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萌音
2024-12-23 20:48:35
4932文字
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Vivre ensemble
ヌヴィレット生誕祭のお話。
リオヌヴィwebオンリーのために書き下ろしました。
リオセスリ生誕祭とちょっと繋がっていたり、いなかったり。
リオセスリが突拍子もない行動に出てますが、単にお互いがお互いを好きなだけ。
「来月の18日と19日、予定を空けておいてくれるかい?」
18日は夜からで構わないから、と、先月の23日(正確にはすでに24日になっていた)にリオセスリはヌヴィレットに約束を取り付けた。その少し前までリオセスリに蕩かされ、甘やかされ、ぐずぐずになるまで愛されていたヌヴィレットは、リオセスリから受け取った想いとリオセスリへの想いでいっぱいの、よく回らない頭で、それでも二つ返事で承諾をした。
リオセスリの誕生日だったその日、彼を甘やかすのは自分の役目の筈だったのに、何故自分の方が散々に甘やかされたのだろうか?とぼんやりと思いながらも、心も胎の奥もリオセスリの愛でたっぷりと満たされたヌヴィレットは、リオセスリが指定してきた日に何か意図があるのかよくわからずにいた。それよりもその約束の日までひと月ばかり期間が空くことが気に掛かり、思わず言及したほどだった。
「予定は空けておくが
……
それは、次に君とこうして会う機会はその日までない、ということだろうか
……
?」
「ん?いや、そういうつもりじゃないんだが
……
」
「
……
そうか。良かった。次に会えるまでひと月も期間が空くのは、その
……
寂しく思う
……
」
「ーーッあんたって人は
……
!!」
そう苦々しい顔で呟き、葛藤するように頭をガシガシと掻いたリオセスリによって再びベッドに縫い止められてしまったヌヴィレットが、そういえば提示された日は自らの誕生日と定めた日であったと気づいたのは、またもリオセスリによってぐずぐずに蕩かされ散々に愛された後であった。
◆◆◆
そうして迎えた翌月、12月18日。誕生日とはいえ普段通り仕事であったヌヴィレットは、それでも優秀な部下や友人と呼ぶべき存在、愛おしい娘達から沢山の祝辞と贈り物を受け取り、いつもより少し賑やかな一日を過ごした。
同じく一日仕事だったリオセスリとは、彼の申し出通り、夜に落ち合った。
普段の逢瀬の場となることの多いヌヴィレットの私室ではなく、ヴァザーリ回廊の馴染みのカフェで待ち合わせをした二人は、ホテル・ドゥボールで特別なディナーを楽しんだ。リオセスリの完璧な根回しにより、ホテルではスタッフ以外の誰とも鉢合わせることなく、入店から食事、退店までを済ますことができた。
「リオセスリ殿。細やかな配慮、感謝する」
「今日はあんたが主役の日だからな。元々人気者な上に、誕生日となれば、どこに行っても声を掛けられるだろう?」
「確かに。ありがたいことに、今日は多くの人々から祝辞を受け取った」
「最高審判官様としてはその方がよっぽど良いが、今は俺だけのヌヴィレットさんだからな。誰にも邪魔されたくないっていう、単なる俺の我儘さ」
「ふむ
……
今日は少し賑やかな一日であった故、ゆっくりと君と食事を楽しむことができて嬉しかった」
「それならよかった」
二人は、ゆっくりと食後の散歩を楽しみながらフォンテーヌ廷を進む。
ホテルで食事をすると聞いた時から、てっきり今夜はホテルで共に過ごすのかと思っていたヌヴィレットは、しかし食事を済ませるとホテルから出ようとするリオセスリに、自身の浅はかな考えを恥じた。自分はなんと即物的なのだろうか。明日は二人とも丸一日休みを取っていて、それはつまり枕を共にするということなのだと、これまでのリオセスリとの付き合いでようやっとヌヴィレットもわかってきた。しかしいくらリオセスリもそのつもりであったとしても、流石に食事をしたホテルでそのままそう言った流れになることはないだろう。そもそも食事を摂るにしても他の客とまったく鉢合わせないように配慮する用心深いリオセスリである。ますます、そんなはずがないだろうと、ヌヴィレットは己の強欲さに居た堪れなくなった。
