いを
2024-12-27 21:28:15
2850文字
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タグまとめ11

モイラと鼎と糸車
刀神
ブツメツフツマ
それぞれフォロワーさんのお子さんお借りしています。

ムムリクの血の色を知っているか(モイラと鼎と糸車/夢見さんと大森)

 時折思い出す。戦死した友人たちのことを。簡単に手足や頭が吹き飛び肉塊になったので、判別などつくこともなかった。相手は短機関銃――トムソン銃を中心とした銃攻撃に対し、こちらは軍刀、あるいは歩兵銃のみ。勝とうとする気力すらなかった。「天皇陛下万歳」と叫びながら突撃していった戦友たちはみな死んだ。刀では勝てるはずもなかった。保は大怪我をおったものの、五体満足で帰還した。それは世間一般には〝恥知らず〟だったらしい。
 一生懸命な横顔を見つめる。墨のように黒く長い髪が肩からさらりと流れる。
 彼女と美術館めぐりをするようになって少し経つ。艶やかなソファに座って、大きな洋画を食い入るように見つめていた。くすりと笑うと、彼女ははっと顎をあげて、「大森さんはどう思われますか。この絵画」と小さな声で呟いた。
「天使の絵ですね」
 一歩足を踏み込み、絵画をゆっくりと眺めた。天の使い、天使。顔はあどけなく、そしていとけなく、全体的に丸みを帯びた小さなからだ。国のためとはいえ戦争に加担し人間を殺した自分には縁の無い――概念だ。
「全体的にやわらかな色合いでも、ぼんやりとはしていない。見事な色使いです」
「ええ。本当に」
「天国……狭き門が開かれる、ですか」
 ぽつりと呟いたことばは、きっと彼女にも届かなかった。


指先に火(モイラと鼎と糸車/ヨルさんと春木)

 以前本屋で行き会った、着物を着た女性を見かけた。袖からひらりとした、金魚の尾のような幾重にも折り重ねられた布が見える。
「なあ、おい、あんた……
 その袖から落ちた布を拾い上げる。ハンカチだろうか。彼女は気付かずにスラリとした足取りで賑わう街中を歩いて行く。正直、了は人混みが苦手である。
「落椿真幸」
 果して聞こえるか聞こえないかの間の声でぼそりと呟くと、黒く長い髪の毛先を揺らしてピタリと止まった。白い顔はこちらを確かにみとめた。「まあ。先日の」と納得したような表情で、こちらに歩いてくる。
「落とした。あんたのだろう」
「ありがとうございます。たしかに、私のものです」
「ああ。それじゃ……
 ハンカチを渡すと、きびすを返そうとしたが、そういえばと思い、足が止まる。人が多いから先ほどから動悸やら吐き気やらがひどい。
「お顔の色が悪いですが、お加減でも……
「気にするな。あ……、そういえば次に会ったら渡そうと思ってたんだ」
 胸ポケットから名刺を取り出す。名刺入れなど持っていないのですぐ皺が寄ってしまうが、今日は名刺を刷ってもらったばかりなので皺はない。
「俺ばかり名前知ってても不公平だろ。春木了。……前言ったとおり、あんたと同じ作家だよ」
……ありがとうございます」
 名刺を受け取ったのを確認すると、そっと背中を向けて歩いた。感想をお伝えしたいと彼女が以前言っていたが、こう人が多いと頭に入ってこないのは確実だった。彼女もそれを汲んでくれたのだろう。また次、運が良ければまた会えるだろうと思う。


やわらかなものに喩えてね(刀神/瑠璃さんと白映)

 最近街中が夕方になると異様にぎらぎらとしている。人間曰く「イルミネーション」という光る飾りらしい。白映は世間のことに特別疎いというわけではないが、興味が無かったのでこの季節になると現れるこのぎらぎらを無視してきた。瑠璃茉莉はこの飾りを見つめている。ほのかな甘い匂いを辿ると、ワインや肉を持っている人間たちが固まっていた。
「瑠璃様。あれはお好きですか」
「あれ……?」
 白映の視線の先には鶏の肉を焼いたものを売る店が並んでいた。焼き色は妙につやつやとしていて、独特な焦げるにおいを発している。
「あ……。白映は食べられるの、鶏肉」
「僕は食べものに好き嫌いはありません。もっとも僕たちには何の栄養にもならないと思いますが」
「じゃあ、なぜ?」
 ぎらぎらとした光はどうやら人間たちだけではなく、物体に宿った〝なにか〟にも影響を与えるようだった。
「今の時期、クリスマスとやらで浮き足立つ人間たちを見ているだけではつまらないですからね」
 少々、僕たちもその「遊び」に付き合ってみてもいいんじゃないですか、とくちびるをゆるめる。
 彼女は「素直じゃない」と同じようにほんのすこし笑っていた。


しづかな夢をみているつもりで(刀神/稲月堂さん、弓削野さんと青嵐)

「おや」
「あれは」
「あー」
 三者三様の感嘆とも諦めともつかないため息に似たような呟き。三人が視線をあげた先には、宙ぶらりんになった足。足、のみの、霊。
「あれはさすがに」
「そうですね」
「どうしようもできないよね」
 三人同じ場所を見ているものだから、はたからそれを見る通行人も同じように宙を見るが、そこにはなにもない。 
 ぱちゃんと水音が聞こえ、視線を外す。足もとにちいさい魚――真っ赤な金魚――の幽霊が藻掻いている。青嵐は「ああ」と肩をすくめた。
「藻之花の怨魂、金魚に着す」
「ということはこの足は女性かも、と」
「見ようによっては確かに」
「初めて見ました。稲月堂さんと弓削野さんの得意分野では?」
「確かにここ・・ではあまり知られていない幽霊ですね」
「えーっと、」
「金魚鉢で溺れ死んだ女性の幽霊ですね」
「梅花氷裂という話に出てきた話ですが」
「えー、小説の話のことでしょ?」
「そうですね。人の知識とは恐ろしいものです。この方もお気の毒さまで」
「そろそろ行きましょうか」
「はーい」


鼓動と真上(ブツメツフツマ/未谷先生と無告)

「未谷先生、その本取ってもらえますか」
「あ、これ?」
 ひょいと机の上の本を持ち上げた懸は、その本のタイトルを見て「懐かしいねえ」と言った。
「ふふ、そうですね」
 久しぶりにふたりとも放課後があいたので、散らかる一歩手前の机を整理していたのだった。無告の机を整理していると、単行本が何冊か出てきた。
「駆込み訴え」
 と、二人そろって声に出した。懸は日本史の非常勤講師であるし、知っているだろうと思った。それ以前になによりも有名な文学だ。
「ありがとうございます」
 その本を受け取り、ぱらぱら眺めているとページが一枚、落ちてしまった。
「あ」
「その本、だいぶ古いよね」
「数十年も昔のものです。初版だったらお宝だったのですが」
 冗談交じりで笑ってみせると、懸もくすりと笑った。
「黛先生って意外とがめついよね」
「ええ。自他共に認める生臭坊主なもので」
 ガサガサとした手触りのページを拾うと、本に差し入れた。落ちたページには、こう書かれていた。――けれども私は、あの人の美しさだけは信じている。あんな美しい人はこの世に無い。――まるで真逆の無告を皮肉ったような言葉に、くちびるがそっと歪む。
「このあと時間があったら一杯、いかがですか。懸」