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らん
2024-12-27 08:59:31
2468文字
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ドントルック
さくこと/WB。見えない位置につけたものが見えてる話
ゴトン、と鳴った音がなんなのか、ことはにはとうに予想がついていた。
「おはよ、桜」
彼が布団から這い出す様子を少しだけ開けていた引き戸越しにキッチンから確認し、ことはは手を一旦止めて朝の挨拶をする。対する桜はといえば、しばらくことはの方を確認し、それからゆっくり「はよ」と舌っ足らずな声で応えた。
二度寝する様子はなさそうだ。ことはは止めていた作業を再開すると、目線も食材へと戻っていく。
「朝ごはん、スープとチーズパンにしちゃった」
常温でも保管できる野菜をいくつかサイコロ状に切り、誰かが置いていったらしい大容量サイズのマグカップに加えた。
桜の家は、ことはが泊まりに来るたびに少しずつ誰かが考えた桜も使いそうなものが増えている。デザインがちぐはぐな食器たちを有難く拝借して朝食を作るのは、桜の家に泊まった翌日の定番だった。
自分が置くようになったコンソメを加え、水を足すとようやく導入された中古屋で2千円だったらしい昔ながらのターンテーブルが回るレンジで温めていく。チーズパンはハムとチーズをトーストしていない食パンで挟んだだけの簡素なものだ。
どうせなら一緒にポトスまで行って食べればよいのだろうけれど、ポトスでは基本店員と客だ。そこに贔屓はほとんど入らず、結局料金を取るくらいならと、桜の家からポトスへ出勤する時は此処で作ってしまうことが定着していた。
「やっぱ冷蔵庫欲しいな
……
」
レンジもあるし、鍋をする用にやはり誰かが持ってきたらしいカセットコンロも置かれている今、ことはとしては切実に欲しいものだ。ひとりごとにも満たないような呟きだったのに、古い床を軋ませてこちら側にやってきた桜が律儀に返してくれる。
「誰か来た時しか使わねぇし」
寝ぼけ眼をいくらか擦り、起き抜けよりは声が出ている。舌っ足らずさもなくなった恋人を見てもう一度「おはよう」とことはが重ねるも、桜と目線がかち合うことはなかった。
桜の視線はやや下がっており、一体何を見ているのか分からない。ことはの腹あたりだろうか。その目線を辿るようにことはも視線を合わせたが、自身の着ている服におかしなところは見受けられなかった。しいて挙げるならば、ショートパンツが寒そう、だろうか。
底冷えするので靴下とスリッパだけ履き、調理といった調理もほぼ無いのでエプロンもしていない。それが布団から抜け出たばかりの桜には寒そうに見えるのかもしれなかった。
すると、ちょうどレンジが規定時間温めたことを報せる音を鳴らす。ことはは桜を背にしてレンジのドアを開けようと手を伸ばそうとした瞬間、ぐ、と腰に手が回り、彼女の身体は一歩後ろへと遠のいた。
抱きしめられていると分かったのは、片方だけでほぼ腰全体に回っている力強い腕が見えたからだ。ついで肩に桜の頭の重みが加わり、もう片方の手が既に回っている腕へと添えられる。
朝と夜だけ、桜はいつもより子供らしい。くすくすと笑みをこぼし、ことはは彼の甘えに身を委ねた。
「朝起きるのは一緒が良かった?」
「
……
布団、すこし冷たかった」
「それはごめん」
まだ温い桜に抱きしめられていると、べつに自分の体温がなくても布団は温かかったのではないかと思うけれど、あえて言いはしない。半分だけ白い髪を利き手ではない左手でぎこちなく撫でると、擦り寄るように桜が顔を動かし、唇が首筋に当たった。
ついで鼻先が耳の裏を掠め、耳朶のあたりに息がかかる。抱きしめる力は更に強まり、ふと桜の右手が徐々に下へと撫でるように這っていくものだから、ことはは思わず身を固くしてしまった。
「
……
ねえ、朝ごはん
……
」
拒否なのかただの疑問なのか、もはや拒んだことにもならなそうなやんわりとした咎めを桜は気にせず、右手は剥き出しの太腿をゆるやかに下っていく。冬の外気温に晒された生脚は既に冷え切っており、まだ温かい桜のてのひらとの気温差で小さく息が漏れた。
指先が思わず閉じていた両脚の隙間に入り込み、割り込むように付け根のほうまでなぞっていくものだから、ことはは観念するよう目蓋を降ろす。とてもではないが視線を下に向けられない。
輪郭あたりを辿っていた桜の唇が今一度耳に触れたと思ったのも束の間、彼の頭の重さが肩にかかり、額を押し付けられていることが分かる。するりと内腿を撫であげられ、ショートパンツの裾口あたりに骨ばった桜の指が食い込んだ。咄嗟に出そうになった甘い声をことはが我慢すると、元凶はようやく口を開いた。
「この短ぇパンツ、今日は履くな」
「
……
なんで?」
「
……
、
……
から、
……
」
至近距離にいるのに、顔を埋められているせいで肝心の部分が聞こえない。分からなかったことははようやく薄目を開き、抱きしめられたままの彼の左腕に両手で触れる。「もう一度」と促すと、ともすれば痛いくらいの強さでことはの身体を抱きしめ、内腿に指を押し付けた。
「〜〜っ、
……
昨日、ここに、痕つけたから、
……
」
いくつか見えてる。
その言葉とともに目線をどうにか自分の太腿、桜の押さえているあたりを見ると、確かに赤い鬱血痕がいくつか隠しきれていない。
「ッ
……
こんな、まぎらわしい教え方やめてよ!」
気恥ずかしさと昨日の情事の際に吸い付かれた事実と流されそうになった自分に対しての羞恥心で顔が赤く染まっていく。これでは今日はミニスカートを履くことも出来なそうだ。教えてくれるのは有難いけれど、もっとフラットに教えてほしかった。
その気持ちだけで紛らわすように溢れた本音を、桜はしっかりと受け取る。
「まぎらわしくねぇ」
むっとしているのがよく分かる声色。ことははそこで言葉の綾だと弁明すれば良かったと思ったけれど、それももう遅い。脱がせるようにショートパンツのホックとファスナーを下げられ、今度こそ唇を奪われた数秒後、抱えられた体は布団へと逆戻りになった。
スープはきっと温め直したし、パンはちょっとパサついたと思う。
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