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水樹
2024-12-25 20:54:32
10968文字
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プレゼントフォー・ユー!
クリスマスグアオです。
いつもより大分長め。どうしてこんなに長くなった……?
「ええと、これがこうで、こうなって
……
? あ、あれ? なんで編み目の数が違うの? うう、また失敗だぁ
……
」
これで失敗作は一体何個目になっただろう。数えたくない。やっぱり慣れないこと
――
編み物
――
はするものではないなと乾いた笑いが込み上げてくる。
……
だけど。
「プレゼントあげたいから、頑張ろう!」
小さくガッツポーズを決めて気合を入れなおす。その拍子に揺れた三つ編みには、夜明けの空をそのまま閉じ込めたような色合いの、ガラス玉がついたヘアゴム。
…………
スグリが、くれたもの。
――
あの、アオイ。これあげる。
――
……
ヘアゴム?
――
う、うん。こないだ本土さ行ったときに見つけてな? えっと、いらなかったら捨てても構わねっから。俺が、その。アオイに似合うだろうなって、あげたいなって、思った、だけ、だから。
――
……
あ、ありがとう。大事にするね!
――
……
! にへへ。喜んでくれて、わや嬉しい。
「
……
別に、特に深い意味は、ないんだろうけど」
スグリに恋をしている私にとっては、舞い上がるくらい嬉しくて。何かお返しがしたくて。それでちょうど時期も近いしって思いついたのが、クリスマスプレゼント。
最初は既製品にしようかとも思ったけど、せっかくなら手作りがいい。思い出にも形にも残るものがいい。それで慣れない編み物に挑戦しようと思い立った。
じゃあ何を作ろうか。手袋、はグローブがあるから使う機会はなさそうだよね。帽子は、かぶってるところが想像できなかった。ほかにもいろいろ考えて考えて考えた結果。
マフラーという無難なものに落ち着いた。
だけど、こんなに難しいものだとは思いもしなかった。
電話でママに。特別講師で呼んだサワロ先生に。ボタンに頼んでシュウメイにも泣きついて。やっとそこそこ編めるようにはなったものの、なかなか思うような形になってくれない。
と、いうよりは。
スグリのことを考えて編むだけで、力が入りすぎて編み目がきゅっとしてしまう。もうこれは、無心で編むしかないのかな。時間も毛糸ももうあと少ししかないもん。急いで。だけど丁寧に。そして綺麗に。
…………
喜んでくれると、いいな。
想像するだけで、胸がぽかぽか、どきどきしてきた。
失敗しかけたのは、言うまでもない。
「
………………
でっ、出来たぁ
……
! 間に合ってよかったぁ
……
」
クリスマス二日前。
やっとの思いで出来上がった、やや青みがかった藤色の
――
手芸屋さんで一目惚れして、これに即決した
――
マフラー。全体を細かくくまなく見て
……
うん。ほつれとかもない。完璧だ。あとはラッピングして、渡すだ、け
……
。
「
……
ああっ!?」
作ることに夢中になりすぎてラッピング用品を買い忘れてた! ど、どどどどうしよう。いや、まだ時間あるし、明日! 明日本土まで買いに行けば!
