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雪成はす子
2024-12-24 01:08:23
2558文字
Public
🐧🐬
優しい嘘とジンジャーマンクッキー
🐧🐬
ノベロ軸というか『それは世界で一番の』の世界線での叔父屋敷時代のクリスマスの話
⚠匂わせ程度のモブ🐬要素があります
ちょっとでも特別なクリスマスにしたくて🐬が色々頑張ってしまった話です
無断転載・AI学習・コピペ・自作発言禁止Repost is prohibited
暖かな暖炉の炎が揺れるリビングで、蝋燭を灯した煌びやかなケーキがテーブルの中央に置かれている。
その周りにはローストチキンを始めとしたご馳走がテーブルの上に所狭しと並び、間に星が昇っていくような細かな泡を湛えたシャンパングラスが用意されていた。
沢山のご馳走を、俺の両親と、ペンギンの両親が囲んでいて、そして隣にはペンギンがいて。
―――
そんな、暖かで幸せで残酷な夢は、冷たい水の衝撃と共に唐突に終わった。
「ああ、目が覚めたのかい。なら後は自分でやりな」
と目が覚めた俺にぼろ布を投げてメイドは去っていく。
ぱちぱちと瞬きをし、それから今の自分の現状を把握して俺はゆっくりと起き上がった。体が軋んで悲鳴を上げたが、そんなものを構っている暇はなかった。
桶の中の冷たい水でぼろ布を絞り、体を拭いていく。勝手口の隅の、お世辞にも綺麗とは言い難いスペース。隙間から入る風は容赦なく俺の体を刺し、体温を奪っていく。それでも俺は、体をごしごしと擦った。最後に、後ろに手を回して中に出されたものを掻き出す。どろりと指を濡らすその感触に、俺はいつも泣きそうになった。
「
……
ふ
……
っ」
否、今日に限っては我慢できなかった。
気を失っていたとはいえ、何であんな夢なんか見たんだ。お父さんも、お母さんも、ペンギンのお母さんたちも、ペンギンも笑っている、そんな幸せな夢。
頬を伝う涙の感触だけが、酷く熱く感じた。それでも今日は、今日だけは、ペンギンの所に戻るまでに泣き止まないと。
今日だけはせめて、ペンギンと笑っていたい。その為に、俺は。
「
……
っう
……
」
それでも、涙は中々止まってくれそうになかった。
とても暖かくて幸せで、そして酷く残酷な夢は唐突に終わった。
扉の前で、俺はどうやら力尽きて気を失っていたらしい。ガタン、と窓が鳴らなかったら、俺はどうなっていただろうか。
シャチはまだ帰ってこない。窓の外では、相変わらず真っ白な雪が全ての視界を塞いでいる。
隙間だらけの屋根裏は、風が容赦なく入って来てとても寒い。
震える体を抱き締めて、俺はシャチの帰りを待った。
トン、トン、と軽い音が聞こえて、俺はがばりと起き上がる。
「シャチ!」
閂が外され、シャチが中に入って来た。
「ペンギン、起きてたんだ」
「ああ、それより中へ
……
って、手、凄く冷たいな」
「あ、うん。さっきまで水を触ってたから。それより、今日はいいものがあるんだ」
俺の手を払い、シャチはポケットの中を探る。
出てきたのは一本の蝋燭と、燭台。それからマッチの箱と、二つのジンジャーマンクッキー。
「
……
シャチ、これ」
「うん。叔父さんにね、今日はクリスマスだからペンギンと一緒に祝いたいって頼んでみたんだ。ケーキは貰えなかったけど、ジンジャーマンクッキーもさ、久しぶりの甘いものだから」
「シャチ!!」
嫌な予感がして、俺はシャチの肩を掴んだ。シャチは一瞬びっくりしたような顔をしたが、やがてくしゃりと笑った。
眉尻を下げて、まるで今にも泣き出しそうな、そんな笑顔で。
「
……
なんてね、嘘だよ。街で盗んできたんだ。宝石を盗むついでにさ」
それが嘘だなんて、聞かなくても分かっていた。シャチの肩は震えていて、それでもシャチは、無理矢理作った笑顔で俺にジンジャーマンクッキーを差し出す。
「久しぶりの甘いものだからさ。一緒に食べよ?」
「
……
ああ」
震える手で、俺はクッキーを受け取る。燭台に蝋燭を立て、しゅっとマッチを擦った。
ぽう、と橙色の明かりが灯る。その僅かな光の中、シャチの袖に隠れた手首に赤黒い縄の痕があるのを俺は見逃さなかった。ああ、と唇が戦慄く。
「ペンギン、歌おう?」
俺の手を握り、シャチはそう言ってまた笑った。シャチの震える唇が、たどたどしくクリスマスソングを歌う。たった一本の蝋燭の灯りを見つめながら、ゆっくりと揺れてリズムを取り、シャチは歌っていた。
たった一本の蝋燭。たったふたつのジンジャーマンクッキー。
たったそれだけの報酬と引き換えに、シャチは一体、何を差し出したのだろう。
今日という日を、少しでも特別な日にする為に。
ぐっと拳を握り、シャチに合わせて歌を歌う。シャチのように上手くは歌えないが、それでも俺が一緒に歌った事にシャチは喜んでいるようだった。
綺麗にアイシングがかかったジンジャーマンを齧る。甘い味とジンジャーのぴりっとした香りが香ばしいそれは俺の大好物である筈なのに、どういう訳か味がしなかった。
ただひたすらに塩辛い、涙の味しか感じない。
「
……
っく
……
」
噛み締めて、呑み込んで、俺はシャチの手を握り締めた。
手首に残る縄の痕はただ痛ましく、体にはもっと凄惨な痕が付いてるだろうと想像できた。
それでもシャチは笑っている。ジンジャーマンを齧って、幸せそうに笑っている。
「こんなに甘いの久しぶり
……
美味しいね」
蝋燭の灯を見つめて、シャチはうっとりと呟く。シャチの手を握り締めながら、俺はただ頷く事しかできなかった。
蝋燭の灯りに照らされて、シャチの頬を透明な雫が滑り落ちていく。けれど俺はあえて、その雫を見なかった事にした。そうしないと、シャチの笑顔がこの蠟燭の炎のようにふっと消えてしまうような気がしたから。
サクリとジンジャーマンを齧る。香ばしくて甘い筈のそれは、やはり塩辛い味しか感じない。
―――
それでも。
「
……
美味しいな。こんな甘くて美味しいの、久しぶりに食べた。ありがとな、シャチ」
シャチの優しい嘘を嘘のままにしたくなくて、俺はシャチの嘘に重ねるように塩辛い嘘の言葉を吐いた。
―――
良い子にしてたら、サンタさんが貴方の寝ている間にプレゼントを置いていってくれるわよ?
かつてそう言っていた母さんの言葉を思い出す。
けれど母さんはもういない。サンタさんも、もう悪い子になった俺たちの元には現れない。
シャチの優しい嘘に、更に噓を重ねるような俺の元には。
最後の一口を食べ終わる。指に溶けたアイシングを舐めると、びゅうと隙間風が大きく吹いた。
小さな蠟燭の炎はあっという間もなく揺らめき、ふっと消えていく。
後にはもう、暗闇しか残っていなかった。
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