三毛田
2024-12-24 13:37:19
3496文字
Public アドベント24
 

24 04. 告白の

24 その返事は俺だけのもの

「悪いが、それは受け取れない」
 冬休みまで秒読みの、寒いある日。
 丹恒を探して歩いていたら、冷たく拒絶する彼の言葉が聞こえ。そうっとそちらへ向かう。
「どうして?」
「既製品ならばかろうじてだが、手作りの物は精神衛生上無理なんだ。すまない」
 確かに、友人になった頃は俺がお弁当のおかずを分けようとしとも拒否られてたもんな。
 その時は、お腹いっぱいだろうと思っていたから気にしてなかった。
 今? 今でも、勝率は低い。口をつける前の箸で食べさせるとか分けるならば、受け取ってくれる。
「調理実習の時は」
「自分の分は食材を別に確保していた。きちんと許可は得てやっていた」
 それでもなお食い下がらない様子だ。ここは、邪魔したほうがいいだろう。
「丹恒、ここにいたんだ。帰ろう」
「穹」
 俺が姿を現すと、丹恒はあからさまにホッとして。相手は、邪魔をするなというように睨んでくる。
「ヨウおじちゃんから、さっさと帰ってこいって言われたんだよ」
「ヴェルトさんが? 本当だ」
 咄嗟に言い訳してみたけど、ナイスタイミングでヨウおじちゃんからチャットが届く。
〝姫子が早く帰ってくるから、それまでに帰ってきて夕飯を作ってくれ〟
 と。
「すまない。家族から買い物を頼まれた」
 携帯をポケットに仕舞うと俺の腕を掴み、早歩きでこの場を立ち去る。
 明日には、女子の間にあることないこと噂が広がりそうだ。
「穹、助かった」
「盗み聞きしてたのは、咎めないんだ」
「気づいていたが、どちらかというと助けてほしかったからな」
「そっか。なら、よかった」
 教室に戻り、荷物を手にして昇降口へ。
「今から買い物して帰るとなると、炒飯とスープかな。おかずは、惣菜で。姫子飯よりはマシだろ?」
 美人で何でもできると思われている姫子だけど、実はコーヒーを淹れることと料理だけは壊滅なのだ。
「ああ。だが、考えて買わないといけないぞ」
「わかってるって。ところで、丹恒はクリスマスは?」
「三月がパーティーをすると張り切っていただろう。いないと、拗ねる」
「だよね。パムも参加してくれるらしいから、プレゼント用意しないと」
 アキヴィリと世界旅行をしているパムだが、冬の時期だけは帰ってきてご馳走を作ってパーティーに参加してくれる。
『市販品よりも、オレの食事の方が美味いことを証明してみせる』
 とかなんとか言って、クリスマスのご馳走はもちろんだけど、おせち料理も張り切っていて。
「そういや、何渡されそうになってたの」
「クッキーらしきものだな。何が入っているかわからないから、受け取らなかった」
「それで正解だ」
「ついでに告白もされた」
「えっ」
「クリスマスを共に過ごしたいという、下心があったのだろう」
「丹恒は俺の恋人なのに……
「あまり公言していないから、知らない奴もいるのだろう」
「いやいや。いつも教室でベタベタくっついてるじゃん。もしかして、他のクラス?」
「そうだろう。クラスの連中は、俺が他者の手作りのものを受け取らないのは知っているからな」
「あー……うん。そうだよな、確実に」
「お前は、クリスマスはカフカのところに帰らなくていいのか」
「パムのご飯が食べたいから帰らない! って連絡したら、『おせちを持って帰ってきなさい。どちらかよ』って返ってきたから、正月はあっち」
「そうか。少し寂しいな」
 そう言われると、帰りたくなくなる。が、結構好き勝手させてもらっているのだから、素直に従おうと思う。
「丹恒は」
「あんな家、帰る場所じゃない。俺の家は、星穹家だ」
 聞くんじゃなかった。
 丹恒の顔が陰る。
 まあ、俺もあそこはいい思い出もなければ顔を見たくない連中もたくさんいるからな。
「無理に帰ることないって。景元と彦卿に会えないのはちょっと寂しいけど」
「新年の挨拶回りで会えるだろうから、気にすることはない」
「そういうもの?」
「そういうものだ」
 まだ落ち込んでいるのかと顔を覗き見れば、振り切ったような優しい微笑みを浮かべていて。
 好きだなあって思うと同時に、キスもしたいなと。