しかし、リオセスリにーー大切な番に愛される喜びを知ってしまったヌヴィレットは、やはりその喜びを享受したいと望んでしまうのだった。公平無私が聞いて呆れる、とヌヴィレットは小さくため息を吐いた。
「ヌヴィレットさん」
そうリオセスリに声を掛けられ、ヌヴィレットは足を止める。気付けば中心地を少し外れ、貴族や資産家達の邸宅が建ち並ぶエリアへまで足を運んでいた。ちょうど目の前には、青と白を基調とした、シンプルだがセンスの良さが窺える家屋が建っていた。
ヌヴィレットは状況がよく飲み込めなかった。今夜は二人、共に過ごすことに間違いはないと思うが、ではどこで過ごすというのだろう。ヌヴィレットの私室はパレメルモニアの上層階にある。引き返せる距離ではあるが、ではなぜここまで足を運んで来たのか。この近くに一夜を明かせる伝でもあるのか。いや、それこそ先ほどのホテルと同じだ。リオセスリ程の用心深い人間が、いくら伝があったとて自身のテリトリー以外で最も弱みを曝け出すような行為に到るとは考え難い。
そういえば以前私邸を持たないのか、と元水神の少女から何度か話を持ち掛けられたことがあった、とヌヴィレットは思い出した。その際に何度かこの住宅エリアを視察に訪れたが、結局のところ利便性を優先し、パレメルモニアに私室を構えてもう何百年も経つ。
「リオセスリ殿?何故このようなところに
……
」
「あんたに渡したいものがあるんだ」
リオセスリはヌヴィレットの疑問に答える様子もなく(そもそもつもりがないのかもしれない)、そう言うと、何かを取り出す。そして取り出したのと反対の手でヌヴィレットの手を取ると、掌を上に向けるよう促し、そこにちょこんとその何かを乗せた。
「
……
ふむ。随分とかわいらしいものだな」
それは、鮫を模した拳大程のマスコットだった。
「もしやこれは
……
!君をモチーフにしているのかね?」
その鮫のマスコットは大きく口を開いていて、その口の中にデフォルメされた人の顔と思しきものがあしらわれていた。よく見るとその顔は青い目で目の下に傷があり、ふわふわとした黒い犬のような特徴的な髪型をしていた。ヌヴィレットは、それがリオセスリの顔を模したものだとすぐに理解した。
「ふふ。この愛らしい顔、凛々しい眉、君にそっくりだ」
「そんなに似てるかい?」
「ああ。とてもよく似ている」
ヌヴィレットはリオセスリに似たそのマスコットを、大事そうに胸元で抱えた。リオセスリがまさかこのような可愛らしいもの、しかも自身に似せて作られたものを贈ってくるとは思わず、ヌヴィレットは微笑ましいような、温かいような、やはり愛する番を思わせるものが手元にあるのは嬉しいような、そんな気持ちになった。
「ありがとう、リオセスリ殿。大切にする。会えぬ日々もこのこを君と思い、話しかけ
……
」
「残念ながらそいつは俺からじゃなく、看護師長からのプレゼントさ」
「シグウィンが?ああ、あの子はなんと心根が優しく、私の気持ちを理解し、君の愛らしい特徴を捉えた上で非常に完成度の高い代物を
……
」
「わかった、わかった。それはまた看護師長に伝えてやってくれ。本題はそこじゃない」
「というと?」
「俺が贈りたいのは、それの先に付いてるものだ」
そう言ってリオセスリはマスコットの頭の部分についているチェーンを示した。
「鍵?」
言われるがままにヌヴィレットがチェーンの先を辿ると、そこには細やかな装飾が施された、一本の鍵が繋がれていた。
「一体何の
……
」
「俺達の家さ」
「俺、達?」
ヌヴィレットはまたも状況が飲み込めなかった。一体全体、リオセスリ殿は何を宣っているのだろうか。
「何の話かね?」
「あんた、俺の誕生日にこう言ってくれたよな?ただ俺と共に過ごすことができれば、何もいらないって」
「ああ、そうであったな。確かに私は、君が居てくれれば何も要らないと、思っている」
「そして俺もそうだ、と言った。あんたと過ごすことができれば、何も要らないって」
「ああ。あの時は、君と同じ気持ちであったことが嬉しかった」
