らぎ
2024-12-28 23:00:00
810文字
Public モノノ怪
 

離坤ドロライ第六回「鉄道」「現世服デート」

我が故郷名物○トーブ列車の想定だったのですがあまり活かせておらず…。

 がたごと規則正しい音を立てて、列車が線路の上を走っていく。暖房が据えられほんのり暖かい車内から雪の降る窓の外を見遣った坤の薬売りは、反対側に座る離の薬売りをちらりと顧みた。
大奥から帰還してひと時の休暇を貰っていた坤の薬売りは、珍しく休暇の重なった想い人こと離の薬売りと連れ立って、江戸から二百年ばかり後の時代に訪ねて来ていた。仕事ではない為いつもの派手な和服ではなく、時代に合わせた洋服を纏っていたのだがこれがなかなかどうして離の薬売りにはよく似合っている。美しい銀世界より、彼の方をそわそわ見遣ってしまう程に。
「落ち着かない様子で」
何度目だか離の薬売りを盗み見たところで彼の藍色の瞳とばっちり目が合ってしまい、笑みを含んだ声が掛けられた。
「いやよくお似合いだと、思いまして」
「それは十翼を発つ前にも聞きましたがよほど、お気に召したようで。」
「不躾、でしたか」
「いいえ全くおや、着いたようですよ」
離の薬売りの言うとおり、列車が金属の擦れる音をたてながら駅舎に滑り込む。いくらも無い荷物を詰めた鞄を提げて、二人は雪の積もる北の地に降り立った。
「坤の、これを」
そう言って離の薬売りが鞄からなにやら細長い布を取り出した。襟巻に似ていると言うよりそのものだ。
「屈んでください」
続けられた言葉に意図を察して、坤の薬売りはこうべを垂れた。巻いてくれようと言うのだろう。
柔らかい羊毛で編まれた襟巻がぐるりと首に回り、端をあわせてちょいと結んだ離の薬売りは満足げに少しばかり口の端を吊り上げた。おや珍しいものを見たと坤の薬売りが思っている間に、離の薬売りはさっさと鞄を持ち直して歩き出してしまう。
「離の方、何か良いことでも?」
「さて宿に着いたら、鏡でも見ると良い」
ハテ、と首を傾げてあとを追う坤の薬売りの襟巻が、普段離の薬売りが結ぶ帯の形に結ばれているのを知るのはもう半刻ほど後になる。