善は急げと、慌てて外出届を提出して。翌朝、始発便でイッシュ本土、ライモンシティに向かった。
「
……
買えてよかった。あとはこれで」
綺麗に包んで、スグリに渡そう。
「
……
えへへ」
そのときの私は、マフラーが完成したことと、ラッピング用品が買えたことで安心して、浮かれきっていた。多分スグリにプレゼント渡そうって思ったときから、浮かれてたんだと思う。
だから、その言葉は。痛いくらいに、突き刺さってきた。
「えぇ? 手作りのプレゼントぉ? なにそれ重くね?」
「!」
「だよなぁ。食いもんだと何入ってるか分かんねーし、物だとちょっと、捨てづらいし」
「
……
」
「だよな。その上なんかしらの念? がこもってそうでさ、捨てるのもとっとくのもなんか怖くね?」
「わかる。それが恋人でもないやつからなら、尚更だよなー」
「早い話、迷惑?」
「それなー」
少し年上くらいな男の人達の、なんてことない話。それが、針のように心を刺してくる。私に向けた言葉じゃないのに。冷たくて痛くて、周りの音がどんどん遠ざかっていくみたい。
それ以上聞いていたくなくて、逃げるようにその場を走り去った。
その後、どうやって帰ってきたのかは覚えてない。
ただ、気がついたら目の前に。
ラッピングを済ませた、スグリ宛のプレゼントがあった。
ご丁寧に、「スグリへ」と書かれたメッセージカードまでつけている。
念なんてこめてない。
……
ちょっとは、スグリへの恋心がこもってしまっているかもしれないけど。もし何かしらがこもってるんだとしたらそれは、純粋な感謝の気持ちがほとんど、だと、思う。
だけど。
――
重い。
――
怖い。
――
迷惑。
――
恋人でもないのに。
「これは、渡せないなあ
……
」
……
頑張ったのにな。
他のものを買いに行く時間はもうない。どうしたらいいんだろう。
……
サンドイッチでも、振る舞おうか。マホイップ特製ホイップクリームをたっぷりのせて。イチゴにバナナにチョコもはさんだ、とびきりあまーいサンドイッチを。
元々はヘアゴムのお礼なんだし、何をはりきってたんだろう、私。なんだか急に、ばからしくなってきちゃった。
ここしばらく夜更かししてたのも相まって、いつもより大分早く、ベッドにもぐりこむ。
しくしくと痛む胸を、抱きかかえるように丸くなって。
「んー
……
。やっぱりちょっと腫れてる、よね」
「サナ」
「ありがとうサーナイト」
うっすらと腫れたまぶた。
……
ぱっと見ただけじゃわからないだろうし、気にしすぎてもよくないかも。大丈夫。いつも通りにしてればいいだけ。気づかれたりなんてしない。サーナイトからタオルを受け取って、顔をうずめて。そのまま深呼吸をひとつ、ふたつ。
そうして顔をあげれば、ほら。
いつもの私が、鏡写しでそこにいた。
「おはよ、アオイ」
「! おはようスグリ」
「
…………
」
「
……
? な、何
……
?」
じぃ、と金色の瞳が見つめてくる。見透かされそうで、どこか、怖い。
「アオイ、何か元気ない? 体調でも悪い?」
「えっ!? そ、そんなことないよ。全然元気!」
「
…………
そっか。それならいいんだ」
「うん」
「じゃ、また放課後な」
「
……
うん」
今日はこの後、スグリとは放課後まで会えない。授業がことごとくばらばらになってしまったから。いつもならちょっと落ち込むところなんだけど、今日に関して言えば都合がよかった。綻びが出なくてすむ。
また君にしてしまった隠し事を、今度は、しっかり、隠し通さなくちゃ。
「ハッピーホリデーィ!」
「え、わ、すごい
……
!」
「へっへっへ。そうだろそうだろー?」
「アオイさん一応言っておきますね。カキツバタは何もしてないです」
「
……
だと思った」
「ひでえや」
満面の笑みで言うことじゃないよね?
