもなかった。浮かれまくったのである。それに、一彩に来てもらって燐音の荷物を持って帰ってもらおうという魂胆もあった。
せっかくなら泊まっていかないか、と誘ったのは、二人きりの時間を堪能しようと狙っていたから。手を出すとかではなくて、普通にゆっくり過ごせたらいいなぁと思ってのことだ。何度も言うが、ニキも一彩と過ごせる絶好のチャンスに浮かれまくっていたのである。
温めた揚げ油のなかに少し奮発して買ったエビを投入していく。じゅわじゅわと良い音を立ててあぶくが弾ける黄金の鍋の中を見つめていたニキは、機嫌良く他の料理の様子も見て、よし、と絶好調であり、そして手が離せなかった。
そんなニキの姿をワクワクしながら観察していた一彩。リビングの食卓の椅子に座ってお利口に待っていると、その視界の端でパッとスマホの画面が明点した。それはニキのもので、画面には「姐さん」との表示。
「椎名さん、電話が鳴ってるよ。プロデューサーじゃないかな」
一彩はぶるぶる震えるそれを手に声をかけるが、ニキが電話に出られる状況じゃないことなど一目瞭然だ。姐さんとはたしかプロデューサーのこと、急な連絡ならどうしたものかと思い声をかけると、ニキもえっ、と戸惑うように振り向いた。
「えっ!あーっと、えーっと
……
ごめん弟さん、出ていいから用件聞いてもらえないすか?!」
「えっ、あっ、ウム!もしもし!」
切れてしまうかもしれないと慌てて電話口に出ると、プロデューサーは怪訝そうに一彩か?と尋ねてくる。それはそうだ、彼女はニキの電話だと思ってかけてきたのに一彩が出たのだから。
「僕は一彩だよ!ごめんね、今椎名さんと一緒にいるんだけど、椎名さん手が離せなくて出られなくて」
「ごめんっす姐さ〜ん!」
「というわけだよ。何か急ぎの要件があるなら伝えるけれど」
油の音に負けないよう呼びかけるニキの声を拾ったプロデューサーは電話越しで笑って、急ぎではないから後で送るメッセージを確認するよう伝えてほしいと告げた。取り込み中にごめんねと謝る働き者の彼女に一彩はそんなことはないと断ってから電話を切って、一彩は言われたそのまんまをニキに伝える。
「そっかぁ、なんの用だったんすかね〜」
「はて
……
あっ、メッセージきたよ」
「なんて言ってる?」
「えっと
……
『先日の打ち合わせで椎名さんのペンが紛れてしまっていて』
……
?あぁ、忘れ物として預かっておくから、今度会った時に渡すって」
「ペン
……
?そうなんすか?まあいいや、あとで返事しとくっす。弟さんもありがとね」
「僕も慌ててしまって、プロデューサーを困らせてしまったかな」
「そんなことないと思いますけどね〜?」
ペンを忘れたことさえ忘れていたニキは、プロデューサーが言うなら多分そうなのだろうと簡単に結論づけた。律儀なものだ、最初からメッセージだけでいいのに。
ほっとして、油の中のエビの様子を見る。もう少し時間がかかりそうだ。エビフライになる予定なので、からりと綺麗な小麦色が今回の目指すべき色である。ニキにとって今一番の重大ごとは、じゅわーっと揚がるエビを最高のタイミングで引き上げて一彩と二人美味しくいただくことだけ。
「あれ。椎名さん、また電話だよ」
「えーまたっすか?今度は誰から?」
「んっと
……
ぃさん」
電話の主の名前がちょうど衣の弾ける音で聞こえなかったが、姐さんに聞こえた。何か伝えそびれでもあったか、今度こそ急ぎの用事か。
「出ていいから用件聞いてくれます?」
「ウム!」
さっきもやったから、プロデューサーなら一彩が出ると分かって電話をかけてきているだろう。それなら何の問題もないと、ニキは一彩に電話を託した。
「もしもし、兄さん?」
その第一声を聞いた瞬間に、えっ、とニキの時が止まった。
『あれ、弟くん?俺っちニキにかけたはずなんだけど、間違えちまったか』
「ううん間違えてないよ。これは椎名さんのスマホだ」
『えっ?お前ら今一緒にいんの?』
「ウム」
揚げる音は案外うるさいはずなのに、ピシリと固まったニキの耳はこの時ばかりは嫌なことをよく拾った。怪訝そうな燐音と屈託ない一彩のやりとり。
『
……
あのさァ、間違いだったらそれでいンだけど、ニキって今日実家泊まるっつってたよな』
「そうだよ」
時刻は夜の7時前。こんな時間に人の家にいて、ここから寮まではそこそこ距離もある。スピーカー越しに低くなっていく燐音の声に冷や汗が止まらない。
『一彩、お前今どこにいる』
「今?椎名さんの家だよ!今日は泊まらせてもらうんだ!」
——
その後黙り込んだ燐音に対し、用がないなら一旦切るね、と一彩が無情に電話を切って、ようやくニキはハッと我に帰った。気付けばいい塩梅になってしまっていたエビフライを急いでバットに上げて火を消し、その勢いのまま一彩の肩を掴んだ。
「そっ、あっ、それ
……
!」
「どうしたの?」
「いま、今のって、もしかして燐音くん
……
?」
もう手遅れだが一縷の望みにかけて訊ねる。
「兄さんだったよ。黙ってしまったから一回切ったけど
……
」
聞き間違いであれとワンチャン願っていたが、どうやら現実は非情らしい。よろよろと後退ったニキに、一彩が慌てて駆け寄る。
どうしよう、とそればかりが脳内を埋め尽くして頭を抱えたニキ。大丈夫かと声をかける一彩の手の中で、再びスマホが震えた。
「ひっ!」
「あ、兄さんだ。出る?」
「ちょっ、いや待って!」
「む、切れた
……
あれ、またかかってきた」
数コールで切り、またかけてくる。鬼電というやつだ。ひっきりなしにかかってくる電話、追い立てるようにピロピロ鳴る着信音がこんなにも恐ろしい。
そして、冒頭へ返る。
着信が切れるとメッセージが二、三送られ、また電話がかかってくる。
(お、怒ってる
……
燐音くんめっちゃ怒ってる
…
!)
