まきわ
2024-12-26 20:41:37
2317文字
Public クロリン
 

勝利のジンクス

創後、界前くらいのクロリンです
冬に帝都デートしてるだけの短いおはなしですぜ

「のあーーーー!」
大きく両腕を挙げて絶叫をあげたクロウの一連の動きを見つめた後、リィンは苦笑しつつその肩をぽんと叩いた。
ここは帝都の競馬場。
冬季で一番大きなレースである、本日のメインレースが終わったところだった。
周囲ではクロウ以外にも歓声や悔しそうな声があがっており、場内は高揚した熱気に包まれている。
「残念だったな」
背中をさすりつつクロウの握った馬券に目をやる。
クロウが単勝で賭けたのはこれまで大きなレースで何度も勝っているもののここのところ不調が続いていた今回3番人気の馬だった。
クロウは大きくため息をついてから空を仰いだ。
「まさか最後の直線で10番人気が上がってくるとか誰が予想したよ。やってくれたぜ
「だなぁ。俺もまさか当たるとは思ってなかった」
「はっ?」
リィンは自分で買った馬券をクロウに見せた。
正に先ほど1着を取った馬の名がそこにあった。
「マジかよ?!つかなんでそれ買った!?」
「いやだってクロウが直感で良いって言うから。調子は悪くなさそうだったし名前が気に入って」
「名前?なんでだ?」
クロウは改めてリィンの持つ馬券を見つめる。
そこに印字された馬名は「ブルーデスティネイション」。
実際馬主が込めた意図はわからないが、単純に考えれば「青い到達点」だろうか。
リィンはどこか愛おしげにその文字列を見つめて微笑んだ。
数年前までの、俺にとってのクロウみたいな名前だなって思って。大した額を賭けるわけじゃないし、頑張ってくれたらいいなと思ってたけどまさか勝つなんてなぁ」
……その馬に取っちゃ勝利の女神だなお前は」
半ばあきれ顔で言ったクロウをリィンはジト目で睨んだ。
「いや女神って。別に俺が買ったから勝ったわけじゃないだろ」
それにこの理由であれば因果の半分はクロウにある気もしたが、クロウは構わずに頭の後ろで腕を組んでからかうように言った。
「いやーあやかりてーもんだぜ。今日は女神様に奢ってもらおうかねー」
それ以上言うとクロウに奢らせるぞ」
「追い打ちかよ!?いやまぁデートに競馬場、なんてのに付き合ってくれたし奢るのはいいけどよ」
あっさりと翻したクロウに苦笑しつつリィンは整備を始めた馬場に視線を向けた。
「馬が走るのを見るのは好きだしそれはいいけどな。とりあえずそろそろ出ないか。何か食べよう」
「だな、興奮したら腹減ったぜ。ワインがうまい店見つけてあるからそこでいいか?」
「うん、任せるよ」
二人は連れ立って競馬場を後にし、年末の忙しなさにざわめく街に出た。
ヨルムンガンド戦役以降また名前が売れてしまったリィンはしばらく帝都へ出る時は眼鏡を着用するようにしていた。
それからまた少したって落ち着いてきたと思うのだが、こうしてクロウと並んで歩いているとどうにも視線を感じることが多い。
クロウにやはり眼鏡をするべきだろうかと相談したこともあるが、「そういうんじゃねぇから流しとけ」の一言で終わってしまった。
しばらくは気になって慣れなかったが、最近はさほど気にしなくなってきていた。
「しっかしお前はほんと勝負強いやつだよな。こんなことなら100万ミラくらい賭けさせとくんだったぜ」
「いやそんなに賭けられないから。クロウも変な賭け方はするなよ?」
「わーってるっての。趣味レベルでしかやってねぇから心配すんな。一度ユーシスとかミュゼの嬢ちゃんあたりにどかっと賭けさせてみてぇけどな」
「仲間に何を求めてるんだお前は。そもそも人の教え子に妙な事をさせないでくれ」
とはいえあの二人は、特にミュゼの方はあっさり当ててしまいそうだから質が悪い。
いや、どちらかというとクロウがどうにも勝負弱いというべきか。
(自分の為に賭けると弱いんだよな。人の為に賭けてる時は強い気がするんだが)
けれどそういうところもクロウらしい、そう思ってリィンはなんだか嬉しくなってしまった。
さりげなく距離を詰めて寄り添うと、クロウも不自然でない範囲で腕を絡めてきてくれた。
そのまま雑踏の中をどこか暖かい気持ちで歩いていると、ふとクロウがにやりと笑って横目でリィンを見た。
「あれだな。次でかいレース賭ける時はお前にほっぺにチューでもしてもらうか」
「いやそんなジンクスないだろ
「いーや、お前にほっぺにチューしてもらえたらなんでも勝てる気がする」
「れ、連呼するなって。俺にそんな力ないから」
「じゃあ逆だったらどうよ。お前の負けられない決闘の前にオレがほっぺにチューしてやったら」
なんとなく、心当たりの決闘があったので思わずその状況を想像してみてリィンは少し頬を染めて口を尖らせた。
「そりゃ絶対負けないなって思うけど
「っかーー!甘ったりぃーー!」
「クロウが言い出したんだろ!」
絡めていた腕でそのまま脇腹を軽く肘打ちしてやるとクロウは笑いながら身をよじってそれをよけた。
横を歩いていた人にやや迷惑そうな顔をされて、思わず二人顔を見合わせて咳払いする。
また寄り添って歩き出して少しするとクロウがそっとリィンの手を握ってきた。
でもま、そうやってお互いが相手の勝利のジンクスになれたらオレら最強だな」
ふふ。ああ、そうだな。誰にも負ける気はしないかな」
「問題はあれだな、二人で同じ勝負に挑む時だな」
「それこそ、誰にも負けないさ。クロウと一緒なら」
ああ、そうだったな」
二人は手を繋ぎ合って、寄り添うように街を歩いて行った。
もしかしたら誰かに見られるかもしれないけれど、どうでもよかった。
だって自分たちは、最強なんだから。