……帰ってからだ」
「何も言ってないって」
「目が、そう言っている。それと、唇に視線が突き刺さっていた」
「もう!」
 恥ずかしくて、軽く肩を叩く。楽しそうに、声を上げて笑って。
 じゃれあっているうちに、スーパーに着いた。
 予約したケーキの受け取り場が、もう設置されていて。
 早い人は、週末に受け取るのだろう。
「市販のケーキって美味しいのかな」
「食べたことはないのか」
「多分カフカが作ってくれてたから。丹恒は?」
「そういえば、俺も食べたことがないな。あの家にいた頃は、こういう行事とは無縁だったし、今はパムが誕生日や行事ごとに作ってくれたり送ってくれるから」
「今度買って食べてみない?」
「理由づけはどうする」
「うーん……お付き合い、何年目! とか」
「悪くないな」
 と、笑う。
 色々我慢できなくなる前に、買い物を済ませる。
 両手いっぱいの荷物に、顔を見合わせて苦笑して。
「ただいまー!」
「ただいま帰りました」
 玄関に、ヒールはない。なんとか姫子が帰って来る前に、帰宅できた。
「おかえり、二人とも。早速だが、頼む」
「任せて!」
「三月は帰ってきていますか」
「ああ。『宿題やんなきゃ!』と叫びながら、部屋にこもっている。彼女の手伝いは期待しない方がいいだろう」
「宿題あったっけ?」
「期末テストの点数が、赤点ギリギリだったからだな。冬休み中に補習に参加するくらいなら、その前に課題を提出すればいいという話になったらしい。赤点の人間は、補習があるそうだが」
「へー」
 俺? 丹恒先生に指導してもらうようになってから、赤点は余裕で回避してます。
 勉強中でもイチャイチャできるし、それなりの点数を取れるようになったから褒められるし。
 カフカも褒めてくれて、お小遣いがちょっとアップした。
「丹恒、丹恒」
「どうした」
 部屋で着替えながら呼ぶと、優しく俺を見つめながら返答を待ってくれて。
「みんなへのクリスマスプレゼントはどうする?」
「パムとアキヴィリ宛のは、姫子さんとヴェルトさんに任せた。後は、三人のだな」
「いっそ一緒に買いに行ったり、聞いたほうが楽な気がするんだ」
「確かに。下手にサプライズするよりも、そっちの方が確実だ」
「じゃあ、今日聞いてみようよ。売ってるかわからないけど」
「ああ、そうしよう。だが、今は夕飯が先だ」
「かしこまり!」
 着替え終えたので、エプロンをつけて手分けして夕飯を作る。
「ただいま。あら。二人が作ってくれたの?」
「おかえり、姫子。着替えたら、ご飯だよ」
「お帰りなさい、姫子さん。もう直ぐ出来上がります」
「早く帰れたから、せっかく作ろうと思ったのに」
 ナイス、ヨウおじちゃん。心の中で感謝しておく。
 そして、ご飯の最中に、みんなに欲しいものを聞いて回る。
「じゃあ、ウチも一緒に行く! パムに個人的なプレゼントを渡すつもりだから、そのラッピング用品を買いたいし」
 ということで、週末に三人でショッピングモールへ行くことが決まった。
 最初は遠慮していた姫子とヨウおじちゃんだったけど、
「二人とも、素直に受け取って! ウチらからの日頃のお礼だよ!」
 そんななのの言葉で、渋々ながらも受け取ってくれることになった。こういう時はなのが効く。
「なの、ありがとう」
「いいって! でも、カフェでケーキを奢ってくれたら嬉しいな」
「買い物を終えたら、そこで休憩しよう」
「やった〜!」
 三人で食器洗いをしながら、そんな会話。
 当日は、こっそり丹恒のプレゼントを余分に買っておこうと思う。
 受け取るのに躊躇うだろうけど、押し切れば受け取ってくれるはずだ。
 なのには『あんたって本当、丹恒が好きだよね』って呆れられるだろうけど。
 だって、あの日。
『丹恒、好きです! 俺の恋人になってください!』
 と告白して、手を取ってもらえた日から、ずっとずっと好きで仕方ないのだ。
 日々好きという気持ちが更新されていく。
「穹?」
 お風呂に入って温まり、二人で布団に潜っていると丹恒はふと俺を呼んで。
「どうかした?」
「いや。気のせいだったみたいだ」
「そっか。丹恒」
「なんだ?」
「丹恒が好き」
「ああ、俺もお前が好きだ」
 微笑みながら返してくれて、それから唇が重ねられた。