街中は様々な彩で飾り立てられて、心なしか人々も浮足立っているように見える。人の波を縫うように進んでいく杉浦も、いつもよりも足早だ。
誰が言い出したかわからないが、横浜九十九課の事務所でクリスマスパーティーでも開かないか、ということになった。部屋を飾り付けたりなどはしないが、お決まりのチキンやケーキを食べたりと慎ましやかなものだ。もちろん酒も用意する。
九十九が調べた人気の高いパティスリーであらかじめケーキを予約しておき、杉浦はそれを受け取って向かうところであった。チキンの方は、有名チェーン店のクリスマスパック。とはいえ、酒を好む人間もいるため一番の優先事項は酒の種類であった。
「よ、杉浦」
「八神さん? 中に入っててよかったのに」
鶴亀街道から道を曲がったところ、事務所が入っているビルの前で八神が立っていた。
目を通していたスマートフォンをポケットにしまい、杉浦の方に手を振る。
「杉浦が戻ってくるのが遅いから、連絡入れてみようとしたとこ」
「ああ、予約客だけとはいえ人がすごくてさ。受け取りに時間かかったんだ」
そう言って右手に持った袋を持ち上げる。甘いものよりも酒の肴が多い方がいいという声が大きかったので、小さめのホールケーキだ。
それを見て、八神はやや困ったように眉を寄せた。
「あー、杉浦はそのサイズで良かった?」
「ん? なんで?」
「パティスリーのサイトでどのケーキがいいか選ぶとき、楽しそうだったからさ」
見られていたのか、と杉浦は恥ずかしそうに笑む。
あの事件が起きてから、クリスマスもなにもなかった。真実が明らかになってからも、家や誰かとクリスマスを過ごすこともなく、すっかり自分と縁遠いイベントに感じるようになってしまった。事務所でパーティーをするとなってから、ようやくそれは自分の身近でもあるものなのだ、と実感したのだ。
様々なケーキがあるのを見て、こんなにもわくわくするのか、と。
「2,3種類頼んでも良かったんだぞ?」
「大丈夫。まあ今年のクリスマスケーキは今年だけかもしれないけどさ、クリスマスって今年だけじゃないじゃん?」
来年、誰も言わなかったら今度は自分から提案しよう、と心の中で思っていた。
パーティーをしよう、チキンとケーキを用意しよう。もちろん好きなお酒やおつまみも。今年はそれどころじゃなかったけど、来年はこっそり八神さんにクリスマスプレゼントを用意してもいいかもしれない。そう考えると、街中の人間と同じように浮足立つ気分であった。
八神は少し驚いた顔をして、すぐに笑みを浮かべる。そして杉浦の手から袋をかすめとると、逆の手でその手を握りしめた。
「うわ冷た」
「や、八神さん?」
「なんか急に抱きしめたくなってな。けど、人目あるし」
手を握るぐらいなら二人の体で隠せてしまうだろう。それに、すぐビル内に入ってしまえばいい。八神は杉浦を引っ張るように歩いて、杉浦は慌ててそれに続いた。
エレベーターはちょうど最上階で止まっている。だから、それがここに降りてくるまで、と八神は言う。
冷たかった手だが、握りしめられた手からじわりと熱があがりはじめているような気がした。
やがて、エレベーターがつくと二人で乗り込み、八神は杉浦の名前を呼ぶ。その音に甘さが含まれていることに気付いた杉浦は覚悟をしたが、額に口づけを落とされただけで。
「え……」
そう漏れた声と表情が残念そうに見えたのだろう。八神はおかしそうに笑って、
「キスしたら止まんなくなるから」
だからパーティー解散後にな、と杉浦の耳元に寄せて続けた。
チンッと音を立ててエレベーターのドアが開くと、八神は握っていた手をそっと離し事務所へ向かう。杉浦は離された手を寂しく思う暇もなく、赤くなった顔をどうしようと一人立ちすくむのであった。
end
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