合間合間に送られてくるメッセージ通知が全部『おい』『出ろ』『ニキ』『電話』の単語なのが本当に怖い。怯えるニキと地獄のような兄からの通知を交互に見やり、一彩はというと困ったように眉を下げている。
ニキと一彩が付き合っていることは、まだ燐音には伝えていない。一彩が高校卒業するまでずっと付き合っていたらそのときはきちんと伝えようと思っていたが、ニキはまだ命が惜しかった。首の骨を折られる覚悟を決めるのはまだ先で、とりあえず今は恋人ができた嬉しさに浸ってようと思った。要は問題の後回しだ。ブラコン拗らせた兄バカに見つかったら、少なくとも朝日は拝めない。月夜ばかりと思うな、なんて言われそうなのだ。冗談抜きに。
最早顔面蒼白でどうしようとうずくまったニキと、またやらかしてしまった、どうしようとおろおろする一彩。慌てふためく二人がいたってなにも状況は解決しないまま、突然通知の嵐が止んだ。
「
……
あ、あれ?」
「止まった
……
?」
しん、と静まり返る。揚げ物の音も通知の音も無い部屋では換気扇の唸りだけがいやに響いている。何とも言えず二人して暗くなったスマホの画面を眺めていたら、ブブッとメッセージ通知が一件。
『今からお前の家に行く』
「ひいっ!あっ、あっ、うあぁぁ
……
」
その後ろには何も続かず、ただ一件だけがしばらく表示され続け、画面が暗転した。ということはつまり『今から行くから逃げるな』であり『今から行くから覚悟しろ』でもあるということ。なお逃げた場合はどうなるかなんてニキでも分かる。問答無用で半殺しだろう。
「兄さん来るの?」
「お、弟さん
……
どうしよ、僕らのことバレたら、僕殺される
……
!」
「あはは、流石に殺されないと思うよ。
……
僕の高校卒業までは内密にって決めているけど、いっそのこと今伝えてしまおうか」
「いやっ、それはもっとこう、準備してからにしましょう?!」
まだ死にたくない。その一心でニキは一彩にぎゅうっとしがみついた。燐音が来るまで時間がない。可愛い弟に手を出されている(かもしれない)のだから、全力疾走で向かってきているはずだ。
「でも秘密にしていた方が後々怒ると思うけど」
「そっ、それはそうかもしんないけどっ
……
でも絶対今じゃなくていいっすよね?!今バラしたら僕ぁ百パー終わりっす!簀巻きにされてカラッと揚げられて海に沈められるっす!」
「そんなことしないと思うよ。でも、もっとタイミングを見て打ち明けるってこと?」
「そう!!そうそう!もっと燐音くんの機嫌がいいときにしましょう?!」
「うーん
……
」
「ねっ、そうしましょうっ?僕まだ死にたくないっす!」
得策じゃないと渋る一彩にみっともなく泣きついて、必死に請う。もうこの際呆れられてもいいから、ニキはとにかく目の前の危機を避けることに精一杯だった。
「
……
分かったよ。今兄さんに打ち明けて今後何かあった時、椎名さんが軽薄な人だと思われるのは僕にとっても本意じゃないしね」
「弟さん
……
!ありがとうございます!」
「でも僕は嘘をつくのが下手だから、もし兄さんが見抜いたらそのときは二人で叱られよう」
「それは仕方ないっす!甘んじて殺されます!」
せめて足掻きたい。足掻いた末にバレたらそれこそ死だが、それならまだ諦めがつく気がした。
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