三毛田
2024-12-22 21:56:47
3333文字
Public アドベント24
 

22 02. 曖昧な

22
好意だと知っているけれど

 これって、なんだろうか。
 初めて知る感情に、戸惑いばかりが強くなって。
 漫画やゲームで見かけた描写に近いと、それとすぐに結びつかなかったのは、抱いたものがすごく曖昧だったから。
「丹恒。暇だ〜」
「そうか。なら、パムを手伝ってくればいい」
「そうだけどそうじゃないんだってば」
 男心というか、俺心がわかっていないな、丹恒は。
「お前の言動は、時折理解不能だ」
「無理に理解してほしいわけじゃないんだけどな」
「なるほど」
「でも」
「でも?」
「丹恒が好きってのは、間違いない。丹恒も、俺のこと好きだろう?」
「それは、まあ」
 歯切れが悪い返事だ。
 パム、なの、ヨウおじちゃん、姫子。皆のことも好きだ。
 でも、その好きと丹恒に抱いている好きってちょっと違うんだよ。
「丹恒」
「わからないのなら、その原因を突き止めれば」
「理由は何となくわかってる。でも、確証がない」
「それは……
 恋愛感情って、そういうものなのなんだろう。
 うん。
 丹恒相手にだけ抱いている〝好き〟は、恋愛感情だ。
 彼の特別になりたいし、俺を特別に扱って欲しい。
 独占欲と、わがままと。色々な感情が混ざり合って、自分でもよくわからないことになってる。
「穹、大丈夫か」
「頭使いすぎて痛くなってきた……
「それなら、少し休め。布団で寝転がっていろ」
「お邪魔します」
 と、上着と靴を脱いで丹恒の布団に寝転がり。
 本当に、丹恒は俺に甘くて優しい。
 それが、仲間として、己よりも年下の相手を庇護する存在として見ているのだという理解は、何となくだけどしていて。
 嬉しいと、ちょっと前ならば素直に喜べた。
 今は駄目だ。彼を恋愛対象として見てしまった俺では。
 嬉しい気持ちはある。でも、それだけじゃ物足りない。
……
 だからなのだろう。
 変な夢を見た。
 列車の中。ラウンジ。
 資料室にいる丹恒が、この時はラウンジにいて。
『穹。ほら』
 俺が近寄ると、彼は呼んでいた本を閉じて微笑みを浮かべて太ももを叩き。
 特に膝枕をしてくれとも言っていないけれど、してくれるようなので厚意に甘えた。
 本を読みながら、時折俺の頭を撫でてくれて。
『穹』
 ふと名前を呼ばれてそちらへ視線を向けると、キスされた。
……いや、欲望出すぎじゃん」
「穹。起きたのか」
「おはよー」
 伸びをして、それから大きく欠伸もして。
「大きな欠伸だな」
「駄目?」
「いいや。寝起きだからな」
 手が伸びてきて、俺の目元に触れ。そっと欠伸で出た涙をぬぐう。
 ドキッとした。
「穹?」
「ううん。丹恒、アーカイブの整理は終わった?」
「ああ。今日のノルマは、終わった」
「じゃあ、ボードゲームしない?」
「構わない」
「今日こそ、丹恒を負かす!」
「お手並み拝見といこうか」
 ふっと楽しそうに笑い、二人でパーティー車両へ。
 ジュースを飲みつつ、ボードゲームにいそしむ。
「ぐわ~!」
 あと一歩追いつかなかった。
「惜しかったな。いいところまでいっていた」
 そう告げながら、パム特製のジャーキーを口へ持っていき。
「む。美味いな」
「それはよかったな~」
「怒っているのか?」
 嬉しそうにしている姿を見るのは好きだけど、俺に勝ってそれだからちょっとだけムッとなってしまう。
「いいところまでいったのだから、もう少し頑張れば俺にも勝てるはずだ」
「なのには勝てるんだけどなぁ」
「俺が見ている限りでは、五分五分のように思えるんだが」
「俺の方が勝率が高いもん!」
 唇曲げながら告げると、まるで子供を見守るような表情になって。
 そういうところ、意外と好きなんだけどなぁ。
「それなら、三月を完封できるように俺が手ほどきしてやろう」
「うーん……
「上手くいけば、俺に勝てる回数も増えていくだろうな」
「ぐぬぬぬ……
 それはそれで、とても魅了的なお誘いだ。丹恒と一緒にいる時間も増えるし。
