ぬこ尻ryo
2024-12-26 20:10:53
2973文字
Public ワンドロ企画など
 

絶景と暗闇 ※ワンドロ21回

聖剣ワンドロワンライ企画21回
絶景 / 暗闇

から妄想したロキパパと五歳児デュランのほのぼのワンシーン
からのいつものアレです。
みにぐれ登場

※夢落ち不穏落ち

絶景 と 暗闇







幼いころ、父親である黄金の騎士ロキに連れられて、王城に連れて行ってもらった。
父親が勤める場所である以前に、一般人ではなかなか上がる機会がないお城の内部に立ち入ることができるということで、幼いデュランは大きな二つの目をきらきらと輝かせていた。
ロキの大きな手に引かれて歩く城内は見たことのない美術品や絵画や、兵士と間違えそうな鎧兜の置物などが陳列していた。
何もかもが初めて目にするものばかりで、忙しそうにきょろきょろと眼球だけでなく頭までもを動かすデュラン。
興味と好奇心があふれ出している様子の我が子を見つめるロキの眼差しは、普段訓練兵たちに向ける厳しい眼光とは打って変わって、とても穏やかで幸福な色で滲んでいた。

城内を一通りめぐり終えると、ロキは最後にお城の一番高い場所、監視塔に向かった。
我が子デュランの小さな手を握りながら螺旋階段をぐるぐると上がっていくと、途中にいくつかある、壁をくり抜いたような小窓からのぞく世界がだんだんと青く白い空の色に変わっていった。
小窓の前を通るたびにデュランは『うわぁ、すっごーい』と感嘆の声を上げていた。
そのたびにロキは嬉しそうに口角を綻ばせた。






「さあ、到着だ」
ロキの言葉とともに監視塔の扉が開かれた。
薄暗い螺旋階段の世界に馴染んでしまった両目に、とつぜん眩しい光が飛び込んできた。
デュランは思わず片手で顔にひさしを作った。
しかしすぐにその手を下げた。
光の世界に馴染んだデュランの視界には、広い広い空の青が広がっていた。

太陽の日差しを浴びた青い空。
フォルセナ城下町を守る様に囲う高い山々。
城下に広がる草原の緑に覆われたモールベアの高原。

壁に手をかけて必死で背を伸ばして、壁の隙間から一生懸命に外界をのぞき込もうとするデュランを見かねたロキが、笑いながら我が子をひょいと肩に乗せた。
とたんに、デュランの視線が一気に高くなる。
同時に、視野も一気に広がった。
今まで視線が届かなかったはるか遠くまで、デュランの大きな双眸はその世界の形と彩をとらえて映し出した。

外敵の襲来を見張るこの場所は、見る者にフォルセナ周囲をこえて、はるかさきの海まで見えそうな気分にさせた。

実際、高原に住まうモールベアやラビなんて、ほんの豆粒くらいに見えた。
世界は、こんなふうに見えるのかと、デュランはこみあげてくる万感の思いで小さな胸がいっぱいになった。
言葉につまって息を飲み込む。

父親がフォルセナ国王と一緒に守ろうとしている世界。
もちろん今見えている景色はそのごくごく一部でしかない。
それでも、父親が為そうとしていることの偉大さの一片に触れることができた。
デュランは幼心に、父親に対する誇らしい気持ちが一層大きく強くなったことを感じた。

「ぱぱ、すごおーい!!」
デュランは、ロキの肩の上で無邪気に嬉しそうにはしゃいだ。
目をきらきらと輝かせてはしゃぐ幼い息子に褒められて、ロキは照れ臭いようなけれど誇らしげにほほ笑んだ。

そのとき、不意にデュランは誰かに名前を呼ばれたような気がして、声のした方を振り返った。
「ぱぱの頭にしっかりとつかまっていろよ」、とロキに強く言われていたにも関わらず、その瞬間デュランはその約束などなかったかのようにロキの頭からするりと手を放した。
まるで魔法にかけられたかのように、なんの疑問も抱かず、躊躇いも戸惑いもなく、デュランは声のする方に小さな手を腕を、思いっきり伸ばしてしまった。

そのとたん、危うい均衡を保っていたバランスの糸が、ぷつんと切れた

デュランの体がぐらりと傾ぐ。
咄嗟にロキが体勢を直そうとした。
しかしそれより早く、デュランの体が宙に浮いた。
ロキの体を離れ、虚空に浮かび、糸の切れた凧のように操縦を失い、
監視塔の壁を越えて空中に投げ出された。
ロキが素早く腕を伸ばし、宙に放り出された我が子を掻き抱こうとする。
デュランは手を伸ばして差し伸べられた父親の腕をつかもうとするが、その指先はむなしく虚空を掻くだけだった。
届かなかった腕を千切れそうなほど伸ばして、ロキが息子の名を呼ぶ悲痛な叫び声が空気を激しく震わせた。
けれどその呼び声も次第に遠ざかっていった。


デュランが目を覚ますと、世界はまだ暗闇に包まれた時間だった。
夢だったのか。
全身から汗が噴き出していた。
心臓の鼓動が早鐘を打っていた。
デュランの全身を支配しようと企む厭な感情と意識を振り払うように、デュランは忌々しげに頭をふった。

苛立たし気に上体を起こし、傍らに視線を落とすと、ぐれんまが珍しく大きな二つの目を開けてデュランを見上げていた。
いつもなら鼻ちょうちんをぷうぷう膨らませて幸せそうによだれをたらしながら夢の世界を堪能している時刻のはずなのに。
デュランはぐれんまが眠れないのかと思い、寝る前にいつもそうするように、ぐれんまのあたまをそっと優しく撫でた。
幼い日に、ロキが大きな手で自分にそうしてくれたときと同じように。

しかしぐれんまの視線はなおも変わらずまっすぐに自分に向けられ続けた。
普段とは違う様相に多少の訝しさを感じながらも、デュランはその両目を見つめ返した。
ぐれんまの大きくて丸い二つの眼。
シェイドの刻の薄闇にとけこむような、深い黒い二つの眼。
その双眸の色を確かめるようにのぞき込んだ瞬間、デュランは背筋にぞくりとしたものを感じた。

ぐれんまの双眸が、竜帝と父親が飲み込まれた深淵の闇のように見えた。
その深淵は、さらにあの紅蓮の魔導師さえも飲み込んでしまった。
デュランは、自分もこの深淵に吸い込まれて、飲み込まれて、深い暗闇の世界に堕とされてしまいそうな厭な予感を覚えた。

まるで蟻地獄の罠に落とされるかのような、第六感に似た感覚。

「ただの、夢、だ」

突沸のように湧き上がった不穏な気持ちを払拭するように、デュランは強く頭をふった。
胸中に湧いた不穏な感情を飲み込むように、一度、喉元をごくりと鳴らすと、デュランは改めてぐれんまの頭をぽんぽんと、優しく撫でた。
大きなデュランの手のひらは、小刻みに震えていた。

デュランは、気が付いていた。
あの瞬間、デュランがぐれんまの深淵のような双眸をのぞき込んだ瞬間、デュランの視線は本人の意志とは無関係に、光の無い黒い双眸の奥に、深淵に堕ちた彼の人を探していたのだ。
今更そんなことに気が付いて、デュランは胃の中のものが逆流して喉奥までこみ上げてくる嘔吐感を無理やり飲み込んだ。

喉の出口までこみ上げてきた苦くて酸っぱい味は、デュランの口内に厭な後味を残していった。