クリスマス仕様へと様変わりした部室は、いつもよりも浮かれた空気を含んでいた。
……
それで私の心も、少しは浮上すればよかったのに。
「あちらにはアカマツくん特製オードブルがあるんですよ。もちろんケーキも!」
「え。それ辛いやつじゃないよね?」
「辛さは控えめにしたよー! 強火で辛くしたかったら遠慮しないで言ってね!」
「あ、ありがとう。
………………
あ」
「どうしました?」
「ごめんなさい、プレゼント
……
」
「企画自体だいぶ急でしたし、忘れてても大丈夫ですよ?」
「でも
……
」
忘れてたことには変わりない。マフラー作りで手いっぱいになってた。
……
まあ、それも無駄に終わっちゃったわけだけど。
「んじゃそんなキョーダイには罰ゲームだよぃ」
「わぁっ!?」
カキツバタによって頭に何かを被せられる。目まで被さってしまったそれが何なのか確かめようとしていたらタロが困ったように笑いながら、コンパクトミラーをこちらに向けてくれていた。
私の頭には、安っぽいサンタ帽子。周りをよくよく見てみれば、メブキジカのツノを模したカチューシャだったり、小さな三角帽子のついたそれだったり、私に被せられたものと同じのを被ってる部員がちらほら。
「
……
これのどこが、罰ゲーム?」
「解散まで被ってろってことだぜぃ。それとも、他の何かをお望みで?」
「他
……
?」
「知りたいか? 好奇心旺盛でいいことだねぃ。いいかキョーダイ。聖なる夜ってのは、その実、性的な」
突然ゴッ、と鈍い音がして、カキツバタが視界から消える。
「あんたアオイに何吹き込もうとしてんのよ手ぇ出るよ!!」
「出てる出てるもう出てるってゼイユさんグーパンはねえだろうよ」
「ゼイユ!」
「ア、アオイにそういうのは! ま、まだっ、早いでしょうが!」
「いやそういうゼイユもうぶ
……
って、いででででででで」
ゼイユはゆらりと立ち上がったカキツバタの背後に陣取り、こめかみを両手の拳でぐりぐりし始めた。わあ
……
痛そう。
「
……
あら? アオイあんた、スグと一緒じゃなかったの?」
「うん。今日は朝会っただけだよ」
「ふぅん。そうなの」
「スグリなら、なんか女子に呼び出されてたよー」
とりあえず先輩解放してあげてって、料理を小皿に取り分けてくれたアカマツが教えてくれる。
…………
女子。呼び出し。
……
嫌な予感しかしない。ああ、嫌だな。そんなんじゃないかもしれないのに、悪い想像が止まらない。
「なんですってぇ!?」
「ゼイユさん痛い。まじで痛いって。助けてくれーオイラの頭が取れちまうよー」
「そ、なんだ
……
?」
「うん」
「オイラを無視しないでくれよぉ」
いつの間にかヘッドロックに変わっていたゼイユの腕を、ぱしぱしと叩くカキツバタ。
……
あ。顔色どんどん悪くなってる。
「ゼイユ。腕」
「
…………
ちっ」
「ふいー。助かったぜネリネ」
「いや元はあんたのせいだから」
「あ、あはは
……
」
「あ! スグリ!」
「!」
アカマツの声に思わず振り向く。目が合うとスグリは、ふにゃりと笑みを浮かべた。
その手には、キラキラと光を反射するリボンで飾られた箱が。
「ほうほうほほーう? いやー、元チャンピオン様も隅におけないでやんすねぃ」
「
……
何の話?」
「そ・れ。女子からなんだろー?」
「なんでそれを
……
」
「アカマツ情報だよん」
「えっ、言っちゃだめなやつだったの?」
「あ。いや、そんなこと、ないけど」
それに、と言葉を続けながら包装をといていく。中には、色とりどりのアイシングクッキーが入っていた。
「部のみんなで食べてって渡されたから。カキツバタが思ってるような感じじゃ、ない」
「へーえぇ?」
「
……
なに」
「何でもないよーん」
