はなれ
2024-12-25 23:55:17
1856文字
Public 哥忌
 

あなた色グラデーション

モブ喋る
嫉妬心と独占欲の話になる予定だった。いつかリベンジしたい。

 哥舒臨の同期だというその男は、ほとんど足がちぎれかけてもなお、平然と笑って世間話ができるような豪傑だった。
「ほら、あいつって有無を言わせない所あるだろ? おっさん心配だよ……痛いこととかされてない?」
「え……と、それは、大丈夫、です」
 忌炎はこの兵と、初対面だったと記憶している。
 だが向こうは哥舒臨の話に付き合わされているそうで、やたらと馴れ馴れしく忌炎に話かけてきた。
 正直大人しくしていてほしい。
 痛みにわめき暴れる患者でない分、処置はスムーズに進むが、それなりに秘めている恋路の話を延々とされるのは耐え難いものがあった。そもそも忌炎は勤務中だし。
 忌炎が対応に困り果てていると、後ろから腕が伸びて来た。
「それ以上忌炎に近づくな」
「うわでた」
 やってきた哥舒臨は忌炎と同期の間に割り込み、同期の顔面を鷲掴みにしている。
 指がめり込んでいないか? 怪我は増やさないでほしい。
「それだけ元気なら休暇はいらないか」
「うそうそ嫌だ~! 今死にそう、社会的に死にそう! 休ませて哥舒臨将軍!」
「忌炎に手当てされたのだろう? なら今すぐにでも戦場に行ける」
「それお前だけだから! 一般兵にはブーストかかんないから!」
 同期は顔を掴まれながらも哥舒臨と軽口を叩きあっている。
 どう止めていいものかと、忌炎は包帯を手にしたまま目の前のふたりを眺めていた。
「忌炎、これの処置は終わったか?」
「あとは細かな傷を保護すれば……
「そんなもの衛生兵にやらせておけ。来い」
「えっ? あの、将軍!」
「お幸せに~」
 今日は厄日なのだろうか。
 軒並み揃って仕事の邪魔をされ、忌炎は眉間に深い溝を作る。
「哥舒臨将軍! いくらなんでも横暴では……
 哥舒臨の部屋に連れ込まれるなり、忌炎はくるりと追いやられ、壁に押し付けられた。
 打ち付けた肩が痛む。
 後ろ手に腕を掴まれては身動きも取れず、背後から襟元を緩められ、音痕の刻まれた項部が露わにされた。
「やめてくださ……ひっ」
 そのままがぶりと噛みつかれて、色気のない声を上げる。
 それだけじゃない。
 背骨に添うように舌が這い、刻まれた音痕がぞわりと不快感を訴えた。
「ぅぐ……
 哥舒臨に触れられた部分がひどくあつい。
 炎に焼かれたみたいに、脊髄から焼き焦げるような熱が伝わった。
 ――哥舒臨の周波数が、流れこんでくる。
 無理に体を拓かれるような乱暴さに視界が滲んだ。
 これと同じようなことを、忌炎は何度か施されたことがある。
 それも、甘やかな情事の中で。
 だから、理性を保ったまま、恋しい人の周波数を浴びることが、こんなにも苦しいなんて思わなかったのだ。
 何をせずとも息が上がる。鼓動が不自然に脈打つ。手足が無様に震える。
 噛まれる痛みと、叩きつけられる周波数のせいで思考回路はぐちゃぐちゃだ。
 でも、動けない。抜け出せない。
 上下関係を教え込むようなそれに、体が抵抗を諦める。
 がくん、と膝から崩れ落ちた忌炎を担ぐと、哥舒臨はさっさとベッドに放った。
……よし」
「っ、なにもっ、よく、ありませんっ!」
 ぜえぜえ息を吐きながら、忌炎は視界の端に捕らえた自分の髪を見て目を見開く。
 本来であれば、しなやかな浅葱をまとう毛先が、白く染まっていた。
 ストレスで色が抜けた……のではない。
 これは、哥舒臨の周波数が、音痕を通じて忌炎の体に影響を与えた証拠だった。
……何か、気に障るようなことでもしましたか……?」
 忌炎はぐったりした様子で哥舒臨を見上げる。
 異なる周波数を抱え込んだせいか、まだ視界が揺れていた。
 良くも悪くも、共鳴者は周波数に当てられやすいのだ。酔いに似た症状に気分が悪くなる。
 浅い呼吸を繰り返す忌炎の横にどっかり座ると、哥舒臨はむっと唇を尖らせて忌炎の龍鱗を労わるように撫でた。
……あまり、他の男に好き勝手されるな。今日はこのままここにいろ」
「言われなくても、どこにも行けませんよ……
 今の忌炎は、誰がどう見ても、哥舒臨に手を出されました。というような姿なのだ。毛先を白く染めたまま、部屋の外に出ようなんて思えなかった。
「お前を閉じ込める理由ができるのは、存外気分がいい」
 哥舒臨は無邪気に口角を吊り上げ、手慰みのように忌炎の鱗を撫でている。
 為す術もない忌炎は白かった顔を赤く染めて、せめてもの反抗として、鳴りかけた声を喉の奥で押し潰した。