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めまめ
2024-12-25 22:22:46
5598文字
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カップリング無しのお話
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Happy Christmas to you!
陽太郎とらいじん丸とあらふね君とかげうら君の、クリスマスの出来事
カプ要素なし
Q&Aの「こいつは…噛むぞ」の話は実際にあったことだったらという前提
いつからいじん丸とあらふね君が仲良くなったらいいなという希望と捏造の話
SE持ちのようたろうとかげうら君の組み合わせも好き
「えーやばい! 超本格的じゃん!」
「ね! こんなでっかいツリー、どこから持ってきたのかな」
カン高い弾んだ声がして、荒船はつい足を止めて振り返った。
ブレザーを着た中学生くらいの女生徒たちがスマートフォンを構え、「やだ、半目になってる!」ときゃらきゃらと戯れている。その背後には、彼女たちの背丈の倍以上はありそうなクリスマスツリーがあった。大きなもみの木には白い雪が積もり、金や赤の丸いオーナメントがぶら下げられている。巻きつけられたペッパーランプが青になったり白くなったりと色を変え、ボーダー基地のロビーを華々しく飾っていた。
師走の由来のとおり慌ただしい日々に追われていたので実感がなかったが、どうやら本当に今日がクリスマスのようだ。
そばを通りかかった男性職員がクリスマスソングを口ずさんでいる。年末でどこの部署も忙しいだろうに、彼はどこか楽しげだった。ツリーの前で写真を撮っていたあの二人は撮影に満足したのか、小走りでどこかに去っていく。周囲をよく見れば職員や隊員がそこそこ集まっている。みなクリスマスツリーの輝きを楽しんでいるようだった。
荒船はクリスマスツリーを眺めながら、先ほどから震え続けているダウンジャケットのポケットに手を入れる。見物に来た人々の邪魔にならないよう端に寄り、スマートフォンを取り出した。
チャットアプリのアイコンに表示される未読の件数がどんどん増えていくのに、眉をひそめた。少し迷って、画面をタップする。同じ年齢の友達で構成されたチャットグループには現在進行形でメッセージが飛び交っていた。
このあとのクリスマス会の件だろう。待ち合わせ場所や買い出しの質問はいいとして、なぜか近所の中華屋のラーメンの写真が送られてきている。荒船は、絶対にこれは関係ないだろ、とため息をつきたい気分になった。履歴を追おうにも、どこが最初のメッセージだったのかもうすでに遡りきれないほどだった。
手っ取り早く筆マメの穂刈に電話してしまおうか。穂刈のアイコンをタップしたところで、頭にパシッと軽い衝撃が走った。
「おい。既読無視してんじゃねーぞ」
「カゲ」
顔を上げると、影浦が立っていた。寒いのが苦手らしい影浦はしっかりマフラーを巻き、シンプルなニット帽をかぶっていた。ミリタリージャケットに突っ込まれた両手首にはスーパーの袋がふたつ無造作に引っかかっている。
「それは?」
「買った菓子を国近が作戦室に置いてきたとか言いやがるから、取りにいってたんだよ。しかも穂刈がついでに荒船を拾ってこいっつうから『どこにいる』ってメッセージ送ったのによぉ、無視しやがって」
「メッセージが追いきれねえんだよ。悪かったな」
「ンなことだろーと思ってたわ。鋼も返事ねぇし」
「あいつは口はさむタイミング逃してんだろ」
影浦はちっ、と舌打ちをした。揃って手間かけさせやがって、と悪態をつくもののそれなりに表情はやわらかく、今度は荒船のふくらはぎを蹴飛ばして「はやく行くぞ」と促してくる。
「袋、ひとつ持つぞ」
「両方持てよ」
言いあいながら正面玄関に向かう。スナック菓子が詰まったビニール袋を押しつけようとしてくる腕を躱していると、正面の自動扉が開いた。外から誰かやってきたらしい。とたんに冷凍庫のような風が吹きつけた。あまりの風の冷たさに反射的に首をすくめる。影浦も口元をマフラーに埋めて震えていた。
冬の空気とともにロビーに入ってきたのは、木崎だった。木崎が、本部に来ている。
視認すると同時に荒船は早歩きで彼のもとに向かった。影浦が何か言いたげな表情を浮かべていたが、ビニール袋をガサガサと揺らして荒船のあとに続いた。
「お疲れさまです」
「
……
お疲れさまっす」
「荒船と、影浦か。お疲れ」
猫背になった荒船と影浦を見て、木崎がふっと笑った気がした。寒さに震えて軟弱だと思われただろうか。荒船は背筋に意識を集中しつつ、口を開く。