整然と並べられたそれは、売り物のようにきれいで。でも、なんとなくわかる。これ、手作りだ。
……
うらやましいな。きっとみんなで食べてっていうのは建前だ。だってあれもこれも、スグリをイメージしたような形ばかりなんだもん。
「
……
お? 元チャンピオンさまよ」
「その呼び方やめろ。
……
何?」
「カバンからなーんか飛び出してるぜ?」
「!!」
弾かれたようにスグリはカバンを押さえたけれど一足遅く。カキツバタがそれを引き抜いていた。
「何それ。メッセージカード?」
「ちょ、返せ!」
「いんや? こりゃ手紙だねぃ」
――
それも、スグリ宛の。
……
ああやっぱりって、心がどんどん冷えていく。周りの空気は楽しげなのに、私だけが楽しめない。嫌だな。逃げちゃいたいな。でも今飛び出したりなんてしたら、きっとそれは悪手だろうな。
「カキツバタ。それ以上はいけない」
「うおっ?」
するりとカキツバタの手から手紙が抜き取られる。スグリにだけ注意を払っていたからか、背後の気配には気付けなかったのかな。
「スグリ。どうぞ」
「あ
……
ありがとうネリネ」
「
……
いえ。礼には及びません」
ふと隣を見ると、ゼイユがこれでもかってくらい冷たい視線で、カキツバタを射抜いていた。なんか
……
バトルするときよりも、怖い。
「
……
タロ、ネリネ」
「はい」
「ゼイユ、何か?」
「今から三人がかりで、このデリカシー皆無の頭フワ男をえげつないぐらいボッコボコかつけちょんけちょんのボッロボロにするわよ!」
えっ。
「はい?」
「いいと思います!」
「いやオイラはよくないと思いまーす!」
「承知」
「承知しねえでくれるかい!?」
「ぜ、ゼイユ? さすがに三体一はちょっと
……
」
「そーだそーだもっと言ってくれーい」
「アオイ忘れたの?」
「な、何を?」
「こいつ、この学園で『一番強かった』のよ?」
それ今関係ある?
「自業自得。諦めるが吉と思われます」
「えぇ
……
」
そのままずるずると引きづられていくカキツバタ。抵抗してた割にはあっさりしてるなあ。負けない自信でもあるのかな。それとも本当に諦めてる?
「先輩、大丈夫かな」
「大丈夫だろ。心配するだけ無駄だべ」
「おーいアカマツー!」
「ん? 何ー?」
「悪いんだけど追加頼めるー?」
「わかった! 強火で用意するね!」
「あ
……
」
「
…………
」
「
…………
」
沈黙。き、気まずい
……
。
いや私が一方的に気まずさを感じてるだけなんだけど。
「
……
アオイ、食べねえの?」
「っ、す、スグリがもらったものでしょ? 私が最初に食べるわけには、いかない、と、思う」
「
……
それもそうか」
すらりと長い指が、クッキーをひとつつまむ。
意外と大きい口が、ぱかりと開く。
急に頭の中で、あの日の会話がリフレインする。
――
手作りの食いもんって、何入ってるか分かんなくて怖いよな。
嫌だ。
イヤだ。
いやだ。
スグリを害するようなものが入ってるわけがない。
だけど。
だけど。
だけど。
お願い。
食べないで。
お願い。
「
……
えっ」
「
…………
あっ、ご、ごめっ
…………
!」
スグリの手から、クッキーが消えていた。
……
いや、その表現は正しくない。
だって今、私。
スグリの手を払って、クッキーを床に落としたんだから。
乾いた音は思いの外よく響いたようで、視線があちこちから刺さってくる。
「アオ」
「サーナイトッ!」
「サナ」
「スグリ、ごめんなさい」
「待っ」
ごめんね。待てない。
テレポートによる慣れない浮遊感は一瞬で、景色は見慣れた自分の寮室に。
「
……
あ」
そうだサンタ帽子、戻しておかなくちゃ。だけど、今日はもう部室には行けないし、部屋からも出たくない。
