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まきわ
2024-12-24 19:16:46
2825文字
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クロリン
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遠い約束
ゼムリアにクリスマスに類するイベントはなさそうなので、この時期の、それっぽい話です
クロリン!
先輩の幼少期の思い出と仕事に関すること一部捏造ありです
まだ幼い頃の事だ。
年末が近づくと祖父はとにかく忙しく、連日帰りは深夜近くだった。
ろくに顔も見られない日々が続いたが、寂しいという想いよりも祖父の体が心配だった。
ただでさえ高齢なのに、こんな生活を連日続けていてもつのだろうか。
それでも祖父の代わりはいないのだということも理解していたから何も言えなかった。
遅くに帰ってくる祖父に何かできればと近所の酒場の女将に聞いて滋養のつくスープを作り置いてみたりもした。
少しでも食べて、寝て、元気でいてほしい。
そんなふうに願いながら過ごして
…
そう、あれは年の瀬も迫った12月24日のことだ。
今でもなんとなくその日付だけ覚えている。
久しぶりに日が暮れてそれほど経たないくらいの時間に祖父が帰ってきてくれた。
そして眉を下げて申し訳なさそうに頭を撫でてくれたのだ。
「寂しい想いをさせてすまなかったな。今日は久しぶりに一緒に夕食を摂ろう」
どちらかというと心配していたのだが、なんにせよ一緒に食事ができるのは素直に嬉しかった。
楽しい夕食の時間を過ごした後、祖父は綺麗に包装された大きな包みを渡してくれた。
「寂しい想いをさせた埋め合わせに年越しは必ず一緒にしよう。これはその約束の証じゃ」
驚きながら受け取ったプレゼントの中身は真新しいトランプと発売されたばかりのボードゲームだった。
「これで一緒に遊びながら年を越そう。約束じゃ」
プレゼントも嬉しかったけれど、その言葉と撫でてくれた体温が本当に嬉しかった。
まだ幸せだった頃の、大切な思い出の一つだ。
12月23日。
クロウは事務所のデスクで大きなため息をついた。
年末が近くなると何故かトラブルも増えるようで、ここのところ依頼の件数も多かった。
その対応を最優先にして、後回しにしていた書類仕事に今クロウは追われていた。
クロウが仕事の拠点にしているのはタスレム市だが、軌道に乗ってそちらの事務所を任せられる人材を確保できてからは月ごとにタスレムとリーヴスに交互に滞在するようにしている。
今月は年末休暇を挟むこともあって1月頭まではリーヴスにいる予定なのだが、月頭から怒涛のようにこなしてきた依頼の報告やら事務処理やらの書類が山積みになり、ここ数日はリィンの待つ家に帰れるのが深夜になっている有様だ。
(ここんとこ寝顔しか見られてねぇなぁ
…
)
せっかく同じ家にいるというのにほぼメールでしか会話できていない。
デスクに突っ伏してしまいたくなったが、そんなことをしている間に手を動かさなければいつまでも終わらない。
(せっかくこっちにいる月だってのに寂しい想いさせちまってるだろうなぁ
…
)
そう思った時、ふと幼い頃の記憶が頭に蘇った。
忙しい祖父を独り家で待った懐かしい記憶。
手を止めて切ない笑みを浮かべる。
(
…
そうだよな。あいつもどっちかっつーとオレの体を心配する方か)
思い返せば「ちゃんと食事はするように」と再三メールで伝えられ、帰れば温めて食べられるようにいつも食事の用意はしてくれている。
(
…
じいさん。じいさんがあの頃何を想ってたのかはもう確かめようもねぇが
…
)
クロウは大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出す。
手元に積んである書類の束と時計に目をやって、そして思い切り自分の頬を叩いた。
(あの時、嬉しかったのは確かだ。あやからせてもらうぜじいさん。見守っててくれ)
心の内に呟くとクロウは猛然と書類を片付け始めた。
12月24日。
夕焼けのオレンジがだいぶ夜の濃紫に追いやられた頃にクロウはリーヴスの我が家に帰宅した。
「よっ、帰ったぜ」
「
…
クロウ!びっくりした、今日は早いんだな」
キッチンで食事の支度をしていたらしいリィンが手を拭いて駆け寄ってくる。
軽く抱き締めて髪に口付けてからクロウは微笑んでみせた。
「おう、悪かったなここんとこずっと遅くて。でもようやく目途がついたんでな」
「そんな、悪いことなんてないけど。でもよかった
…
ずっと深夜帰りだったから心配してたんだ」
リィンの心配そうな、けれど安堵したような微笑みに思わず苦笑する。
寂しくないわけはないだろうが、やはり心配の方が勝っていたのだろう。
(
…
まぁ、そうだよな。そんなものだよな)
大切な相手のことだから。
クロウは祖父の体温を思い出しながらリィンをもう一度抱き締めた。
「心配かけたな。今日は久しぶりに一緒に飯食おうぜ」
「ああ!もうすぐできるから、座っててくれ」
「いや手伝うっつの」
嬉しそうに満面の笑顔を輝かせるリィンの頭をぽんと撫でてクロウはさりげなく持ち帰った紙袋をキッチンの隅に置いた。
夕食の時間は久しぶりにゆっくり会話できたこともあって楽しい時間になった。
まだまだ話し足りない様子だったので手早く片づけを終えて一緒に風呂に入ることにした。
触れ合うのも久しぶりだったからか、風呂ではほぼ会話などしないまま熱くなってしまったが
…
。
盛り上がりすぎた『触れ合い』の結果ぼーっとした様子のリィンの髪を乾かしてやった後、クロウは寝室に移しておいた紙袋を持ってベッドに座ったリィンの隣に腰を下ろした。
「リィン」
「
…
ん?」
まだ熱に浮かされたようなとろんとした瞳がクロウを見つめる。
可愛いな、と思って笑みを零しつつクロウは紙袋をリィンに差し出した。
「
…
これ?」
首を傾げるリィンに、中に入っていた包装された箱を取り出して見せてやる。
まだ不思議そうにクロウの顔と箱を交互に見ているリィンに微笑みかける。
「ここんとこ寂しい想いさせて悪かったな。その埋め合わせと
…
あとはまぁ、年越しは絶対一緒にいるっつー約束の証だな」
「クロウ
…
。えっと、開けてもいいか?」
「もちろん」
リィンは少し頬を上気させてゆっくりと丁寧に包装紙を剥がし始めた。
中身は今日帰り際に買ってきた、リニューアル版のブレードとボードゲームだ。
「ま、年越しは二人でゆっくりゲームでもしながら過ごそうぜってことで」
にっと笑ってやるとリィンはきらきらした子供のような目でプレゼントをそっと撫でてからクロウを見つめて笑み崩れた。
「
…
ありがとう。すごく嬉しいよ。
…
うん、年末は二人でゆっくり過ごそう。楽しみにしてる
…
すごく」
「おっと、責任重大だな」
おどけて言って、二人で笑い合う。
元々年が変わる日は二人にとってあまり良くない意味で転機が訪れた日だったから、一緒に過ごすよう努力してきた。
けれどクロウにとっては、今日のこの約束はもう一つ意味があった。
今度は決して、この幸せを手放さないと改めて誓う意味での。
一緒に年を越す時に、リィンにもあの思い出の話をしてみようかとクロウは思った。
(見守っててくれ、じいさん。今度は
…
ちゃんと最後まで守り切ってみせるぜ)
今度はこの温もりを決して手放さない、そう誓ってクロウは嬉しそうなリィンの手をそっと握った。
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