「レイジさん、今日はどうしたんですか?」
「ああ。今日は俺の用事じゃな
……
」
「やあやあ、みなさん。元気にしてるかね」
幼くて丸い声が、木崎の言葉かぶさった。トナカイに跨ったサンタクロースが、荒船たちの足元までやってきていた。
「陽太郎。ちゃんと挨拶しろ」
「こんにちは、みなさん。メリークリスマス」
陽太郎は小さな手で白いふさふさのあごひげを撫でる仕草をした。わざと老人のようなしゃがれた声まで出してサンタクロースになりきっている。トナカイに扮した雷神丸も、フェルト製のツノのカチューシャとツヤツヤの赤い付け鼻がよく似合っていた。どこをどう見ても、今日の彼女は立派なトナカイだった。
「目的のツリーは見られたのか」
「しかとこの目にやきつけました」
陽太郎を背中に乗せた雷神丸も同意するように、カチューシャをつけた頭を上下に動かした。
荒船は、無意識のうちに影浦のほうへ一歩ずれていた。肩がぶつかったので文句を言われるかと思ったが、予想に反して呆れたような一瞥が返ってきただけだった。
「陽太郎、雷神丸。あまりそっちに行くな」
「あ、いえ。大丈夫ですレイジさん」
荒船は慌てて首を横に振った。雷神丸は初めて会った日とまったく変わらないつぶらな瞳でこちらを見上げていた。
狙撃手に転向したばかりだった荒船は、玉狛支部のリビングで木崎のイーグレットの記録を見せてもらっていた。紅茶を飲みながらトイレへ立った木崎を待っていると、ドアの隙間からかすかな視線を感じた。
そのときは、陽太郎がふざけて覗いているのかと思った。弟がいない荒船にとって幼い陽太郎との交流はいつだって未知に溢れていて、発見がある。木崎が戻ってくるまで相手をしてもらおうと思い、ノートパソコンから顔を上げた。
荒船の全身がぎくりと強張った。さっきまで何もいなかったはずのローテーブルの向こうに、小さくはない四足歩行の動物がいたからだ。
玉狛で犬を飼っているなんて、聞いてない。
目の前の生き物を刺激しないように、そっとソファーの座面に立つ。逃げるにしても、上をとっているほうが行動に起こしやすいと思った。
犬の「おすわり」のような体勢でおとなしくフローリングに座っているそれは、短い耳をピクピクと動かして不思議そうに荒船を見上げている。荒船は、動物と見つめあった。深呼吸をしたあとで、じっくりと対象を観察した。
顔立ちは、犬というよりもネズミやモルモットに近い。似たような動物の動画を加賀美が観ていた気がする。あの動物はたしか
——
「
…………
カピバラ?」
カピバラはタイミングよく頷いた。
カピバラって、こんなにデカいんだな。荒船は気が抜けたようにソファーに腰をおろした。カピバラがのそりのそりと近寄ってくる。荒船が警戒を解いたのがわかったのかもしれない。とはいえ犬ではないと判っても、近くに来られると動物に慣れてないこともあって戸惑ってしまう。
「雷神丸が、邪魔してたみたいだな」
リビングに戻ってきた木崎は荒船の隣に腰掛け、口に手を当てて咳払いをした。なんだかわざとらしい。指で隠された口角がどこか愉快そうに歪んでいるのを、荒船は見逃さなかった。
「木崎さん
……
もしかして、見てました?」
「
……
のぞき見するつもりじゃなかったんだが、話しかけるタイミングを逃してな」
木崎が「らいじんまる」と呼ばれたカピバラに向かって手招きした。雷神丸は荒船と木崎の間の床に座り、再び荒船のことを黒い目で見つめた。
今後も玉狛支部に来る機会はあるだろうし、互いの存在に慣れたほうがいいかもしれない。おそるおそる雷神丸へ指先を伸ばす。ちらりと木崎のほうをうかがえば、首肯が返ってくる。雷神丸もずんぐりした首を伸ばし、荒船の指に鼻をちょんと押しつけてきた。生温かい、湿った鼻息が爪にかかった。
「荒船。油断してるとこいつは
……
噛むぞ」
「え」
幼いころに犬に噛まれた記憶が奥底から噴き上がった。荒船は急いで手を引っ込める。鼻息が触れた指を守るように拳を握り、自分の胸元に避難させた。
あ、と思った。雷神丸は驚いたのか、チャカチャカと爪を鳴らしてリビングから出ていってしまった。
「嘘だ。噛まないから安心してくれ」
「木崎さんっ」
木崎がくつくつと肩を震わせた。目標としている人に格好悪いところを見られたのに耳が熱くなった。
「おどかして悪かったな。荒船は、動物が苦手なのか?」
木崎の質問には、馬鹿にしたような響きはなかった。後輩のことを純粋に知っておきたいというところだろう。犬が嫌いというのを隠す意味もない。荒船は一度息を吐いた。
「動物、というよりも、犬があまり。なので雷神丸はたぶん平気です」
「そうか。雷神丸は穏やかな奴だから、玉狛に来たときはたまに撫でてやってくれ」
