暖房の風に吹かれてキャンドルの炎がゆらゆらと揺れるから、俺たちの影の形も風に吹かれたように揺れてくっついたり離れたりしていた。そっと覗き込んだ逢さんの瞳には涙が浮かび、反射する火が星のように輝いて見える。このうつくしい光景を見られるのは俺だけなんだと思うと少しだけもったいないような、だけどそれ以上に心が満たされるような気がした。
「逢さん、なにかやり残したことはありますか?」
「……? なんの話だ」
「クリスマスです。一年に一回しかない日をせっかく二人きりで過ごせているので、やりたいこと全部やっておきたいなって」
「あぁ、クリスマス。……でも、もう十分」
ふわりと口元を和らげ、可愛らしく微笑んだ逢さんが俺を見つめた。無意識のうちにその唇に口付けてから、本当に?と頭の中を覗き込むように逢さんのことを見つめる。
二人ともが喋るのをやめると控えめにかけられたレコードの音が部屋の空気を整えるように優しく響いた。ちゅっと逢さんからもキスをしてくれて、俺がときめいているうちに逢さんの手が俺の腰に回ってするりと撫でる。
「美味しい食事で腹も満たされ、用意していたプレゼントはちゃんと渡せた。好きな人が隣にいてくれてしたい時にキスをできる。クリスマスの過ごし方としては百点だろう」
「ふふ、うん、そうかもしれません」
「それに何かやり残したことがあったって、来年のクリスマスの楽しみが増えるだけだ。一年に一回しかないのは昨日だって明日だって同じで、今、俺はおまえと過ごせることに満足している」
「……来年も、一緒に?」
「……当たり前だろう。おまえはそう思っていなかったのか」
「え、いえ、……クリスマスの逢さんは、人気でしょうから」
「……クリスマスだろうがなかろうが需要は変わらない。だが、俺が一緒にいたいのはおまえだ、由鶴。来年のクリスマスの予定も俺が埋めていいか」
「……ぜひ」
愛情を、まっすぐに伝えてくれる人だと知っている。こんな俺のことを好きでいてくれて、特別に大切にしてくれているし、それを俺に伝えることを疎かにしない。自己評価があまり高くない俺はまだ時々自分が逢さんの隣にいられることを信じられなくなってしまうけれど、逢さんは飽きることなく俺に言葉と態度で愛を教えてくれるから、俺も遠慮せずに逢さんを好きでいられる。
好きだと思うたびにキスをしていたらきっと逢さんは喋る隙がなくなってしまうだろう。ただその瞳に見つめられるだけで、俺の心臓はドキドキと存在を主張する。息を潜めて鼻先をそっと触れ合わせ、逢さんと至近距離で見つめ合う時、俺はこの人と出会えた自分の人生がどれほど幸福か、運命に感謝せずにはいられない。この一瞬のために生きてきたんだと胸が熱くなる。
呼吸すら触れ合えそうな近さで、逢さんがふと目を伏せて、それからゆっくり瞼を上げた。その瞳がいつのまにか可愛らしく照れていることに気がつき、さっきまでとは違うトキメキを感じて思わず唇を緩める。ねえ、逢さん、自分がどんな顔で俺のことを見つめているか分かっていますか?
「おまえとの会話はいつだって楽しくて話が尽きることはないけれど、……もう夜も遅い。そろそろ寝ようか」
「……そうですね。明日、朝ごはんは何が食べたいですか?」
「まだ腹がいっぱいで考えられない。由鶴、そうじゃなくて」
「ふふ、ごめんなさい、ちょっと照れちゃった。……寝室まで、ご一緒してもいいですか?」
「……早く連れてけ。クリスマスが終わってしまう」
「やり残しても、来年またチャレンジできますよ」
「やり残すつもりか?」
「まさか。……ちゃんと、残さずいただきます」
「……」
逢さんは俺のことをじっと見つめた後、ふっと満足気に笑い、俺の首に手を回した。近づいた唇は頬を掠めていき、耳元でそっと息を吸う。
「おまえのために用意したご馳走だ。残さず、召し上がれ」
逢さんはそう言うと俺の耳朶に唇を触れさせてちゅっと甘い音を立てた。俺は煽られるままにその体を抱きしめて、首筋に強く吸い付き痕を残す。
二人で一緒に準備した食事も、ケーキも、ワインも、今日は全部がとびきり美味しかったけれど、逢さんに敵うものなんてひとつもない。昨日も明日も逢さんは逢さんだけれど、今日は俺のためだけに用意されているというなら、今日の逢さんを余すことなく味わおう。こんなに贅沢なクリスマスは生まれて初めてだった。
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