「ごめんねサーナイト。これ、部室に送ることはできる?」
「サナ」
お安い御用と言わんばかりに返事をしたサーナイト。そんな彼女へ手渡した帽子が一瞬にして消える。
「ありがとう」
「サナ
……
」
「スグリには、後で改めて謝らないとね」
プレゼントは無駄に終わったし、結局サンドイッチも作ってあげられなかった。アカマツの料理の方が絶対に美味しいはずだし、ケーキだってある。あのクッキーだってとっても美味しそうだった。私の作ろうとしていたサンドイッチより、ずっと、ずっと。
「
……
材料ダメになっちゃうし、ちょっと早いけど夕ごはんにサンドイッチ作ろっか!」
「
…………
」
「サーナイト?」
どうしたの、と続けようとした言葉は出てこない。ふんわりと優しく、サーナイトが抱きしめてきたからだ。
「サナ」
「
……
サーナイト、ありがとう。私なら大丈夫だから」
「
……
」
私を優しいハグから解放すると、慣れたものですと言わんばかりにバッグから材料を取り出してくれる。ラルトスの頃からずっと一緒に冒険してきたから、彼女には何でもおみとおしらしい。
何を用意すればいいのかも。
自己嫌悪に陥っていることも。
きっと、スグリへの気持ちも。
「マホイップ、クリームお願いできる?」
「マホ!」
パンの上にたっぷりと乗せられた特製ホイップクリーム。それが崩れないように慎重に、イチゴやパイン、バナナをのせて。購買で買った板チョコを適当に割ってその上に。
「サナ?」
「
……
それはいらな」
「
……
」
「はさもっか」
「サナ」
差し出されたりんごは嫌でもスグリを思い出させる。今は、思い出したくないんだけどな。だけど結局サーナイトの無言の圧力に負けて、それものせた。
「マホイップ、もう一度お願い。今度は少なめね」
「マホ」
「ありがとう」
あとは爆発しないように慎重にパンをのせて、仕上げにピックをさせば。
「かんせーい!」
「マホマホー!」
カロリー度外視激甘サンドイッチ。普段はあんまりこんなの作らないんだけど。彼は甘いものが好きだから。
……
まあ、さすがに限度はあるんだろうけど。
「
…………
スグリと食べたかったなあ
……
」
「うん。俺もアオイと食べたいな、それ」
……………………
。
……………………
?
……………………
!?!?
「すっ、すすすすすすスグリ!?!?」
「“す”がわや多いなあ」
肩を揺らして笑う彼は、幻でもなんでもなく確かにそこにいる。さっきのことなんて、まるで気にしてないみたいだ。
「な、なな、何でここに!?」
「この子が連れてきてくれて」
「サナ」
「サーナイト
……
」
胸を張ってドヤ顔をしている。いや。いやいやいやいや何してくれてるの!?
「それと、これも渡してくれて」
「え」
スグリの手にあったのは、間違いなくこの部屋に置いてあったはずのプレゼント。
渡せなかったプレゼント。
……
渡す予定が、なくなってしまったプレゼント。
「これ俺に、だよな?」
「
……
ち、違う」
「俺の名前さ書いてあるメッセージカードもついてっけど」
「うっ
……
。違うの! 返して!」
「やだ」
右へ左へ手を伸ばしては避けられる。ほんとに違うの。確かに君へのプレゼントなんだけど。大正解なんだけど。渡すつもりはなくなっちゃったの。だから。だからっ
……
!
「返してっ、てば!」
「わぎゃあ!?」
「わぁっ!?」
勢いよく飛びついたせいで、二人してバランスを崩して倒れ込む。幸い倒れた先にはベッドがあって、怪我をすることはなかった。
……
なかった、ん、だけど。
「〜〜っ!?」
目の前には金色。唇にはやわらかい感触。
……
だっ、大丈夫大丈夫マウストゥマウスじゃない唇同士じゃなくてギリ! ギリギリほっぺただったから大丈夫いや何が大丈夫なの!?!?
