「ミー達を呼び出すと言うことは、恋愛相談か?」
「真面目な方のな」
カフェテーブルを間に向かい合わせに座るロビンマスクとテリーマンが目を合わせてニヤリと笑む。
その間にはラーメンマンが座っている。
「仕方ないだろう、恋愛経験があるまともな奴はお前らくらいしかおらん」
ラーメンマンがコーヒーを啜りながら答えると「間違いないな」と同感を示しながら2人もカップに手を掛ける。
「で?年下ダーリンとはよろしくやっているのか?」
テリーマンの問いかけに明らかな動揺を見せたラーメンマンは口に含んでいたコーヒーを口の端から垂らしながらわなわなする。
「と、年下ダーリンなんて呼び方はよせ
…気色悪い
…」
「間違ったことは言っていないぞ?」
「わかったぞ、ダーリンというのが気に食わないのだな?ベイブ(彼氏)はどうだ?」
「ロビン!そういう事ではない!!あと、よろしくやっていないから相談に来たんだ
…察しろ」
ラーメンマンがおしぼりで口を拭いながら言うと、2人は悪かったと笑ってのけた。
「喧嘩でもしたか?」
テリーマンがテーブルに肘をつき、やんわりとした口調で問う。
それを首を振って否定する。
「ブロッケンは私と恋愛しようと向き合ってくれているが、私は
…」
言葉を詰まらせるラーメンマンの背中をロビンマスクがポンポンと叩く。
「友情も恋愛もそう変わらないさ。私たちとの友情は黙って築かれたものではないだろう?待っているだけではダメだ」
「そうだな。でも、ユーたちは少し特殊で、友人から恋人になろうとしている。これはステップアップじゃなくて、1から築き直さなきゃいけないぜ」
2人の言葉がラーメンマンの心にグサグサと刺さっていき、そうだな
…と消えそうな声しか出なかった。
「まずはデートだな!」
ロビンマスクが人差し指を立てながら声を張る。
同調するようにテリーマンが頷く。
「意外とブロッケンは控えめな男だ。水族館とかどうだい?」
「おー!ナイスだ、テリー!それでいこう、ラーメンマン!」
「水族館はあまり興味ないのだが
…」
『お前の好みは関係ない!』
自分本位なラーメンマンの意見に2人の声が重なる。
「とにかく相手に尽くせ!デートでのわがままは1つまでだ、いいな?」
ロビンマスクが立ち上がり、ラーメンマンの肩をグッと掴む。
「ラーメンマンは結構わがままだからな」
「まぁ
…謙虚とは言えんな」
クスクスと笑うテリーマンに、ラーメンもごもっともだと苦笑する。
『検討を祈るよ』
____________
「あんたからデートの誘い
…しかも水族館たぁ、意外とロマンチストなんだな」
待ち合わせした時からずっとニコニコ笑っているブロッケンJr.の姿に、ラーメンマンも思わずつられてしまう。
「お前が好きそうだから」
「えっ
…」
軽く言ったつもりの言葉にブロッケンJr.が目をまん丸にして、口をあんぐりとさせる。
「な、なんだ」
「いや
…あんたが俺のこと思って選んでくれたなんて、嬉しくてさ」
ブロッケンJr.は照れ隠しに鼻を指で擦る。
その姿を見てラーメンマンはフッと微笑み、恋愛というものを少し理解できた気がした。
友人を思い、分かち合うものに似ているが、動かされる感情が違うのだろう。
「さぁ、行こう。ブロッケン」
「ああ!」
少し先を歩いていたラーメンマンがブロッケンJr.を軽く手招くと、尻尾を振って飼い主に駆け寄る犬のようにやってくる。
可愛いやつだな
…とつい口角が緩んでしまう。
日々鍛錬に明け暮れていた2人にとって水族館は縁のない場所であり、見るもの全てが真新しく感じる。
水槽という箱に入れられ、見せ物にされている食糧を見て何が楽しいのか
…と思う気持ちをグッと抑えるラーメンマンを他所に、ブロッケンJr.は書物から得た知識を実物と照らし合わせるように語り続けている。
「楽しいか?」
絞り出したものの単直な問いかけしかできず、いかにこう言った事に疎いかを痛感したラーメンマンはふっと上を見上げる。
「すまねぇ、楽しくないように見えたか?」
ほらみろ、気を遣わせた
…と肩をガックリ落として自分に呆れるラーメンマンを見て、ブロッケンJr.は慌ててその腕を掴む。
「俺はスッゲー楽しい!本でしか見た事ない生物をじっくり見られる時間に充実した気持ちだ!!
