mineml
2020-10-13 22:36:27
689文字
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作家限定KPレスシナリオ「未完成」現未×


 その少女の名前はエレーナといった。
 十は超えただろうか。ゆるく波打つ亜麻色の髪を、肩の下までふんわりと伸ばして、氷の河の色をした瞳は、けれど雪解けの日の暖かさを灯して世界を見つめている。濃紺の、慎ましやかなワンピースがよく似合う少女である。
 彼女は引っ込み思案で、心を許した人間の影からそっと顔を覗かせているようなところがあったが、そんな素振りから口にする言葉と言葉の取り合わせは、時に大人たちの目を丸くした。学校で友だちが使う言葉遣いとも、両親の買い与えたおとぎ話とも違って、世界の上にすうっともう一色、塗り重ねてみせるような言葉を持っていた。
 エレーナの家の玄関には、家族写真が飾られている。ほっそりとした父と、かっちりとした母。軍服を着た一番上の兄と、ワンピースドレスを着たその次の姉。そしてエレーナ。写真館で撮ったものだろう、全員が式典めいて背筋を伸ばしつつ、揃って理知の滲み出るような面差しには穏やかな微笑がそれぞれにあり、写真の中のエレーナも、それを写真立ての外から眺めるエレーナも満ち足りた少女の姿をしていた。
 家にほど近い森に出かけるのが、彼女の日課である。明るい日差しが梢から漏れてくる中で、小鳥の高い声を聞き、リスの走り去る姿を目で追い、季節ごとに変わっていく風のにおいを感じる日々である。小さなかごにベリーを摘めば、母がパイを焼いてくれた。ぽかりと開けた草地に咲いた花を摘めば、父や姉が押し花の方法を教えてくれた。ひとひらひとひら、クッキーの缶に増えていく季節の切片も彼女の宝物であったが、森と家を繋ぐ空気そのものが彼女の大事なものだった。