ちよど
2024-12-30 00:00:00
2787文字
Public ビマヨダ
 

ヨダナさんがビマさんの試食係になる話

ビマヨダ。美味しい話には罠がある話。pixivより再掲

 ろくでなしで見栄っ張りのドゥリーヨダナがサロンを開いた。
 サロンといえば貴族が交流するという名目で勢力圏を広げるものらしい。俺達の時代にはなかったモノだ。要は宴だろう。美味い料理に上質な酒があれば人は簡単に友になる。──油断してしまう。毒入りの菓子を食べてしまう程に。
 話がズレた。あの馬鹿のサロンの話だ。
 もちろん、バレンタインに政治的にやらかしたらしいドゥリーヨダナは一部サーヴァント達に危険視されており、おおっぴらにサロンを開催する事など出来はしない。
 ヤツがやったのは、自分が毎朝飲んでいるお手製のドリンクのお裾分けだ。
 ドリンクの制作したアシュヴァッターマンとカルナがドゥリーヨダナに心酔しているのは有名な話だ。下手な物を出す訳がない。
 舌が肥えているドゥリーヨダナが自慢するのもあって、試飲してみたいと思う者は多かった。
 その代償がドリンクを飲みながらドゥリーヨダナと歓談するだけだとあっては、希望する者は相当な数に登ったのだ。
 ドゥリーヨダナは大馬鹿だが馬鹿じゃねぇ。大事になると解散させられると思ったのか、ドリンクの試飲に招待するのはひとりかふたり。それも夜でなく午前中。
 ケチをつける隙がない。
 悪知恵だけは働く男がそこまでして自慢するドリンクが大したものでなければ笑ってやるところたが、リピーターが多くいつまで経っても予約が空かない状況がその美味さを保証していた。
 そして、俺はその予約に当選して。今、ドゥリーヨダナの部屋の前にいる。
 時刻は10時。約束の時間ちょうどだ。
 俺は二臨に姿を整え、小さく軽い包みを抱え直した。
「ビーマセーナだ」
 ドア越しの気配に名乗ると、静かにドアが開けられる。
「入るがいい」
 マスターの時代では執事服と呼ばれる衣装に身を包んだカルナが俺を奥へと案内する。
 魔術で拡張しているのか広々とした空間はどこか故郷の宮殿を思い起こさせた。
 通された部屋の真ん中。爽やかな光に照らされた白いテーブル。椅子に座ったままのドゥリーヨダナが振り返る。三臨の長い髪が揺れた。
「来たか」
「招待されれば当然だ」
「おまえが申し込まなければ招待なぞせん。喧嘩を売りに来たのか?」
 煽られて俺は一瞬拳を握りしめたが、すぐにそれを緩めてドゥリーヨダナの向いの椅子に腰を下ろした。
「美味いのか?」
「当然だ!」
 胸を張るドゥリーヨダナの前にそっと空のグラスが置かれる。続いて俺の前に。
 どちらを重んじているのか丸わかりのアシュヴァッターマンが乳白色が揺れるピッチャーを傾けた。
 とろとろとした液体がふたつのグラスに満たされる。──毒は、入っていないだろう。
 それを証明するためにかドゥリーヨダナが先にグラスをあおった。喉仏が上下する。
 グラスを満足そうに唇から離したドゥリーヨダナは赤い舌でぺろりと唇を舐めた。
 ぞくり、と背中が震える。
 一瞬の違和感はドゥリーヨダナの大声で簡単に散った。
「さすがわし様のアシュヴァッターマン!これほどまでにわし様好みの味をつくれる者はおまえ以外はおらん!!」
 手放しで褒められてアシュヴァッターマンが子どものように顔を輝かせる。昔は良く見たその表情は今は透明な壁の向こうにあるように感じた。
 俺もグラスに口をつける。
 とろりとする割には重くなく、甘みは抑えてあるが華やかな香り。きちんと裏ごしされていると分かる舌触りの良さ。使われている材料は……
「採算取れてねぇだろ、これ」
 多少顔馴染みが増える程度の代償で出されていいものじゃねぇ。そう言うとドゥリーヨダナは鼻を鳴らした。
「わし様が美味いと感じる。それだけで充分だろう?」
「そんなおまえに、これだ」
 持ってきた包みを押し出すと顔に疑問符を顔に浮かべたドゥリーヨダナが受け取る、前に。横にいたアシュヴァッターマンが取り上げて包みの口を開いた。遠慮も何もなく中に手を突っ込みクッキーを取り出す。
 無言で噛み砕き、飲み込む。しばらく待ってアシュヴァッターマンは包みをドゥリーヨダナに差し出した。
……そこまでしなくていいぞ」
 毒見までされた当の本人が呆れたように言うのに、アシュヴァッターマンは首を振る。
 その頑なさに俺は話題を戻した。
「そいつの味の感想を聞かせて欲しい」
「はァ!? わし様にか??」
 大げさに驚いて見せるドゥリーヨダナから、俺はテーブルに視線を落とした。
「皆は美味いと言ってくれる、言ってくれるが
「おまえは納得しておらん、と」
「おまえは俺相手に世辞は言わねぇ」
「言うか馬鹿! ばーかっ!!」
 子どものように悪態をついてドゥリーヨダナがクッキーに歯を立てる。
……ふむぅ。確かに美味いが。おまえ、これ誰に食べさせようとした? 子ども向けではないだろう? 甘みが足りん。
 女が好むような見栄えでもなし。この香りはわし様は好きだが」
 論評するドゥリーヨダナの横に立つアシュヴァッターマンの金色の目が無言で俺を見ている。
 俺はそれに気づいていない風に首を傾げた。
「まだ試行錯誤する余地があるって事だな。──やっぱりお前舌だけはまともだな」
「だけは! とはなんだっ!! わし様は全てにおいてパーフェクトな王子! 森育ちのおまえよりは
「だからだ!」
 大声で遮るとドゥリーヨダナは目を丸くした。
 そうしていると幼くみえる顔に俺はほんの少し、ちょっとだけ、分かる程度に頭を下げる。
「試食してくれ。対価は払う」
……ほう? 何をだ?」
 興味深そうに尊大な声がかけられる。俺はテーブルについた両手が汗ばむのを感じた。
「おまえのサロンに茶菓子を無償で提供する。……ドリンクだけでなく、摘む物があった方が長く話せるんじゃねぇのか?」
 俺の提案にドゥリーヨダナは考え込んだ。
「旦那」
 アシュヴァッターマンの制止にため息が返る。
「わし様には損はないが。万が一との事もある。──カルナ!」
 呼ばれて戸口にいたカルナがやってくる。
「おまえはこれを受けるべきだと思うか?」
 偽りを見抜く目で射抜かれて、俺は顔を上げた。見つめ返す。
「迂遠な手段だ。おまえに危害を加えるものではない」
「ならば、決定だな。わし様に貢ぐがいい。ビーマセーナ」
 満足げに笑うドゥリーヨダナから俺は表情を隠した。
 突然出されるようになった茶菓子に客はどこのものだと聞くだろう。見栄っ張りのこいつは必ず答える。
『ビーマからの貢物だ』と。
 それでいい。こいつの新しい交友関係に俺の影を刻めるなら。
「──しっかり試食してくれよ」
「せいぜい、わし様の舌を唸らせるものを持って来い!」
 大きく口を開けて笑うドゥリーヨダナに合わせて俺も笑った。
 


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