「考えておく」
「そうか」
 と答えたところで、丹恒は眉間を押さえて少し下を向いて。
「どうした?」
「多分眼精疲労だ。ずっとアーカイブを見ていたからな」
「じゃあ、一緒にお風呂入ろう」
「しかし」
「お風呂の中でマッサージしてあげるし、出てからでもマッサージするよ」
……ああ、頼んだ」
 ボードゲームを片付け、飲み物のグラスも返却して二階へ。
「色々あるんだな」
「どの効能がいいのかわからなくってさ。ふわふわになるのもあるし、サラサラになるのもある。丹恒にはこれがおすすめかな! 俺が洗ってあげるから、丹恒は椅子に座ってじっとしてて」
 折り畳み風呂椅子を設置して、そこに若干躊躇っている丹恒を座らせる。
「シャワーかけまーす」
「ああ」
 宣言してから、お湯をかけ。
 頭皮の汚れを落としてから、手にシャンプーを出して軽く泡立ててから、マッサージしながら洗っていく。
「ん……
「結構気持ちいいでしょ」
「ああ。お前の指先が、気持ちいい」
 そう言ってもらえると、結構嬉しい。
 いつか丹恒の髪をこうして洗うのを夢見ていたから、嬉しくてこのまま抱き着きたい気持ちになる。
……
「丹恒?」
 目をつぶって、深呼吸している。ってわけじゃない、胸の上下の仕方は一定。ちょっと力が抜けていて。
「丹恒、寝てる?」
……寝ていない」
「寝てたでしょ」
「いや。寝てない」
「シャンプー中はいいけど、お風呂で寝ないでよ」
「ああ」
 シャンプーを洗い流したら、丁寧にコンディショナーをなじませて。
「穹。体は自分で洗う」
「駄目。丹恒って、ずぼらだろ? 俺が丁寧に洗わらせてもらいます」
 俺に洗われたくないと暴れようとしたが、先に俺が肩を上から押さえつけたので諦めたように力を抜く。
「ふんふんふん~」
「ご機嫌だな」
「まあね~。丹恒の肌って、すべすべだな」
「そうなのか?」
「俺はそうだと思う。はい、じゃあ前に失礼して」
「し、下は自分で洗うっ」
 と、俺の手からスポンジを奪って。まあ、俺も無理強いしたいわけじゃないからな。
 丹恒が洗っている間に、俺も髪を洗う。
 今日は、丹恒とお揃いの艶ふわ仕立てのシャンプー。
 ちゃんとシャンプーを洗い流して、コンディショナーをなじませて。
 コンディショナーのいい匂いが、丹恒から漂ってくる。
 ヤバい。
 下半身にダイレクトに来る。
「穹。洗い終えたんだがこのスポンジは」
「とりあえず、受け取る。コンディショナー、洗い流すね」
「頼んだ」
 そっと、優しく髪からコンディショナーを洗い流し。
 シャワーヘッドを渡すと、立ち上がって体の泡を洗い流して。
「どうした」
 全身を洗い流し、体の水を軽く払ってから俺を見ながら問いかけ。
「丹恒って、細いのに筋肉はしっかりついてるなって」
「そうか?」
「うん」
 と答えたけど、本当は下半身に視線が行っちゃったことは内緒。
 ちゃんとついてるんだと思ってしまった。口にしたら怒られそうだから、何も言わない。
「入浴剤は適当に置いてあるから、好きなの入れて」
「入れた方がいいのだろうか」
「入れると、リラックスできるから」
「なるほど」
 丹恒には感情に訴えるより、理路整然と伝えた方がいいのだ。
 口で勝てるとは思っていないから、常識的な範囲で、一般的な観点で見たことを伝える。
 ちょっと真剣にどれにしようか悩んでいる姿は、可愛らしい。
 そう思うのは、やっぱり俺が彼を好きだからなのだろう。
 抱いた瞬間は曖昧な感情だったとしても、いずれ一つの結末にたどり着くのであれば。
「穹。これにした」
「じゃあ、軽くかき混ぜて」
「わかった」
 丹恒は空の袋を見せてくる。ので、軽く混ぜてくれと頼み。
 深呼吸して色々な感情を落ち着けて、体を洗っていく。
「丹恒、熱浮羊乳冷やしたのあるから飲もう~」
 体を軽く拭いて、冷蔵庫からとってきた熱浮羊乳を手渡す。冷やすと意味ないって言われそうだけど、冷やしても意外と美味いのだ。
「ありがとう穹」
「どういたしまして」