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い
2024-12-22 18:35:31
1399文字
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あなたの前に全てが平伏す
万理さん夢/夢主名前あり注意
「雪が降ったら雪だるまとか作りたいなあ」
「あはは、いいね、そんなの十年ぶりくらいかも」
「そんなに? わたし雪が降ると必ず作るよ。手袋もせず一人で作ってたら、もうご飯できるよって呆れた声で呼ばれたりして」
「いつきちゃんそういうの好きだよね。夏は花火したいって言ってたし」
「え、そうかな、確かにそうかも
……
子供っぽい?」
「いいと思うよ。春は? お花見とかする?」
「お花見は虫がなあ
……
」
「あー
……
そうだね、俺もそれを考えるとベランダくらいでいいかも
……
」
「あ、でも、川に行きたい。桜並木が近くにあるような
……
それで、散った桜の花びらが流れていくのを眺める」
「へえ
……
気にしたことなかったけど、綺麗そう」
冬を越えた先にあるあたたかな季節を想像することは、わたしにとって本来苦痛を伴うものだった。肺に取り込まれる空気の冷たさ、どこか寂れたような乾いた感覚、吐く息の白さ、視界を染めるグレーがかった青い世界。歩く道から花や緑が失われ、生き物が眠りにつく冬という季節が、わたしは好きだ。春の訪れはいつだって憂鬱で、秋になるとようやく冬が近付いてくることにほっとしていた。
眠りにつけない夜、一人でじっと布団の中で息を潜めていることは耐えられた。身体の奥底から溢れてくる不安と焦燥感が決壊するのは、いつもカーテンの隙間から光が差し込み、朝日が昇ってきた瞬間だ。近くの家から目覚ましやテレビの音が聞こえ始め、外から自転車のベルや、犬の泣き声が聞こえてくる、わたしから失われた一日の始まりの合図。明けない朝はないだとか、やまない雨はないだとか、よく語られる苦しみや悲しみの終わりとされる表現は、わたしにとって絶望の確認でしかなかった。
けれど、もう、そうではない。隣を歩く万理さんの冷えて赤くなった鼻先や、マフラーに沈められた口元、繋いだ手の温かさ。そのひとつひとつに宿るわたしにとって揺るぎのない熱が、他の全てものの意味を失わせ、無価値にする。この身を蝕んでいたはずの諦念や憤懣が信じ難いほど簡単に薄くなり、軽くなる。だから今のわたしは、大好きな冬を謳歌しながら、それでも楽しみに春を待てる。
万理さんの優しく落ち着いた笑顔は見る者に安心を与え、穏やかな物腰は達観した大人の振る舞いとして映るだろう。それは足跡ひとつない雪景色がまるで作り物のような美しさをしているのと同じだ。そのことに気がついてしまっているからこそ、もう静謐な世界を見て満足するだけではいられなかった。
わたしは雪が溶けて水と土が混ざり合った濁った地面が見えてきたときだって、綺麗だったねと言って二人で転ばないように長靴を履いて歩きたいのだ。溶け始めている雪だるまの残骸を見て、来年も一緒に作ろうねと約束したい。
わたしが夜明けを、冬の終わりを恐ろしく思わなくなれたのと同じように、万理さんにも同じだけの幸福を与えたいと、願う。いくらそれがわたしのエゴで、独り善がりな望みでしかなかったとしても。
万理さんはわたしのことを良い子だって言ってくれるけど、本当はとても頑固で我儘な人間なんだ。そんなこと万理さんだってもうとっくにわかっているでしょう、と心の内で勝負を挑むみたいに思う。
わたしは身勝手に、わたしのやり方で、あなたがもっと衒いなく笑えるように、してみせる。
「綺麗だよ。だから、一緒に行こうね」
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