はるの
2024-12-24 21:48:47
2744文字
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スピーク・ノー・イーブル 異常な家族

ネタバレ感想

登場5秒でやべーやつ確定演出が入ることでお馴染みのスピークノーイーブル、感想です。

うわこいつ、と思ったら元気にずんずん歩くまかさんで最初はにっこりしちゃったんだけど、なんかこの映画、全体的にまかさん感はなかったななんとなく。そういえばこれはまかさん、と我に返る瞬間が3回くらいあった。これは印象の良し悪しではなくて、あんまり知らないまかさんの領域を見ているような感じが近いかもしれない。
パディのアルファオス丸出しの振る舞いがギリギリ他人の気遣いを台無しにしないところをかすめていくのとか、自分の理想のシナリオから少しでも外れるといきなり不安定になる瞬間の揺らぎ方とかは本当にうまいなと何度も思いました。やっぱまかさんなんだよな。

パディのアルファオス仕草本当にやっべえなって感じなんだけど、それと同じくらい、ベンのあまりのカモすぎるベータぶりにもやっべえなとなってました。ふたりで出かけるシーンとかやばない??ドライブでラブソング歌って狩りして、ふたりで丘の上で叫んで抱き合うの、まあまあセックスみたいなことじゃない?食われてもうてる(ベンが)と思ったし、ベンがパディに対して強烈な憧れと嫉妬を練り込んだ感情を向けてる様子もアッチャーってなってた。あのへんの絶妙な様子、すごく印象的でした。
パディの陽気でムキムキでおおらかで荒っぽくてギリギリな発言も勢いでチャーミングに変えてしまうような強権的なところにめちゃめちゃ憧れていて、そうなりたがってる、というのがベンの持つ強い方向性だと思うんだけど、同時に「こんな何の取り柄もないような私がアルファオスに好かれてチヤホヤされている」という状況にも充足を感じてそうで、そういう機微がじわっと描かれる感じ、良かったです。そしてまかさんの分厚さは二度見した。すごいね
まあベンのそういうゆるふわさが惨劇を招くんですがあるよね、こういうこと。まあこれくらいなら楽しいしと有害さから目を背けていたらいつのまにかずぶずぶになってて自分がどこに立ってるのかもわからなくなること。彼についてはそんな話だったなあという印象です。

ルイーズは最初からこいつやべーな顔をしてましたが、キアラのかわいそうな話に感情移入して揺り戻されてしまっているところなど、匠の技だなと思ってました。アグネスに過保護ぎみなのとか、終盤で容赦なくキル数を稼いでいくのもそうなんだけど、なんか他者との距離感の振れ幅がでかい気がする。たぶんそういう不安定さのせいで、ずるずると滞在することになったようにも思うんだけど、ベンが生き餌として優秀すぎるせいですべてがかすんでしまうな際立ちがすごいあの人、光り輝いてる

キアラもすごいキャラクターでしたね。あんなに加害者と被害者と無垢と悪意がごちゃごちゃになってる人あんまない。登場人物の中でいちばん地に足がついてなかったし、それゆえの何するかわからない的こわさがあった。本当にみなさん機微を見せる演技がうまいと思います。

パディの、うわかかわらんどこ、ってなる言動は全部こわいし、なんかずっと楽しそうなのでこわいし、まかさんは陽気に歌うしで、えっこれ何?趣味??人をいたぶって遊ぶのが楽しい人???とまじで得体が知れなくて底知れないこわさがあったのですが
実は金目当てだった、って分かるじゃないですか
なんかその瞬間、あ、資本主義が産んだ化け物じゃんとなんか、スッと冷静になったというか、一気にこわさよりも社会問題に対する落ち込みみたいなのが来てしまって、すごい静かな気持ちでドタバタエスケープを見守ってしまった。なんか。
どうしてこんなことをするんだ、と問うベンに、お前らがそうさせた、と答えるパディのやつ
たぶん、ガチで言ってんだろうな、とかね。
この両家は「田舎で資本もなく犯罪で生計を立てている家父長制の浸透した家」と「失業してもイタリア旅行に行けるくらいは裕福な都会のリベラルな家」で、パディの端々に見えるリベラルをばかにするような振る舞いは、環境問題なんか考えてる余裕もない生活が破綻した状況から来るものなんだろうな、とか
彼が標的に選んでいた家族はどれもおしなべて似たような人々で、たぶんパディは彼らに"奪われた"という意識があるだろうし、だから奪って当然だみたいな感覚があるんじゃないかな、と思った。

踏んでる足を退けることで退けた人は今までよりちょっと窮屈になるけどそれを受容するか拒絶するか、みたいな闘争がずっとあって、パディもゆうてただの人間なんだな、みたいな感覚でした。
戦利品を整然と棚に並べて獲物をアルバムにコレクションしてる"壁の鹿"ぶりは、ただのと称するにはちょっとやべーやつすぎるし、そもそもキアラをローティーンで妻にしてるDVのやべーやつなので、極端にやべーやつなのはやべーやつなんだけど、なんかね。少なくとも、ホラー映画の怪奇現象ではないなというか。得体の知れないやばさじゃなくて、現実的で解像度の高いやばさだな、みたいなことを思いました。

やっぱね〜貧困率と犯罪率は連動するんですよねそして貧困率と教育普及率も連動する。高学歴の子どもがいる家庭は裕福である確率が高い、というのはデータに出てるし。つまりどんな人にもねえ、資本にかかわらずねえ、平等に十分な教育が必要なんですよSDGsもそう言ってるパディはSDGsをクソの戯言だと思ってそうだな。確かに夢物語みたいなこと言ってるけど、人間はどちらに向かえばいいかの灯台のようなものだと思うぞあれは
これスピークノーイーブルで考えることじゃない気がするんだけど、なんかわたしは最後そんな気持ちで帰ってきました。

あと、アグネスとアントが聡明すぎて感動した。初潮を演じればセンシティブな事柄だから自然と家族だけで話せるし多少不安定な顔してても不自然じゃない、と考えてあの場所にトゲを刺すのとかすごくない?わたしだったら絶対に考えつかないそんなの。頭良すぎる。
そしてアント役のダンくん、めちゃめちゃ良かったです。う、うまい

原作の『胸騒ぎ』は、チラズアートの新幹線0で車内広告に出てたな、くらいしか知らないのですが、これとは違う胸糞エンドになってるみたいですね一体どんなだ。
でもわたしはまさか4人生還エンドになるとは思ってなくて、全滅するまであると思ってたので、もしかしたらそういう展開なのかもしれませんね。最も胸糞なエンドを考えた人が優勝コンペがあれば、「少年だけが生き残って、どん底の暮らしを送った結果父と同じ道を辿る」で提出したいと思います。