「だから、それを実現しようと思ってな」
ヌヴィレットはやはり理解が及ばなかった。確かに、リオセスリが居れば他に何も要らないとは言った。間違いなく、本心である。即物的な考えもしてしまったが、それは詰まるところ、リオセスリと共に過ごすということを望んでいるからなのだ。
「ふ、む
……
?それがどうして私達の家?になるのだ
……
?」
しかし、だからと言ってそれがなにゆえ家に繋がるのかがわからなかった。そもそも彼も持ち家など所有していなかったはずだが。
「いつもあんたの私室で過ごすことが多いだろう?要塞にあんたを呼びつけるのはあまり良い気はしないし、正直あんたの私室に入るのを許されているのが俺だけだというのも気分が良い。利便性も考えたら、確かにヌヴィレットさんの私室で過ごすのが一番良いんだろう」
あと安全面なんかもな、とリオセスリは付け加える。
「だが、やはりそれだとあんたの部屋を間借りしているというか
……
仮、のような気がしてな」
「ふむ」
「これは単なる俺の我儘なんだが
……
二人で、本当に、ただ二人で過ごせる場所があれば良いなと思ったんだ」
「うむ
……
」
「だから、ヌヴィレットさん。俺の時間と、この家をあんたに贈るよ」
「
……
」
リオセスリの言葉に、ヌヴィレットは押し黙ってしまう。
「ヌヴィレットさん?」
もしかして、気に障ったのだろうか。ただ共に過ごすことができれば何も要らないという、殺し文句のような言葉に舞い上がっていたのは、よもや自分だけだったのだろうか。しかし彼の性質上、嘘や方便を言うのは難しいだろう。返事がないヌヴィレットの様子を窺うように、リオセスリはヌヴィレットの顔を覗き込む。
ヌヴィレットの表情を見たリオセスリは、自分の考えが杞憂であったことを悟った。ヌヴィレットは耳まで真っ赤に染め、緩みそうになる頬をどうにか引き締めている、と言った様子だった。嫌がられているわけではなさそうだ。かわいいな、とリオセスリは思う。
「つまり、それは、一緒に住まないか、ということだろうか」
「あんたさえ良ければ、いずれはそうしたいと思ってる。まあ、実際問題、俺もあまり要塞を離れられないからな。しばらくは二人が休みの時に一緒に過ごす場所っていう位置付けにはなるが」
「
……
リオセスリ殿」
「うん?」
「私は、君の誕生日に何も用意をすることができなかったのに
……
このようなものを受け取ってしまっては
……
その、君から貰いすぎではないだろうか
……
?」
ヌヴィレットの生真面目さに、リオセスリは喉をくっくっと鳴らしながら笑った。
「それはもう良いって。あんたと過ごすことができれば他に何も要らないって言っただろ?」
「だが
……
」
「そこまで言うのなら、とにもかくにもこの鍵を受け取って、一緒に家に入ってないかい?そうしたら、ただ二人で過ごしたいっていう俺の望みが進行形で叶えれることになる」
「ふふっ。それでは私の望みも叶えられてしまう」
「良いんだよ。今日はあんたの誕生日なんだから」
「こんな贅沢、許されるのだろうか
……
自堕落の渦に陥ってしまいそうだ」
嬉しそうに頬を緩めつつも、尚も気にする様子のヌヴィレット。リオセスリはその肩を抱くと、邸宅の門を開けた。
「ははっ。真面目なあんたが自堕落になるところを見てみたいもんだな」
「それでは君に愛想を尽かされるのではないだろうか」
「まさか。むしろもっと好きになって、ますます離してやれなくなるぞ?」
「それはこちらの台詞だ。こんなに君に愛され、甘やかされてしまっては、君を手放すことができなくなってしまう」
いずれは覚悟を決めなくてはならないのにな、と言いながら、ヌヴィレットはリオセスリの肩に頭を預けた。
そもそもあんたに貰った命の時間なんだから、あんたが好きにしてくれて良いんだよ、というリオセスリの呟きは、ヌヴィレットの耳には届かなかった。
「さあ、早く中に入ろう。ひとまず明日の夜までは二人とも自由に使える時間なんだ。誰にも邪魔されずに、二人で過ごそう」
fin.
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