ぐるさん
2024-12-22 07:20:49
3361文字
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12.21 ふみりかワンドロ 逆視点

12.21 ふみりかワンドロの逆視点です

 十二月二十四日、所謂クリスマスイブの夜。我らがカリスマハウスのリビングではクリスマスパーティーが開催されている。……が、その中に俺、伊藤ふみやは居ない。正確に言えば"まだ"居ない。では何故、まだ居ないのか。

 理由は簡単。遠方に何泊か重ねてクリスマス限定スイーツ食い尽くし行脚の帰り、交通機関のトラブルにより帰宅が遅れているからだ。

 本当は原付で向かうはずだった所、以前俺が虎さんを原付で轢いたという冤罪がまだ晴れていないせいで、理解を中心に電車やバスで向かうよう押し切られてしまった。

 ただ、本来なら昼には家に着く予定の所がこんなに遅れるなんて予想外で、そのうえやっとたどり着いた最寄り駅では、バスとタクシーに長蛇の列が出来ていた。

「マジかよ……

 どっちの列に並んだ方が早く乗れるか一瞬考えたが、多分大差はないだろう。一応『クリスマスパーティーまだやってる?』『まだ終わってない?ケーキ残ってる?』と理解にメッセージを送ると、まだ宴は続いてるようで安堵する。 
 
 でも長くは無い。というか時間がかかればおそらく理解は寝る。だけどやっぱり久しぶりの我が家で、せっかくなら可愛い恋人にちゃんと「ただいま」くらいは言いたい。なら俺が今やるべきことは。

……走るか」

 十二月の寒空の下、家の方向に向かって駆け出した。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 走り出して早速後悔が頭を過ぎる。これやっぱバスかタクシー待った方が早くね?ていうか空気冷たすぎて肺が痛い。でも今から駅に引き返すのもタクシー呼ぶのも大幅なタイムロスなのでやっぱり走るしかない。何とか足を動かしていると、不意にスマホが鳴り始める。

「こんな時に電話……相手は……テラだ」

 もしかしてクリスマスパーティーはもう終わってしまったのだろうか?それとも、シンプルにハウスで何か問題が……?走りながら電話に出ると、意外な声が聞こえた。

「ふみやさん!?」
「えっ、理解?テラじゃない……?もしかしてこれテレビ通話?」

 理解の大きな声が聞こえて慌てて画面を見ると、顔を赤くした理解が映る。そしてその周りには皆が集まり酒が入っているっぽいグラスが映り込む。どうやら珍しく酔った理解を皆で見守っているらしい事が見て取れた。

 しかしその最中、前方から自転車の灯りが見えて慌てて視線をスマホから進行方向に戻す。しばらく画面から目を離した隙に、理解がぽそぽそと話し始める。

「ふ、ふみやさん。今どこに居ますか……?」
「理解?」
「理解は、理解はふみやさんに会いたいです……っ!」
「えっ」
「いつ戻りますか?今どこに居ますか?理解はこんなに待ってるのに、ふみやさん、全然帰ってこないしから……

 慌てて画面に視線を戻すと、理解はその瞳に涙を溜めながら俯いている。

「せっかくのクリスマスなのに、プレゼントも買ったのに、ふみやさんのお願い通り明日の夜までの予定もちゃんと空けたのに……
「まっ、待って理解!もうすぐ、もうすぐ着くから!」

 酔って思考能力が低下しているのか、俺達だけの約束を口走りながら今にも泣き出しそうな理解を宥めようとするが、今度は前方から車の灯りが見えて慌てて避ける。

「それなのに、ふみやさん帰ってこないし……全然こっち見てくれないし……

 スピーカーから心細そうな理解の声と、周囲に集まる皆のそうだそうだと野次が聞こえてくる。

 でも違うんだって。普通に走りながらテレビ通話はハードルたかすぎるんだって。上手く噛み合わない会話に、思わず語気に苛立ちが滲む。

「あぁもう話聞けって!もうちょっとだから泣くなって!」
「でも……うぅ、うわぁぁん」

 これはまずい。本格的に泣かせてしまった……!べそべそと泣き始める理解を見て、画面越しでも徐々に皆の視線が冷たくなっていくのが分かる。

「あ、やば、待って待って理解そういうつもりじゃないんだって本当あとちょっとだからマジで待って泣かないで本当マジで」

 あとちょっとっていつだ!やはりぶち殺すべきでは?段々とオーディエンスもヒートアップしていくが、必死に走ったおかげで家ももうすぐ目の前にある。己が今にもぶん殴られそうな気配を画面越しに感じながら、リビングのドアをガチャリと開く。