「ごっ、ごめんなさっ
…………
あ、あの、スグリ?」
「わやじゃあ
……
」
え、な、なんか呆けてる。なら今が取り返すチャンスだって手を伸ばしたら、するりとのびてきた彼のそれに捕らえられてしまった。驚いている間に、スグリはゆっくりと起き上がる。
「っ、すぐ」
「
……
にへへ。俺、わや嬉しい。アオイからこんなにプレゼントさもらえるなんて」
「い、今のは事故で」
「わかってる。けど嬉しいんだ。あとこれも」
「ち、違うって、言ってる、のに」
「うん。だけどアオイんとこのサーナイトがくれたってことは違わねえべ?」
「う
……
」
「それにあのサンドイッチも。俺と食べたかったって言ってたよな?」
「うう
……
」
もう、何を言っても言い逃れができそうもない。
「
……
そうです。それは、スグリへのプレゼントです」
「開けてもいい?」
「
……
どうぞ」
開けにくいだろうに、片手で器用に袋を開けていく。離してほしくて少し手を引いてみるけど、痛くない程度に力が強まっただけだった。
「わやー。これ、マフラー?」
「うん」
「
…………
もしかして、手編み?」
「
………………
うん。ヘアゴムのね、お礼のつもりだった。でも、渡すつもりはなかったんだ」
「
……
どうして?」
……
どうして、なんて聞かないでよ。いたたまれなくてあげられずにいた顔をあげれば、どろどろに溶けたはちみつ色に捕まって、もう視線がそらせなくなる。
「
……
て、手編みのマフラーなんて、重いでしょ?」
「全然重くなんてない。軽いよ」
「そういう重さじゃなくて。
……
気持ち? みたいなのがさ」
「そっちの意味だとしても重くなんてねっけど」
「
…………
なんか変なものとか、念? とかが編み込まれてるとか思わないの? 怖くないの?」
「アオイがそんなことするわけねえべ。仮にそうだとしても、そんなに怖くはねえかな」
それはどうなの。
「
……
迷惑じゃ、ない?」
「んなことね。何でそう思うの?」
「
…………
だ、だって。こっ
……
」
「
……
こ?」
「こ、恋人でも、ない、のに」
「
…………
」
言っちゃった。言ってしまった。胸の奥がきゅっとして、視界が揺らいで。泣いたら困らせちゃうよって気持ちだけで、涙を押しとどめる。
「
…………
恋人なら、いいの?」
「
……
え」
繋がれているのとは反対の手が、三つ編みをすくう。結び目のガラス玉を、親指で撫でる。驚いた拍子にひとつだけこぼれてしまった雫は、落ちることなく彼の服に吸い込まれていった。
「スグ、リ?」
「
……
これ、気に入ってくれたんだな」
「う、うん」
「
……
嬉しい。似合ってる」
目の前で、はちみつがとろけていく。やめて。やめてよ。これ以上は心臓が、もたない。
「俺、アオイが好きだ」
…………
。
…………
。
…………
えっ。
「
……
ぁ、えと。と、とも」
「友達としても好きだけど、今のは違う意味で言ったんだからな?」
「ぁう」
「
……
にへへ、顔真っ赤。かわい」
「〜〜っっ!?」
「ね、アオイ」
「俺の恋人に。彼女に、なってくれませんか?」
「っ」
そんな言い方、ずるい。そんな表情、ずるい。
答えなんて、一つしか持ちあわせてない。
「
…………
はい。スグリの恋人に、なりたいです。私の彼氏に、なってくれますか?」
「よろこんで」
その後スグリは、私にプレゼントを渡してくれた。「ほんとはこれ渡してから告白するつもりだったんだけど、順番逆になっちまったな」って、照れくさそうに笑いながら。
「開けてもいい?」
「どうぞ」
「
……
わあ
…………
!」
中には、カジッチュを模した容器があって。さらにその中にこれでもかってくらいたくさんのお菓子が詰め込まれていた。
…………
ん? カジッチュ? 告白?
「
…………
あ、あのスグリ。もしかして、だけど」
「ガラルのジンクス、だべ? 前に色々調べてたときに知ったんだ」
「知っ、てたの
……
?」
てっきり知らないとばかり思ってた。だから私は、何食わぬ顔をしてカジッチュを交換に出したのに。知らない振りをして、カジッチュを受け取ったのに。
「あ、アオイとポケモンっこさ交換するときはすっかり忘れてて! これはほんとで!
