溶けかけ。
2024-12-24 00:01:01
937文字
Public ほぼ日刊
 

クリスマス前夜

サンタさんをフリーナ殿が信じている……!?
となって夢を壊さないように奔走しようとするヌヴィレットのお話


「サンタさん来ないかなぁ」
 フリーナの言葉にヌヴィレットは仕事の手を止める。
「フリーナ殿。サンタさん、とはサンタクロースのことであっているか?」
「そのサンタクロースだけど? 僕も人間になったからね。何か奇跡が起こってプレゼントを貰えるかもしれないだろ?」
 フリーナの瞳がきらきらと輝く。サンタクロースを信じきった様子の彼女に「サンタクロースは存在しない」などと言って夢を壊すのも忍びない。ヌヴィレットはフリーナに気づかれぬようにそっと息を吐き出すと思案する。
 そもそもサンタクロースとはクリスマスの夜に子どもたちにプレゼントを配る存在だ。つまり、ヌヴィレットが彼女の夢を壊さないようにするためには彼女に悟られずにプレゼントを届ける必要があるのだ。
 ────サンタクロースとはいえ、普通に家宅侵入罪では? 
 ヌヴィレットは実に現実的であった。ここで、彼女のサンタクロースになろうと言わない程度には理性的でもあった。
「フォンテーヌじゃ無理だけど、ホワイトクリスマスに憧れがあるんだ」
 はにかんだフリーナにヌヴィレットは雷が落ちたような衝撃を受けた。ホワイトクリスマス────雨季は気温が下がるとはいえ、市街地で雪が降るなどフォンテーヌでは地脈異常でもない限り、ほぼあり得ないと言って良いだろう。

「ヌヴィレットさんがこんな辛気臭い場所に来るなんて珍しいな」
 その日の午後、ヌヴィレットはリオセスリを訪ねていた。公爵の執務室に用意された応接用の机にはシグウィンが用意したカラフルなミルクセーキが二つ。
「ああ。実は君に用があったのだ」
 ヌヴィレットが神妙に頷く。常の彼からは感じない気迫にリオセスリは背筋を伸ばした。
「それは重要なことなのか?」
 もう一度ヌヴィレットが頷く。公爵はミルクセーキを避けて自らが用意した紅茶を一口啜って唇を湿らせた。
「ああ。とても重要なことだ……。リオセスリ殿、君は────」
 唾を飲み込む。彼が自分に個人的な用事で訪ねてくるのは珍しい。
「君は、雪を降らせることは出来るだろうか?」

 はあ? という素っ頓狂な公爵の声がメロピデ要塞に響き渡り、その日から数日間、囚人や看守たちの間で話題をさらうのだった。