「はい」
荒船は頷き、廊下へ繋がるドアを見遣った。雷神丸は何も悪くないのに、ひどい反応をしてしまった。紅茶を飲んでも、みぞおちのあたりの重たさは消えなかった。
走り去る雷神丸の後ろ姿を思い出しながら、荒船はその場にしゃがんだ。影浦と木崎と陽太郎が何だ? という視線を送ってくる。三人に見守られつつ、トナカイ姿の雷神丸と目線があうように背中を丸める。純粋で、一片の曇りもない黒い目がパチパチとまたたいた。
「このまえは驚かせて悪かった。ごめん」
あの日触れられなかった彼女の頭を、そうっと撫でた。
毛の流れに沿って手のひらを往復させる。硬い毛だがなめらかで、よく手入れがされている。玉狛支部で大事にされているのだと毛艶ですぐにわかった。
撫でつづけていると、雷神丸が全身をつかって体当たりしてきた。たどたどしい手つきを不快に感じたのかもしれないと思い、撫でるのをやめてしゃがんだまま距離をとる。
「っと
……
」
ところが離れた分だけ雷神丸が距離を詰めてくる。なかなか体当たりの力が強い。荒船は尻もちをついた。
「らいじん丸が、ありがとうっていってる」
「え?」
陽太郎はサンタ帽とひげの間から満足げな笑み浮かべていた。
「あと、きにしてないっていってるぞ」
「
……
そうか。ありがとな、雷神丸」
胸にグイグイ押しつけられる、カチューシャ付きの頭をもう一回撫でる。もっと撫でろと言うように雷神丸が鳴いたので、荒船は笑った。
ことの経緯を見守っていた木崎が陽太郎のサンタ帽に手を乗せた。
「そろそろ玉狛に帰るぞ。小南が夕飯を張り切ってるから、帰って俺たちも手伝ってやろう」
「りょうかい」
雷神丸が離れたのを見計らう。立ち上がろうとすると、目の前に手が差し出された。
「助かる」
影浦の手を握る。わざと勢いよく引っ張り上げられたが、たたらを踏むような真似はしなかった。目論見が外れて不満そうな影浦の肩を小突き、やり返される。こいつのこういうところは子どもっぽいなとしみじみ思った。
「言いたいことあんなら言えや」
「べつに」
さらに絡んでくる影浦をいなして、四人で正面玄関へ向かう。自動ドアの前で立ち止まり、改めてお辞儀をした。
「お疲れ様でした」
「ああ。また合同任務のときはよろしくな。行くぞ、二人とも」
木崎は陽太郎の背負っていた白いリュックを開き、子供サイズのダウンジャケットを引っ張り出して陽太郎に着るように言った。陽太郎は、ジャケットを受け取らなかった。「よいしょ」と言って雷神丸から降りる。そして荒船と影浦の前に移動して、
「あらふね、しゃがんでくれ」
と言って、白いリュックの中から何かを取り出した。
「メリークリスマス」
渡されたのは、個包装されたどら焼きだった。しかも午前中で売り切れてしまうという和菓子屋の幻のどら焼きだ。甘いもの好きの陽太郎がこれほどの逸品を譲ってくれるなんて。思いがけない出来事に、身体の芯からほっと暖まったような心地になった。
「ありがとう。でもせっかくのおいしそうなどら焼きだ、おまえが食べろ。俺は気持ちだけで嬉しいから」
荒船はどら焼きを陽太郎へ返そうとした。
「しらないのか、あらふね。いい子にはサンタさんからプレゼントがあるんだぞ」
陽太郎があたりまえのようにそう言うので、荒船は呆気にとられてしまった。
陽太郎が何を指して自分を〝いい子〟と言ったのかは不明だ。過去の玉狛での振る舞いかもしれないし、雷神丸と仲直りしたことかもしれない。ただ、それを問うのは野暮というものだった。
「サンタのプレゼントなら、きっちり貰うしかねえな」
陽太郎は荒船の返事に、うんうんと大きく頷いた。
「かげも、しゃがめ」
「
……
おう」
場の空気を壊さないためか、影浦も素直に陽太郎の指示に従う。
「メリークリスマスだ、かげ」
「俺はべつにイイコなんかじゃねーだろうが」
影浦はぶっきらぼうな口調で呟いた。プレゼントで貰ったどら焼きを表にしたり裏返したり落ち着きがない。
「おれはかげがいい子なのを、しってるぞ。なんていったってサンタさんだからな」
「
……
ありがとよ」
「うむ」
小さなサンタクロースはダウンジャケットを羽織り、ジングルベル、ジングルベルと歌いながらトナカイに乗って帰っていった。
「クリスマスパーティにこれ持ってったら、アイツら食いてぇってうるせーだろうな」
「だな」
荒船と影浦は顔を見合わせた。くっ、と自然に口角が上がった。
「いい子のツラには見えねえぞ、カゲ」
「オメーもだろ」
サンタクロースからのプレゼントに二人でかぶりつく。甘くてふかふかのどら焼きは、ピカピカの幸せの味だった。
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