流れザメ
2024-12-22 12:47:43
2516文字
Public ビマヨダ
 

君に恋したあの日から

タイトルは診断メーカーから。
片想いビマヨダ二本です。

傷付けるのに手加減はいらない

ビマ→ヨダ

振りかぶった拳が男の頬を打つ。
骨と骨がぶつかり合う鈍い痛みを感じた瞬間、ほぼ同じタイミングで自分の左頬にも強い衝撃が走った。
凄まじい勢いに頭ごと脳が揺れる。
フラつく足になんとか力を込めてその場に踏み留まり、俺は目の前の男、ドゥリーヨダナを睨み付けた。
切れた口元を手の甲で拭っていたドゥリーヨダナは、俺の視線に気付いて紅紫の瞳を三日月状に細める。左右に引っ張られた薄い唇に新たな血が滲んだ。
「どうした、まさか一発殴っただけで終わりとは言わんだろう?」
「うるせぇ」
ヤツの見え透いた挑発を受け流して、震える指を握り締める。
耳の奥で聞こえる鼓動の音が嫌に大きい。心臓から血の気が引いていくような感覚と共に、胸騒ぎにも似た痛みがずっと続いている。
ドゥリーヨダナとこうして相対した時から、かつての恐怖が胸に巣くって離れない。
ここカルデアでは生前のように殺し合わなくて済むようにと、気をつかって距離を取っていたのに、とうの本人がその努力を見事に台無しにしてくれた。
堪らず零れ出たため息の分、大きく息を吸う。
「念のために聞いておく。俺がお前に勝ったら、さっきの話を信じてくれるんだな?」
「一度殴り合っただけで、もう勝ったきでいるのか」
「話を逸らすな。どうなんだ?」
……あぁ、信じてやるとも。お前がわし様に情を抱いてるという馬鹿馬鹿しい戯言をな」
ドゥリーヨダナの顔が苛立ちに歪む。
言質は取った。これでもう言い逃れはさせない。
今度こそ傷付け合うことなく共に在る。その望みは潰えてしまったが、それがコイツと新たな関係に至る為に必要な事だと言うのならば仕方が無い。
俺は腹をくくり、拳に力を込めた。
ドゥリーヨダナを完膚なきまでに叩きのめす為に。

あの人のように素直に愛せたら

ビマ←ヨダ

晴れの日に吹く風のような男だった。
いつも真っ直ぐに物事を見据えて、水晶のように透き通った瞳は何があろうと曇る事は無い。いつだって自信に溢れていて、やること成すこと全てが絵に描いた英雄そのもののような男。
そんなアイツの目には、わし様はさぞや矮小な存在に見えていることだろう。

「テメェ、どういう風の吹き回しだ」
「なんだ、ここの厨房の者は客を選ぶのか?マスターは、カルデアのサーヴァントはみな食堂を利用していいのだと言っていた気がするのだがなぁ?」
「チッ、さっさと注文を言え」
隠すことなく浮かべられた嫌悪の表情に、胸の奥が小さく痛む。だが、この反応は想定内だ。歓迎されるなどとは初めから思っていない。
カウンターに掲げられたメニュー表を眺める。
確かビーマが担当している料理は、スパイスを使うものが主だったはずだ。
「そうさな、ではBランチのカレーセットを──」
「無ぇよ。売り切れだ」
「はぁ!?」
注文途中に食い気味に断られ、思わず腹の底から声を出してしまった。
「なんっ、どういう事だ!」
「どうもこうも無ぇよ。売り切れたって言ってんだろ。他のを選べ。後がつかえてんだから早くしろ」
「~~ッ、ふ、ふんっ、まぁ、キサマが調理したものなど別に食べたくもないしな!ではCランチにしよう」
適当に目に付いたメニューを頼めば、ビーマが小さくため息を吐いて奥の厨房へと注文を伝える。
本来の目的とは違う料理を受け取り肩を落としていると、中央のテーブルでマシュや他のサーヴァント達と昼食を取っているマスターに声をかけられた。
「ドゥリーヨダナが食堂に居るなんて珍しいね。こっちで一緒に食べよ!」
幼子のように大きく手を振って招かれては無下にも出来ず、渋々同じテーブルに着く。
「あんなに食堂を利用するの渋ってたのに、急にどうしたの?」
「なに、ちょっとしたきまぐれだ」
「ふーん、そっかぁ」
ビーマの料理を食べにきたなど言える訳もない。
お人好しのマスターはわし様の言葉を素直に信じたらしく、それ以上の詮索はしてこなかった。
マスターがマシュとの会話を再開した横で、自分のトレイに載せられた料理を見下ろしてため息を吐く。
食べたかったものでは無いが、頼んだ以上は食べるしかない。
黙々と料理を口に運んでいると、微かな空気の流れと共に香辛料の香りが鼻先を掠めた。
「マスター、デザートはいらねぇか?」
「ビーマ!それ貰って良いの!?」
「あぁ、今度メニューに追加しようと思ってるやつの試作品なんだ。良かったら感想を聞かせてくれ」
そう言ってビーマがテーブルに置いたトレイには、小さな容器に入った色とりどりのゼリーが並べられていた。
赤、オレンジ、緑、黄色。全て透き通った色味をしている。
その鮮やかさに見蕩れていると、不意に視界の端から白い袖に包まれた腕がトレイとの間を遮るように伸びてきた。
顔を上げると、ビーマが白い歯を見せてニヤリと笑う。
「俺が作ったものは食いたくないんだろ?」
ふつりと、自分の中で何かが切れる音がした。
皿に残っていた最後の一口を飲み込み、軽くなったトレイを持って席を立つ。
「マスター、ではな」
「え?あ、うん。じゃあね」
戸惑った様子で手を振るマスターに背を向け、食器の返却カウンターへと向かう。
トレイを受け取ったタマモキャットに美味かったと一言告げ、食堂を後にした。
ただひたすら、目的地も無く廊下を歩く。無心で身体を動かしていなければ、その場で怒りのままに声を荒げてしまいそうだった。
自分達の間にある因縁を思えば、ビーマのあの態度は至極妥当なものだ。
そう頭では理解している筈なのに、心のどこかで悲しんでいる自分がいる。
もし注文する時にもっと素直になれていたら、マスター達と共にビーマが作ったあのゼリーを食べる事が出来たのかもしれないと、そんな事とを思ってしまう自分が許せなかった。
カウンターで見たビーマの顰めっ面が脳裏を過る。
瞬間、また胸の奥がチクリと痛んだ。
服の上から押さえてみるが、当然そんなことでは治まりはしない。
「邪魔だな……
そうひとりごちた言葉は、遠く廊下を反響して聞こえてくる楽しげな声に掻き消されてしまった。