kaede
2024-12-23 12:50:54
5089文字
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一彩くんにクリスマスプレゼントを贈りたい燐音くんのはなし

天城兄弟(燐一未満)
⚠️燐音くん:弟を溺愛しすぎている
⚠️友情出演:クレビのみなさん

「はーいおめェら、燐音くんに注目!」
 パンパンとわざとらしく手を叩くと、二人は一応、食事の手を止めてはくれた、残りの一人はまァ、最初から期待しちゃいねェから放っておくとして。
「弟くんへのクリスマスプレゼントは何がいいと思うよ。はい、こはくちゃん!」
……突然やな。つうかそんなん、実の兄はんの燐音はんが一番よう知っとるんやないの」
 わかんねェから訊いてンだろ。わかってねェな。
 と、素直に言うのも負けを認めたようで癪なので、自分の仕事は終わったとばかりに焼き魚をつつきに戻ったこはくちゃんには早々に見切りをつけて、次を指名する。
「じゃあ、次! メルメル!」
…………本人に直接訊くのが一番良いのでは?」
 今、一瞬無視しようとしただろ。でもおめェも俺っちと同じ属性だもんなァ。めんどくせェって顔を隠しもしない割にお兄ちゃんの立場に寄り添ってくれてサンキューな。だが、まだまだ俺の弟のことをわかっちゃいねェ。
「あの弟くんが素直に言うわけねェだろ。いや、根は素直で超がつくほど良い子なんだけどよ、自己主張が下手っつーか自分の要求は通したがらねェっつーか、まァそりゃそういう教育されてきたからであいつには何の責任もないし責任はむしろ俺っちにあるんだけどよ、だからっつーか何つーか、自分のことは雑に扱っていいって思ってる節があってよ、欲求が希薄なんだよなァ」
「どんだけしゃべんねん」
 さすが関西人。ツッコミを入れずにはいられないってかァ?
 でも、こんなのまだまだ序の口なんだよなァ。俺っちが本気を出せばまだあと十分は余裕でしゃべれ
「え? でも僕が訊いたら、クリスマスのクッキーがほしいって言われましたけど?」
 ……は?
「だから、ツリーとか星とかのアイシングをしたクッキーをつくってあげようかな〜って」
「おいニキてめェ、世の中にはなァ、言っていい冗談と言っちゃなンねぇ冗談があンだよ。そしててめェのは後者だ」
 何、パスタ吸い込みながら、弟さん微笑ましい〜って顔で笑ってんだニキくんこの野郎。
 俺がちっとばかしかわいがってやろうと伸ばした手を、ニキのくせにひょいと避けながら、ニキが叫ぶ。
「冗談じゃないっす本当っすよ! 鶏とかケーキとか、もっと豪勢なものをねだったっていいのに、そういうところは控え目っすよね〜弟さん」
 おうニキくんこの世に未練はねェか? ねェな。今すぐ楽にしてやンよ。
「椎名は料理と、迂闊かつ余計な発言だけは上手ですね」
「何気にひどいこと言ってません!? HiMERUくん!」
「少しは状況を把握……一彩さんは自分から、椎名にプレゼントを要求したのですか?」
 めんどくさくなって話題を変えたな、メルメル。
「いやいや、部屋でクリスマスプレゼントをもらうなら何がいいかー、って話になって。弟さんのことだから、思いつかない、とか言うかと思ってたら珍しく具体的に言うんで、びっくりはしたんすけどね」
……だそうですよ、天城。一度、本人に訊いてみたらどうですか?」
「せやな。あれこれ悩んで的外れなもん贈ってもしゃあないし、どうせなら本人が喜ぶもん贈った方がお互い後腐れないんとちゃう?」
「弟さん、今日は特に用事はないはずなんで、夕方には学校からまっすぐ帰ってきますよ」
「一彩のことなら全部知ってますマウントか? あァ!?」
「ぐえーーー!!」

 ***

「あー、えーっと」
 訊きたいことは決まりきってるのに、何て切り出しゃいいのかわかんねェ、なんて二の足を踏んでいる自分がなんともダサい。

 ニキに断りを入れた上でしばらく帰ってくんなと追い出し……人払いして一彩の帰りを待っていたわけなんだが。まさか……と言うより当然と言うべきだろう。俺がいるとはミリも思ってなかった一彩は大層驚いていた。そして驚いた顔を秒で天使の笑顔に変えて、大層喜んでくれた。犬だったらブンブン振った尻尾がどっかに飛んでいくくらいに。
 なんかもう、それだけでここへ来た目的は充分果たした気になっちまったが、それで本来の目的をすっかり忘れちまえるような頭の構造はしてなかったんで、一彩が着替えるのを待って、改めて二人、ソファに並んで座った。