「はぁっ、はぁっ、た、ただいま……
「ふみやさん!?」

 そこそこの距離を全力で走り切った疲労から思わずその場で膝から崩れ落ちると、理解が椅子から転げ落ちるように駆け寄ってきた。近づく理解はよく見ると、目は潤んでるし全身火照ってるしで正直めちゃくちゃエロい。

「ど、どうしたんですかふみやさん!」
「な、何とか電車動いて、駅出たけど、タクシーもバスもめっちゃ混んでて乗れなくて、全力で走ってきた……
「えぇ!?」

 息も絶え絶えになりながら何とか事の顛末を説明すると、理解は目を見開いて驚いている。

「めっちゃ頑張って走ってたらテラから電話きて、出たら理解の声聞こえるしテレビ通話だし、でも前見て走ってるからあんま画面見れなくて、そしたらお前泣くから……
「え、え、え」

 責めたつもりは一切無かったけど、理解が赤かった顔をみるみる内に青くするのを見て、また自分が傷つけてしまったことに今更気づく。

 ごめんな理解。せっかくのクリスマスなのに、泣かせちゃって。せめての埋め合わせに、呼吸を整えて理解の身体を引き寄せる。

「でも、ドア開けたら一直線にお前が来てくれて、嬉しかった」

 倒れ込んだ身体を支えるために床に付けていた手を理解の腰に回し、グッと近くに引き寄せる。

「わっ」
「ただいま、理解」

 そのまま軽く音を立てながら額に口付けを落とされると、理解の血の気が引いて冷えた身体が、じんわりと温まり始める。

「おかえりなさい、ふみやさん。……その、それから、我儘を言って困らせてしまって、すみません……
「ん、大丈夫。そもそも帰りが遅くなった俺のせいだし」

 改めてぎゅっと抱きしめてまた軽く口付けを、今度は頬に落とす。本当は口にしてやりたいけど、唇へのキスは急にやると怒られる可能性があるから一旦我慢。でも、その代わり、理解の方から肩口に顔を擦り寄せてくれて、めちゃくちゃ可愛いからラッキーだ。

「良かったねぇ、理解くん……!」 

 しばらく久しぶりの理解の体温を堪能していると、後ろでテラが鼻をすすりながら安堵する声が聞こえる。そしてその声を皮切りに、一歩後ろで俺達のやり取りを見守っていた皆が次々と言葉を投げかける。

 そういやここ、皆が居るリビングだった。改めて自覚するとちょっと恥ずい。ひとまずは離れて、皆に声掛けたら二人で俺の部屋に行こうかな。

……!」

 軽く今後のプランをまとめていると、不意に理解の頭がふらついた。

「理解、大丈夫?」
「え、えぇ……

 何とか返事はしたものの、先程まで真っ青だった理解の顔がまた赤くなっている。大方皆に見られていることに気がついて恥ずかしくなってしまったのだろう。

「依央利、水。ペットボトルに入ったやつ。あといくつか残ったケーキ皿に盛って」
「ふみやさん……?」
「理解、立てる?とりあえず部屋で休もう。顔めっちゃ真っ赤だからさ」
「すみません……

 理解に肩を借しながら立ち上がると、空いている方の腕でケーキが盛られた皿を持って、脇にペットボトルを抱える。

「それじゃ俺たちは一旦部屋に行くけど、パーティーは続けてて。明日は絶対参加するから」

 パーティーを続けるって徹夜ってこと!?というか明日も確定なんですね……幸せなお二人、エクスタシーー!!

 リビングを後にし扉の向こうから聞こえる声に背を向け、理解と一緒に二階に続く階段を登る。

「あれ……?理解の部屋は……?」
「あぁ、パーティーやってるすぐ隣の部屋じゃ落ち着かないかと思って俺の部屋に向かってるんだけど、嫌だった?」
「いえ、嫌という訳では……
「それじゃ、行こうか」

 クリスマスの夜は、まだまだ続く。