……
だけど今度は、知ってて選んだ。アオイに告白するために」
「こく、はく」
「
……
順番さ逆になっちまったし、アオイからはそれ以上にプレゼントわやもらえたわけだけど。
……
マフラーに、サンドイッチに、それに」
とんとん、と自分の口の端をたたく。さっき、私の唇が当たった場所を。
かっ、と顔が赤くなったのが嫌でもわかる。
「だっ、だからあれは事故だってば!」
「えー? でも俺は嬉しかったし、あれもプレゼントに数えさせてほしいな?」
「うう
……
」
「
……
事故だって言い張るんなら、やり直し、する?」
「しっ、しない!!」
「ざんねん」
「
…………
いっ、今は、ムリ
……
」
「
……
そっか」
――
んだば今は、これで我慢する。
その言葉とともに額に落ちてきた柔らかな感触。目の前には特徴的なほくろ。何をされたかなんて明白。
「〜〜〜〜っっっっ!?!?」
「
……
にへへ」
かたまった私をよそに、サンドイッチ食べようってキッチンへと向かうスグリ。だけどその耳は、首は。赤く色づいていた。
後日談にして余談。
スグリがもらったあのクッキーは、見た目に反してなかなかの代物だったらしい。ちょっとやばいものが入っていたとかなんとか。何が入っていたのかまでは教えてくれなかったけど。
「オカルトちっくな雑誌に載っていたおまじないです、としか教えられません」
「えっ? そ、そんなにまずいものが
……
?」
「
……
ええ、まあ」
「それであんなきれいな見た目になるものなの
……
?」
「現になってたじゃない」
「神秘。不可解」
ではなぜ判明したのかというと。
スグリがテレポートでいなくなった後、誰も手をつけなかったそれをカキツバタが口にした。それと同時に、床に落ちたものを遅れて参加した部員のホシガリスが食べた。
そして次の瞬間。
両者もんどり打って倒れたという。
その現場にいた、あるいはその話を聞いた生徒達は、他人の手料理を何も口にできなくなってしまったそうな。
「しばらくすれば元通りになると思うんですけど
……
」
「落ち着くまでにはまだしばらく時間を要すると予想」
「だからアカマツ、なんか元気ないの?」
「まー自分の料理食べてもらえないんだものね」
「ごめんねアカマツくん
……
」
……
ペパーはしばらく呼ばないでおこう。事情説明すればわかってくれると思うし。
さらに余談。
スグリからのプレゼントであるカジッチュの容器が空になるころのこと。
「アオイ。あの、これあげる」
「? なあにこれ? 開けてもいい?」
「
……
うん」
スグリから突然渡された細長い箱。その中には、ネックレスが入っていた。トップにはりんごモチーフの飾り。大人っぽすぎないけど、子どもっぽいわけでもない。
「かわいい
……
」
「
……
そっか。よかった」
そう言って笑うスグリが、何かいいたげに見えて。
「
……
スグリ?」
「
……
あー。あの、えっと、その」
「うん?」
「実はそれ、クリスマスに渡すつもりだった」
「え」
「けど、その、買おうとしてるとこさねーちゃんに見られてて。あんたそれ重すぎるわよって、言われて
……
」
わからなくはないけど。だけど手編みのマフラーをプレゼントしようとしていた私が言えたことじゃない。
「でも諦められなくて買ったんだ。カジッチュの容器、そろそろ空になるべ?」
「うん」
「あれ、知ってるとは思うけど、小物入れになってて。よ、よかったらその
……
」
「
……
うん。大事にする。ありがとう」
「
……
! にへへ」
照れくさそうに前髪をいじっていた手が、私のそれへとのびてくる。指と指とを絡めあって、すき間なくぴったりと手のひらが重なる。
「アオイ」
「うん?」
「いつかここにも、アオイに似合うアクセサリーさ贈らせてな?」
「っ!?」
その約束が果たされるまで、あと
――――
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