 それで、今に至るわけなんだが。
 ある程度進んだ会話の流れで尋ねることはあんなに気軽にできるのに、こう、改まって訊く時っつーのは妙に躊躇っちまうんだよな。相手の出方がわかんねェから一手目を打つのに慎重になるっつーか。
 だが、俺が打たねェと勝負は始まらねェ。
……クリスマス、なんだけどよ」
「ウム。クリスマスは二十五日だよ。前日はイブ、その前はイブイブと言うらしい」
 こらこら誰でも知ってる知識をドヤ顔で披露すんじゃねェよかわいいなオイ。
 まァ、そうだな。と賢い弟の頭をぽんぽん撫でて、この流れならいける、と特に根拠はないが感覚的にそう思ったんで、チャンスを逃さず口にした。
「弟くんはクリスマスプレゼントに何がほしいよ」
……そうだね。パチンコの景品のお菓子が欲しいな」
 
 は?

……は?」
「だから、パチンコの景品のお菓子が」
「いやいや、そんなのプレゼントになんねェだろ!」

 え? もしかしてお兄ちゃん、弟にプレゼントを買うお金もねェくらい素寒貧だって思われてる?
 そんなお兄ちゃんに金品を要求するなんてできねェって気遣われてる?
 最初から全然期待されてねェってこと?
 一彩?
 一彩!

「それだとプレゼントに当たらないんだね。困ったな……あっ、それなら、兄さんのグッズを買ってくるから、そこにサインをもらえるだろうか」
「いやそこは普通にサインくれ、でいいんじゃね? っつか、最初から持ってるモンならともかく、わざわざ自分で買ったらプレゼントになんねェだろ」
「確かに」
 何、純度100%の顔で納得してンだ。藍ちゃんじゃあるまいし、直筆サインが欲しいなんて思ってもないくせによ。
 それなら、欲しいものは特にないとか言われた方がマシだった……ん?
 もしかしてそういうことか?

「あー、じゃあ、質問変えるわ。サンタさんに何をお願いする? サンタさんはいない、っていうド正論はナシな。お前の望みを何でも叶えてくれる爺さんがいると仮定して、答えろ」
「え……。ええと、あの……
 俺の質問に一彩は、なり損ないの言葉のかけらを撒き散らかすだけで、具体的なことは何一つ言わない。
 予想外の質問にうろたえているのが容易に見て取れた。
 
「一彩」

 俺が名前を呼んだだけで、衝撃に備えるよう身を固くした一彩を見て、推測が確信に変わる。

「お前、本当は欲しいものなんて、ないんじゃねェか?」

 一彩は何も言わなかった。だが、それはイエスと答えているのと同じだ。違うなら、すぐに否定すればいいだけなんだから。
 ダンマリかよ、と責める気にはなれなかったのは、俺がこいつのお兄ちゃんだから、なんだろう。
 お兄ちゃんっつー生き物は基本的に、弟には勝てないようにできてンだよ。
 怒っているのでも、責めているのでもない。と口に出すのはこの場合、悪手だ。お前の行動にはそう思わせる要素があると断定するのと同じなんだから。
 だから、一彩の肩を優しく抱き寄せた。こうすれば、俺は言いたくないことを言わなくて済むし、一彩も聞きたくないことを聞かなくて済む。その上、一彩は安心できるし俺はかわいい弟のかわいさを存分に浴びることができて、良いことづくめじゃねェか。