…ラーメンマンは、楽しいか?」
普段はツバが陰になって隠れている瞳が、今日はニット帽ゆえにしっかり見えている。
この場はそれほど明るくないというのに、水槽を照らす照明を水が反射し、それを全て受け止めているかのように煌めくブロッケンJr.の瞳に、ラーメンマンは中々目を合わせずにいた。
「た、楽しいぞ」
「そりゃ良かった!」
言葉は詰まるが、お得意の営業スマイルがうまくいき、なんとかその場を凌いだ。
『わがままは1つまでだ』
ロビンマスクの言葉がふと浮かび、ラーメンマンは楽しげに肩を揺らして先をゆくブロッケンJr.を見つめる。
「わがままか
…」
正直、親父の命を奪った男を「恋人」として愛そうとしてくれる
…それだけで十分だし、それを受け入れて嬉しいなんて思ってしまう自分はこれ以上なく『わがまま』であると、ラーメンは眉間に皺を寄せる。
そんな考えを巡らせるラーメンマンは、すぐ隣を歩くカップルが目に留まる。
指と指を絡ませ合い繋がれた手をじっと見つめる。
ラーメンマンにとって誰かと手を繋ぐ事は、これまでにも幾度かあり抵抗はないが、あのように結ぶのは恋人や夫婦といった恋愛関係を築いた相手である事が多いため経験がない。
何か違いがあるのかと少しの興味を抱いたラーメンマンは、ブロッケンJr.の肩を叩く。
「あっちに行こう」
指差した先は一際暗く、入り口には深海エリアと書いてある。
ブロッケンJr.は面白そうだな!と快諾してエリアへと歩を進める。
あまり人気がないのか、人が少ない。そもそも冬の水族館は寒い印象から、選好されにくい。
キョロキョロと見渡すと小さな水槽がいくつかあり、見慣れない奇怪な生物が2人を迎える。
「あ
……」
その中でも巷で人気を博していて、ラーメンマンですら存在を知っているメンダコに彼は目を奪われた。
「お、メンダコだ!
…なんか、あんたら睨み合ってる?」
面白いことにメンダコが浮遊しながらラーメンマンを凝視しており、ラーメンマンもまた、カッと目を見開いてメンダコを凝視していた。
「こいつ
…私に何か言いたいことでもあるのか?」
「いや〜何もないと思うけど?」
「目線を外したら負けな気がする」
「気がするだけだって、ほら、いくぞ」
呆れ笑いながらブロッケンJr.がラーメンマンの腕を引っ張ってその場を離れる。
深海エリアの出口が近づくと、ラーメンマンはやや落ち着きのない様子を見せる。
水族館にちゃんちゃら興味がない彼が、率先してこのエリアに行きたいと言った理由はただ一つ
…。
「ブ、ブロッケン
…」
最後の水槽を見終わって出口に向かおうとするブロッケンJr.の手に、ラーメンマンの指がそっと触れる。
驚いて振り返る先に見えた姿に、ブロッケンJr.の頬が緩む。
「ラーメンマン
…」
ふわりと紅潮した顔に複雑な表情が浮かぶ。
その初めて見る姿はブロッケンJr.の心を強く揺さぶり、迷えるしなやかで美しい手を両手でギュッと握る。
「もしかしてずっと手を繋ぎたかったか!?全然気づかなくて悪かったな」
「あ、いや
…」
握っていた手に指を絡ませて恋人繋ぎをする。
必然と体が近づき、体温を感じ合う。
「これは
…その
…ぐっ
…」
強請ったのは自分とはいえ、大きな男同士で手を繋ぐ姿はやけに目立ち、羞恥に駆られたラーメンマンは空いている手で顔を覆う。
「知ってたか?この繋ぎ方は貝殻つなぎとも言うんだぜ。この場にピッタリだよな」
ブロッケンJr.が繋ぐ手をグイッと上げてラーメンマンに見せるように話すが、それはラーメンマンの羞恥心を煽るだけだった。
「ブロッケン、やはり
…」
「あんたと恋人なんだってのを感じれて嬉しいよ」
その言葉とともに穏やかな笑みを浮かべるブロッケンJr.を見て、ラーメンマンは続く言葉を飲み込んだ。
またひとつ恋愛についてわかった気がすると、ラーメンマンは眉間の力を緩め、口角を緩やかに上げる。
「私も嬉しいよ」
「う、えっ!?」
