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萌音
2024-12-25 01:20:34
3224文字
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Silent night,Holy night.
突然思い浮かんだ、現パロ会社員リオヌヴィのクリスマスイブのお話。
ですがリオセスリとヌヴィレットの絡みはありません。友情出演:クロリンデ(クロナヴィ表現あり)。ずっとリオセスリとクロリンデの会話です。
「やあ、クロリンデさん」
クロリンデが社屋のエントランスに出ると、ちょうど外から同僚のリオセスリが入れ違いで入って来たところであった。
「今日は定時上がりなんだな」
「ああ。公爵は
……
まだ残るのか?」
声をかけてきたリオセスリの手には、近くのコーヒーショップのテイクアウト用の紙袋。残業のお供に購入してきたのだろうか、とその紙袋を見ながらクロリンデが返した。
コーヒー豆だけでなく紅茶にも拘っているというその店は、コーヒー好きにも紅茶好きにも人気で、社内にもファンが多い。紅茶好きのリオセスリが足繁く通っているということを、クロリンデは目の前のリオセスリ自身からではなく、彼女の上司から聞いたことがある。かく言うクロリンデもまた、その店のファンである。
クロリンデの返答に、まあな、と答えながらも、リオセスリはクロリンデをまじまじと見つめていた。
「
……
何か?」
「いや、今日は随分と着飾ってるんだなと思ってな」
そうニヤリと笑うリオセスリに、クロリンデは内心舌打ちをした。こういう目ざといところが、彼の信頼できる能力であると同時に、どうしようもなく信用ならない所でもある。
クロリンデは普段パンツスタイルが多いが、今日は黒のシンプルなワンピースを着用していた。オフィスカジュアルとしてはもちろん、アクセサリー等の小物を変えればオケージョンスタイルにもなるもので、クロリンデのお気に入りだった。
クロリンデはまさに先程までしていた自分の行いを見透かされているような心地がして、今度は本当に盛大に舌打ちをしてやりたい気持ちになる。
まだ残ると言う上司に詫びを入れながら定時で退勤し、化粧室で化粧を直した。上瞼と涙袋に少量のラメシャドウをトッピングし、今付けているリップの上から偏光パールが気に入っているリップグロスを塗り重ね、アクセサリー類をシンプルなものからビジューとパールの華やかなデザインのものへと付け替えた。仕上げに薔薇の香りのフレグランスを吹きかければ、完全にプライベートスタイルだ。
やはり社内の化粧室で身支度を整えるのは良くなかっただろうか、とクロリンデは内省する。しかし、見つかった相手もまずかった。よりにもよってこの男とは。本当はこの後のクロリンデの予定について見当がついていながら、わざととぼけているのだろう、とクロリンデは思う。そもそも今日という日を思えば、この後の予定だなんて想像に難くない。その上、不本意ながらも彼はクロリンデのプライベートについても多少把握しているのだから、容易に想像がつくだろう。
クロリンデは小さくため息を吐く。この後のプライベートの予定を皆まで彼に告げる筋合いはないが、とはいえ変に誤魔化したところでなにもメリットはない。寧ろ今目の前で見せているような顔で、内心ニヤニヤされるのだろう。クロリンデはもう一度小さくため息を吐いて、こう返した。
「この後、食事の予定があるんだ」
「なるほど。それでナヴィア嬢も今日はいつもとメイクの感じが違ったんだな」
わざとらしくそう返すリオセスリに、今度こそクロリンデは盛大に舌打ちをした。名前を出しても居ないのにすぐナヴィアの名前が出てくるあたり、やはりわかっていてこちらの反応を楽しんでいたのだ、とクロリンデは思う。何より、今日はまだ会っていない、恐らく自身と同じように着飾っているであろうナヴィアの姿を、この男は自分より先に目にしているのかと思うと腹立たしくて仕方がなかった。
「
……
ああ。今日は特別な日だからな。大切な人と特別な夜を楽しんでくるつもりだ。あいにくとと、公爵はこんな特別な日にも残業のようだが?」