……この間、クラスでクリスマスの話題になってね」
 ぽつぽつと一彩が話し始める。普段の張りの良さがすっかりなりを潜めてしまっている、精彩を欠いた弟の声につい庇護欲が湧いてしまうのも、まァ、お兄ちゃんの性分ってやつなんだろう。小さい頃よくしてやったみたいに、ぽんぽんと背中を軽く叩くと、一彩の身体から無駄な力が抜けたのが手のひらに伝わった。
「プレゼントをもらうなら何がいいか、と訊かれて、特に欲しいものはないって、そう答えたんだ。そうしたら、何かあるだろう、何でもいいんだ、と言われてしまって……欲しいものがないのは正しくないのかな、ちゃんと答えるのが正しいのかな、って。そう思って……
「だから、質問した相手から贈られる可能性も考慮に入れた、過度な負担がかからないものを挙げた、ってワケか」
「その通りだよ。兄さんには全部お見通しだね」
 一彩がうっすらと笑う。
 どうするのが正解だったのかわからない、とでも言いたげな顔をして。
……まァ、それが悪いとは言わねェけどよ。そういうのはうまくやらねェと、相手によっちゃ雑に扱われてるって感じることもあるからよ」
 俺みてェに。
「だから、ないならないって、素直に言えばいいンだよ」
……それでいいのかな」
「おうよ」
 リップサービスで人心を掴むなんざ、おめェには一番縁遠いテクニックだろ。
 そんな純粋な眼差しで頼るようにお兄ちゃんを見上げるかわいこちゃんにはよ。
「それで納得するかどうか、納得できないならどうするかは訊いたやつが決めることであって、おめェが嘘ついて本心を捻じ曲げてまで関与することじゃねェだろ」
 おめェが何もいらないっつっても、俺は勝手に贈るしよ。
 一彩は黙って俯いていた。落ち込んでいるわけではなくて、多分、俺の言葉を噛み砕いてるんだろう。だが、さすが賢いだけのことはある。すぐに理解できたようだった。
「嘘をついたつもりはなかったけれど……でも、僕はとても失礼なことをしていたんだね。あとで椎名さんに謝るよ」
「まァ、謝るほどのことでもねェとは思うけどよ」
 この口ぶりだと被害者(?)はニキだけらしいし。ニキだって悪い気はしてなかったどころか張り切ってたしよ。
「お前が納得できるならそうすりゃいいんじゃね?」
「ウム。だから、まずは兄さんに謝るね。ごめんなさい」
「いや、まあ、いいって。しっかし、欲しいもんがないのは困ったなァ……いや、そんな顔すんなって。お前に喜んでほしいのに、何贈りゃいいんだ、ってなっただけだからよ」
 ぽん、と頭に手を置くと、俺の熱が伝わるくらいの時間を置いて、一彩が笑った。
 昔から変わらない、俺への愛情丸出しのあどけない顔をして。
 俺も愛してるよ、一彩。

「パチンコの景品でも僕はとても嬉しい、というのは嘘ではないよ」
「そこはよォ、相手はお兄ちゃんなンだからよ、弟らしくもっとわがまま放題に欲張れよ」
「だって、僕は兄さんさえいれば、他には何もいらないもの」
……ンだよ。ちゃんと欲しいもん、あるじゃねェか」
「え?」

 ***

「っつーわけでェ、弟くんへのプレゼントは、お兄ちゃんに決定しましたァ!」
「一彩はん、かわいそうに……
 新規開拓したくて入ったらしい店の和菓子を頬張るこはくちゃんに、すかさずツッコミを入れる。
「いやいや、弟くんのリクエストなんだって!」
「さよけ。……ん、この店、大当たりやわ」
「そんなにおいしいんすか? あとでお店の場所、教えてくださいっす!」
「HiMERUにもお願いします」
「おーいおめェら、俺っちの話、聞いてる?」
「聞いてますよ。一彩さんが納得してるならそれでいいですが、やはりプレゼントは用意しておくべきとHiMERUは思います」
 おお、俺っちもそれは考えてたンだよ。さすがは我が心の友よ! 以心伝心じゃねェか!
「そこはあとで相談に乗ってくれるよな、メルメル♡」
「なぜHiMERUが……まあ、アドバイスくらいなら構いませんが」
 渋々、という顔はしているが、こいつは基本的に世話好きなんだよなァ。やっぱお兄ちゃんだからか? 俺も、自分で言うのも何だが面倒見はいい方だと思うしよ。
 ともかくまァこれで、プレゼントの懸念はなくなったワケだ。
 あとは。
「イブは仕事、クリスマスは先約があるとかでイブイブデートになっちまったが、まあ仕方ないっしょ」
 ちっと格好はつかねェが、そこはお兄ちゃんの愛でカバーする……
「あー、クリスマスは僕とひなたくんとでクリスマスパーティーするんすよ」
……あァ?」
……そろそろHiMERUは失礼しますね」
「わしもおいとまするわ。あとは二人で仲良うしとってや」
「ぐえーーー!!」


 一彩、お兄ちゃんが最高のクリスマス(イブイブ)にしてやるから、楽しみにしてろよォ!