「なぜ驚く?」
「あーいや
…今日はえらく素直だなって」
ブロッケンJr.は困惑した様子で頭を掻く。
そんな若人の手を引っ張ってラーメンマンは前へ一歩進む。
「次に行こうじゃないか!ペンギンだぞ!」
仲間内で偶に見せる悪戯な笑顔を浮かべるラーメンマンに釣られて、ブロッケンJr.もヘヘッと笑うと、2人は同じ歩幅で先に進んだ。
「イルカって賢いな〜」
「餌に釣られてるだけじゃないか」
イルカショーまでしっかり満喫し、各々の気持ちを吐露しながら最後のグッズ販売スペースに立ち寄る。
海の生き物をモチーフにした可愛らしいお菓子やぬいぐるみにあふれるショップは、休日ならば子どもたちで賑わうだろう。
しかし今日は真冬の平日で閉館間際であった為、チラホラと人がいる程度だ。
やや場から浮きつつも、普段の生活では得られない空間を楽しむようにフラフラと回遊する。
服飾コーナーでブロッケンJr.がデカデカとペンギンがデザインされたスウェットを手に取り、我が身に当てながらラーメンマンに問いかける。
「なぁ、ラーメンマン。ペアルックとかOKなタイプ?」
「いやだ。特にそれは」
呆気なく完全敗北となり、ガックリと肩を落としながらスウェットを戻すブロッケンJr.。
その様子を見たラーメンマンは弱ったな
…と苦笑すると、振り返った先に丁度良いものがあり手に取る。
「ブロッケン、これはどうだ?」
手のひらサイズのイルカのぬいぐるみキーホルダーを揺らしながら見せると、ブロッケンJr.は少し驚くが、すぐに笑顔を浮かべる。
「これ、ただのキーホルダーじゃないぜ、ラーメンマン」
「ん?」
ブロッケンJr.がもう一つ手に取り近づけると、イルカの口元と尾の先がピタッとくっ付いた。
「マグネットが仕込まれててくっ付くんだ。キスしてるみたいだし、くっ付いたらハートみたいになるだろ?」
「あ、ああ
…」
ニヤニヤしながら説明する姿に何を言いたいのか察したラーメンマンの顔に朱がさす。
「これなら、あんた付けてくれるのか?」
「まぁ
…付けん事はない」
「マジか
…じゃ、ラーメンマンは青で、俺は水色にするな!」
親指を立ててグーサインをした後、レジへと向かうブロッケンJr.の背を見つめるラーメンマン。
うっすら開かれた瞼から覗く小さな瞳は恋慕に揺れていた。
____________
「やぁ、ラーメンマ
…ん?ユーにしては珍しいものをぶら下げているな」
ラーメンマンが肩に引っ掛けている巾着を見つめながら不思議そうに頭を傾げるのはテリーマンだ。
紐にイルカのぬいぐるみが括り付けられていた。
「先日ブロッケンと行った水族館で買ってもらったんだ」
質問に対して真面目に答えたラーメンマンを見て、テリーマンは口を押さえて体を震わせる。
「テリー、なぜ笑う」
「Sorry
…なんて言うか、らしくなくて」
テリーマンは眉間に皺を寄せるラーメンマンの肩をポンポンと叩くと、グーサインを送る。
「Good luck⭐︎」
「ああ
…」
言葉ではなく、状況が理解しきれずさらに眉間の皺が深くなるラーメンマンに、テリーマンはウインクを送ってByeと去ってゆく。
「私たちの恋に幸運を祈られてもな
…」
イルカを愛おしげに取る手とは裏腹に、表情は晴れないでいる。
「この一時、あの子が満足するまでだ」
____________
死にかけたあの時、
ギリギリまでそばにいてくれたあの子は
ひどく悲しんでいた。
目に見えたわけでも、耳で聞けたわけでも無いが、
魂で感じられるほど、彼の想いは強く私に届いた。
こんな関係になる事は許されないと
突き離してきたが それでも
恨めしいであろう私を『愛したい』と
あの子が思うものだから、
それくらいは叶えてやりたい。
いつか
私が必要なくなる時がくる。
それまでの『恋愛』
-end-
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