ぶんどき
2024-12-25 18:45:21
2072文字
Public 依頼
 

問、サンタクロースは存在するのか。

アンダーテリング 現行未通過❌
NPCのクリスマスの話
Skebリクエストありがとうございました!

 イルミネーションに彩られた街。どこの店に入ってもクリスマスソングが流れているそんな時期。今夜は12月25日、つまりクリスマス当日だった。世間はやはり当日よりもイブこそ本番、という意識があるのか昨日よりは多少落ち着いた雰囲気を感じるが、手を繋いだ浮かれたカップルとすれ違うのはもう何度目か。昨日は『Bar Polaris』でクリスマスパーティーがあり、夜遅くまでどんちゃん騒ぎだった。馴染み深い二人の顔を思い浮かべる。殺し屋と作家という奇妙なバディの二人だ。彼らもクリスマスイブを楽しめただろうか。
 そしてクリスマス当日、自分はとある用事があって大きなショッピングモールを訪れていた。
 迫力のある大きなクリスマスツリーの前が待ち合わせ場所だった。時間になってやってきたのは緩やかにウェーブした桃色の髪を揺らす女性──堀金編集長だ。
「永田くん、お待たせ」
「お、編集長、俺も今来たばっかりだし気にしなくていいっすよ」
「あらぁ、さすが出来る男の受け答えね~」
 茶化すように編集長はくすくすと笑った。
「で、なんでしたっけ、プレゼント選び?」
 休日だったはずの自分に今朝編集長から連絡が来た。曰く、プレゼント選びに付き合って欲しいとのことだった。大方荷物持ちも兼任、という意味だろう。
「そうそう、編集部のみんなにクリスマスプレゼントをあげようと思っていたのに最近忙しくてすっかり忘れてて。今日買ってこのまま出版社に戻りましょ」
 確かに編集長は律儀に毎年クリスマスプレゼントを用意していた気がする。お菓子に雑貨、その年によってプレゼントは異なっていたが、一人一人をしっかり見ているこういう細かな気遣いが彼女が社員達から慕われている所以でもあるのだろう。
 こうして同僚達へのクリスマスプレゼントを買うために、ショッピングモールを歩き始めた。端から順に様々な店を見て回る。そこそこの人数分買うことになるため予算にも気を配りつつ、ああでもないこうでもないと相談をしながら手荷物を増やしていった。
 ようやく全員分のプレゼントを買い終えた昼過ぎ。カフェで一休みしていると、向かい側に座る編集長が口を開いた。
「永田くんは子どもの頃、サンタさんって信じてた?」
 その何気ない、クリスマスなら当然のような話題に自分は──
……いやぁ、全然信じてなかったっすね」
 当たり障りなく笑ってこの会話を切り上げようとした。自分の心臓を針でちくりと刺されたような僅かな痛みをもみ消しながら。
 クリスマスとは本来キリストの生誕を祝う行事だ。つまり別の神を信仰している『帚星団』には関係ない日だった。サンタクロースなんて存在も世間を知るようになってから知ったくらいだ。当然クリスマスプレゼントをもらったことなどなかった。
 ふと、とある昔のクリスマスを思い出す。Cが12月25日の朝にヒステリックに泣き喚いていた。大人達は気づいていても見ない振りをして放置していた。そうなると必然的に面倒を見ないといけないのは世話係の自分で。どうしたのかと対話を試みると、Cは泣きじゃくりながら確かに「サンタクロース」と口にしたのだ。滅多に外に出ることのない、世間知らずのCがこの閉鎖的な場所でサンタクロースの存在を知っていたのが意外だった。サンタクロースがどうしたのかと問えば「プレゼントがない。僕は悪い子なのか」と言った。どうやら、良い子はサンタクロースからプレゼントがもらえるという話をどこかで聞いたらしい。Cは自分の生まれた正当性をこれまで大人達から否定され続けてきた。だから、彼なりにサンタクロースに認めてもらおうとしたのかもしれない。それが今、サンタクロースからも見放されたと思い喚いていたわけだ。
 自分はCを宥めながら「サンタクロースなんていない」ときっぱりと言い切った。これから先、毎年期待しては裏切られるくらいなら、最初から信じさせなければいいと思った。世間のサンタクロースだって本当は大人の仕業だ。そんな子どもに夢を見させてくれるような大人はこの教団にはいないのだ。何度か言い聞かせればCは理解したのか「……そうか」と呟きおとなしくなった。その顔は珍しくあどけなく年相応で、少し残念そうだった。その時自分はようやく気づいた、自分もまた一人の子どもの夢を壊したのだと。その罪悪感は小さな棘となって、自分の中で忘れられない出来事となった。
……さて、帰りましょうか編集長」
 席を立ち、飲み終わった自分と編集長のカップを返却台に持って行く。
「今日はお休みだったのに付き合ってくれてありがとうね、永田くん」
「なんとなく、誰かへのプレゼントを選びたい気分だったんですよちょうど」
「じゃあ永田くんはサンタさんね」
 そう言って編集長は冗談めかして笑った。自分がサンタクロースになるなんて烏滸がましい。しかし、それで喜んでくれる人がいるのは悪い気はしなかった。

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※堀金編集長はアンテリ続編『アンダーカヴァリング』に登場予定