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い
2024-12-22 18:27:49
1531文字
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ガラスの靴は自分で作れ
万理さん夢/ホストパロ
うるさい場所は嫌いだ。
人混みも嫌いだし、好きでもない相手とするセックスも、興味のない人間から向けられる好意も、場を円滑に回すためだけの会話も、全て等しく不快で、けれどここにあるきらびやかな光と狂騒はわたしの目を焼くには十分だったという、ただそれだけの話だった。
わたしはわたしの全てをなげうって、何度だってわたしにガラスの靴を履かせてくれる人に会いに行く。あの人がわたしだけの王子様じゃないことなんてとっくに知っているからこそ、わたしがあなただけのお姫様なんだってことを繰り返し伝えに行くのだ。
『かっこよくて優しいバンさんのこと、毎日もーっと好きになってます♡ 出会ってくれてありがとう、世界で一番大好きだよ♡』
よいちょーと可もなく不可もなくマイクを終わらせると同時に地響きのようなコールが起こる。隣に座るバンさんがわたしの肩を抱き、微笑んだ。それからわたしの目を見つめ、視界にバンさんしか映らなくなるほど顔が近付く。
「俺もこうして出会えて、世界で一番幸せだと思ってるよ。だから、もっと好きになってね」
マイクを通さないウィスパーボイスが、わたしの鼓膜に直接響かされた。そして次の瞬間、少しだけ照れたように笑う。
被りに見えない角度で、わたしにだけに見せる表情があることが、どんなに度数の強いアルコールよりわたしの神経細胞を麻痺させる。この〇.一秒のためだけに生きてるって、実感できる。
バンさんがアイドルとか俳優とかでなくて良かったと心底思う。どれだけお金を注ぎ込んでもたったの数秒の握手やお話しかできないステージにこの人がいたら、ただの一般人として、恋とか愛とかそういう目に見えないものがなければ触れ合えない相手だったら、わたしは到底耐えられなかった。
この世界でならば、食べ切ったお菓子の箱のなかにぎゅうぎゅうに詰めこんだ甘い匂いのついた札束が、わたしとバンさんをとてもわかりやすく簡単に繋いでくれる。
嫌なことがあった日、幸福を感じたい日、救って欲しいとき、自分で自分を貶めることしかできなくなったとき、わたしは誕生日もイベントも月末も関係なく大金を出す。それはわたしの形を見失わないための、この世に残るための引換券で、バンさんがわたしだけを見てくれる一瞬や一晩の幸福への乗車券だ。
「今日、もうちょっと一緒にいたいな。
……
いてくれる?」
閉店までまだ時間はある。被りの女がわたしより多くのチケットを支払ったらこの約束ともいえない言葉の効力はいとも容易く失われるだろう。それがわかっていてもわたしはもちろんだよ、と目を逸らすことなく、ふたりきりに戻ったふかふかのソファーの上で頷いた。
「まだ出せるよ。だから、絶対いる」
透明に光り輝くその靴をわたしは、バンさんといるときだけは幻視できる。
ホストに貢ぐよりもっと良い使い道があるとか、バカじゃないのと言う人の言葉や価値観を、否定するつもりはない。
でも、みんな使い道は同じでしょ。美味しい食事だって、可愛いお洋服だって、好きな映画や音楽だって、学費だってそうだ。みんな、自分を幸せにするために、はりぼてであっても自分だけは本物だと信じられるガラスの靴を買っているだけ。
強気な発言に、バンさんが嬉しそうに笑う。わたしはこの人とこれから過ごす時間を考えて、夢のような心地になる。ほら、これで幸せは完成してる。わたしの受けた痛みや苦しみがたった一人の手で幸福に変換される、この祝福を、誰にも否定はさせない。
あなたのためなら自分も他人も全員殺せる。死にたいって思う日もあるけれど、死ぬより殺したほうが早いってこと、自分にもあなたにも、わたしは証明し続けてみせる。
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