まるで言葉に棘が生えているかのような物言いでクロリンデがそう返すと、別に好き好んで残る訳じゃないんだがな、とリオセスリは困ったように眉を下げた。
「俺だって本当は定時で上がって、大切な人と特別なディナーを楽しむ予定だったさ。だがその大切な人は俺よりお仕事の方が大切みたいだからな」
まあそういうところが好きなんだがと惚気話をするリオセスリに、クロリンデは苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、先程退勤の挨拶をした上司のことを思い出していた。
『それでは、私はお先に失礼させていただきますが
……
』
『ああ。本日もご苦労であった』
『
……
ヌヴィレット様、本当にお力になれることはありませんか?あと30分程なら私もお手伝いできます』
『いや、大事ない。今日中に片付けてしまいたい書類が二、三あるだけなのだ。じきに終わるだろう。それにクロリンデ、今日は大切な予定があるのではなかったか?』
『ですが
……
』
『お相手を待たせては申し訳ない。今日は特別な日なのだから、ゆっくり楽しんで来ると良い』
『ヌヴィレット様
……
』
『良いクリスマスを。ナヴィアさんにもよろしく』
そう送り出してくれた上司は、いつもの穏やかな笑顔のように見えた。しかし、心の内はどうだっただろうか。窓の外の街路樹に灯るイルミネーションを眺める横顔は、どこか寂しげではなかっただろうか。
クロリンデは、目の前のリオセスリをじっと見る。どうにもいけ好かない男ではあるが、その手腕は社内でも類を見ない程である。尊敬してやまないあの上司の右腕となれるのは、悔しいけれどこの男以外には居らず、しかしながら部署が異なるため、直接的に彼らがタッグを組んで業務にあたることはあまりない。またどういう訳か、上司はこのいけ好かない男と特別な関係にあるのである。この男が今日という特別な日を大切な存在と過ごせようが過ごせまいがどちらでも良いが、それはすなわち、あの尊いお方もまた特別な日を大切な存在と過ごすことができないということなのだ。
ふとクロリンデは、リオセスリが待っているコーヒーショップの袋に違和感を覚えた。思えばリオセスリがこのコーヒーショップに足を運ぶのは昼休憩か仕事終わりで(これらは全てヌヴィレットからの情報である)、残業をする時は個人でストックしているティーセットを使用するか社内の自動販売機を利用するのが常である。クロリンデは時折、給湯室やベンダールームでリオセスリと出会すことがあった。またリオセスリは、テイクアウトでも袋を断ることが多かった。一人分のカップくらいで袋を利用するのは勿体無いという言い分であった。では、そんな彼が社屋を出てコーヒーショップまで足を運び、テイクアウト用の紙袋を持って帰ってきた理由は何か。
そこまで考えて、クロリンデはまたため息を吐いた。本当にどうしてあの方はこの男が良いのだろうか、私にはまったく理解できない。腹の中がまったく読めないこの男が、とはいえ誰よりもあの方を大切に思っているということは、火を見るよりも明らかなのだ。
「
……
そういえばヌヴィレット様も、今日中に片付けたい書類が二、三あるとおっしゃっていたな」
「うん?」
「私が見るに、二人で取り掛かれば30分程掛で仕上げられると思ったが、とは言え、ヌヴィレット様のお心遣いもあって、あの方以外は皆定時で上がったはずだ。きっと今夜も遅くまで残られるのだろう」
「クロリンデさん
……
」
「誰かが手伝って差し上げられたら良いのだけれど。なぁ、公爵?」
クロリンデがそう言うと、リオセスリは今度何か奢る、と一言言い残し、足早にエレベーターホールへと消えていった。
「別に貴方のためじゃない」
クロリンデは独り言ちた。そう、決して公爵のためなどではない。自身を快く送り出してくれた、優しくて尊い、あのお方のためなのだから。
エントランスを通り、自動ドアを潜り抜け、社屋を後にしたクロリンデは、ふと社屋を振り返った。まばらに明かりの灯った窓中、自身の部署の階にもまだ電気が点いているのを眺めた。
「良いクリスマスを」
そう呟くと、愛しい彼女との待ち合わせ場所へと足早に向かった。
fin.
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