2024-12-22 18:15:05
2202文字
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スーパーポジション

万理さん夢/義妹設定

「げ。なんでいんの」
「久しぶりに愛しの妹が会いに来てあげたのに、その反応はひどくない?」
 マンションの前に座り込んでいる私を見つけた瞬間の、面倒臭さを隠そうともしない義理の兄の顔ったらなかった。
 こんな態度をとられても尚強引に立ち向かえるのは血の繋がりこそなくとも妹という立場を持っているからこそだ。だから私は義兄が彼女や友人には見せないだろう顔を見せてくれればくれるほど嬉しくなって、それとは正反対の満面の笑みを浮かべてしまう。
「お義父さん、たまには顔見せろって怒ってたよ。あれだけ心配かけておいてまだ芸能に関わる仕事してるのかって超キレてた」
「ああそう。忙しいからあんまり帰れないけどたまには連絡するよって言っといて」
「私を介さないで話しなよ。あ、お酒適当に買ったんだけどどれがいい? 好きなの選んでいいよ。おつまみ忘れちゃったからなんか作ってほしいなあ」
「うわ、学生みたいなラインナップ……。お前、そんな飲まないくせになんでこういうバカな酒ばっかり買うの? そもそもなんで家上がる前提なの」
「帰ってくるまで待ってたのに追い返すの!? 今すぐメンヘラ彼女の真似して兄さんの足にしがみついて泣いてもいいんだよ?」
「やめろ、近所迷惑過ぎる」
 コンビニの袋に詰められた缶チューハイを取り出しながら開けられたドアをくぐる。
 相変わらずほどほどのお手本のような部屋だ。何度か来たことはあるけれど、然程何かが変わった様子はない。
「もっと明らかに女ものの私物とか置いてあるかと思ったのに、つまんない」
「彼女いないからな」
「彼女じゃない女を連れ込んだりはしてるでしょ」
「お前本当に俺をなんだと……
 悪態はついても否定はしないのか、と内心頷く。
 相手に困るような人でないのはわかっていたけれど、私の知らない生活があると思うと苦しさはある。彼女と思われる相手が度々変わっているらしいことはなんとなく知っていて、でもだからこそ、この家族という立場の揺るぎなさに浮かれたりもする。
 恋人はあくまで個人の繋がりで手軽な終わりがあるけれど、家族は謂わばチームプレイだ。もちろん両親が離婚してしまう可能性はあるものの、恋人と別れるよりは余程面倒で複雑だろう。それに血の繋がりはないとはいえ、一度同じ戸籍に入った相手となればその後も明確に関係を断つことは難しい……はず。多分。
 だから私は義兄の彼女やよくわからないセフレみたいな女より、ずっと近い距離にいる。こんなにも特別なポジションはない。血縁はなくとも妹だからというだけで連絡もなく会いに来れるし、どれだけ拒絶されても家に上がることができる、最高の特別枠。
「つまみになるものあったかな……なんでもいいの?」
「なんでもいい。カロリー低いやつなら」
「なんでもよくないじゃん。汁ものくらいなら作れるけど」
「それが欲しくなるのは飲んだあとだなあ。でもあったら嬉しいのは間違いないっ」
 冷蔵庫の中身を眺める義兄の背中に抱き着くと、煩わしそうに剥がされる。
 扱いが雑すぎる。でも、初めて顔を合わせたときの優等生な対応をされるよりずっと良い。
「私のために毎日お味噌汁作って」
「最近のインスタント味噌汁美味いぞ。帰りに買っていったら?」
「けち。エプロン姿、お母さんに写真送っていい? 私が会ってるってわかればちょっとは安心するだろうし、お義父さんのことも宥めてくれると思うよ」
「ああ……まあ、いいよ」
 よっしゃ、と心のなかでガッツポーズをして調子に乗って連写する。フォルダが潤った。
 好き勝手に生きている義兄より、私のほうが両親の信頼が厚い。家にいるときは面倒でしかなかったが、こうしてそれを盾に義兄に強く出られるのは嬉しい誤算だ。言われた通り学業に励み、おとなしく良い子にしていた甲斐があったというもの。
「あ、ねえ、電話鳴ってるよ」
「え? 誰から?」
「まりちゃん」
「あー……そのままでいいよ。今度かけ直す」
「彼女いるんじゃん」
……まだ付き合ってないから」
 私が来てなかったらイチャイチャ通話していたか、なんなら今から会っていたかと思うと優越感に溺れそうだった。彼女のふりをして電話を取ることも、ブロックして連絡先を消してやることもできるけれど、わざわざそんなことをする必要性すらなく今この場において私は選ばれている。放置されたまま鳴り続ける通信音は私の優位性の証明だ。
 甘ったるいアルコールを喉に流し込みながら、画面から名前が消えていくのを眺めていた。そうしている間に義兄が温かいお味噌汁とスティック状にした野菜を持ってきてくれて、ちゃんと私のリクエストを聞いてくれていたことにまた嬉しくなってしまう。
 あとはどうやったら私に手を出してくれるかの一点なんだけど、と野菜に味噌をつけてポリポリと齧る。果たしてセックスはできても電話に出てもらえない女と、手料理を振る舞ってはもらえてもまだ本番まで至れずにいる私とではどちらのほうが優勢なのだろうか?
「義兄さんにも食べさせてあげる。はい、あーん」
「ん」
 とりあえず今日はお風呂を借りたらノーブラでベッドに潜り込もう、と決意する。気の抜けた顔でお酒を選ぶ義兄の口に野菜スティックを放り込むことができる、その権利があるだけでそこそこ満足はしているけれど。