ぐるさん
2024-12-21 23:26:13
4621文字
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12.21 ふみりかワンドロ 【クリスマス】【遠距離】

ふみりかワンドロライ(@ fmrk_1draw)さんの2024.12.21お題をお借りしました。

 十二月二十四日、所謂クリスマスイブの夜。我らがカリスマハウスのリビングではクリスマスパーティーが開催されていた。

ある者は脱ぎ散らかし、ある者は己に酔いしれ、ある者は目の下に濃いクマがある状態で奉仕に走る……挙げていけばキリのない秩序の乱れの中、私はどうしても、この中で足りない色に思いを馳せてしまい、笛を手でいじるだけになってしまっていた。

そう、ここには、あの目の覚めるような鮮烈なオレンジ色が、居ないのだ。では何故あのオレンジ色——ハウスの中心人物にして、私の恋人である伊藤ふみやさんはここには居ないのか。

 理由は簡単。遠方に何泊か重ねてクリスマス限定スイーツ食い尽くし行脚の帰り、交通機関のトラブルにより帰宅が遅れているのだ。虎さんを原付で轢いた一件から、電車やバスで向かうよう勧めた事が仇になってしまった。

 これにはふみやさんも予想外だったようで、送られたメッセージには『クリスマスパーティーまだやってる?』『まだ終わってない?ケーキはまだある?』など、焦りの見える文面が綴られている。

「はぁ……
「りーかーいーくん?」
「わぁっ!?依央利さん!」

 スマホの画面を眺めていると、後ろから急に依央利さんに話しかけられ慌てて振り返る。

「飲み物足りてる?お腹空いてない?何かリクエストがあれば今から作るよ!」
「いやいいですよ……というか休んで下さい!目の下真っ黒!」

 それでも奉仕と叫び続ける依央利さんを宥めていると、今度は横から思い切り肩を抱かれる。

「りかい〜、飲んでる〜?」
「うわテラさん!っていうかお酒くさい!飲みすぎですよ!」
「大丈夫だって!りかいくんも飲もうよ〜」
 二人に挟まれ何時ぞやの夜のように詰められてしまう。
「ちょっ、待っ、離して下さい!グラスを口元に近づけない!おつまみもいりません!」
「まぁまぁ、良いじゃありませんか」
「天彦さん!」

 両腕を掴まれバタバタとしていると、今度は天彦さんが近づいてきた。

「良くないですよ!天彦さんも止めて下さい!」
「でもね、理解さん。白湯を飲みながらずっとスマホの画面を眺めているのは、少々セクシーに欠けますね」
「うっ……それは……

 ふみやさんから送られたメッセージを表示させた画面を指さされると、言葉に詰まってしまう。

「それよりかは、お酒やおつまみを嗜みながら、ここに居る私達と楽しい時間を過ごしながら待つ、というのも良いと思うんです」
「天彦さん……
「つーかよ、ふみやの奴どこほっつき歩いんだよ。クリスマスパーティーするっつったのアイツだろ」
「やはり一度ぶち殺しておくべきでは?」
「殺しちゃ駄目ですって大瀬さん!でも、こんな時に大事な人が傍に居ないのは寂しいですよね……うぅっ、先生……
「猿、大瀬くん、虎さん……

 いつの間にか皆が私の周りに集まり、思い思いに言葉をかけてくれる。

「という訳で、理解くんグラス持って!」
「依央利さん?テラさん?」
「「改めてかんぱーい!」」
「「「かんぱーい!」」」
「か、かんぱい……

 皆の温かい視線に包まれながら、恐る恐る渡されたグラスに口を付ける。

「美味しい……

「理解くんからの『美味しい』頂きましたー!奴隷感激!まだまだ作るからじゃんじゃん言ってね!じゃんじゃん!」


 
 あれからどれだけの時間が経ったのだろう。時計を見ようとするが、ふわふわと上手く力の入らない体では、顔を上げるのも億劫だ。

「理解くーん、大丈夫?起きてる?お水飲める?」
「依央利さん……

 依央利さんが水の入ったコップを持ってきてくれたが、受け取る気力もなく、ぼんやりとコップに映る自分の顔を眺めるのが精一杯だ。

「何へばってんだよ理解!夜はこれからだろ!」
「まぁまぁ、猿川くん。人にはそれぞれペースというものがありますから」

 バシバシと私の背中を叩く猿を天彦さんが宥める。本来なら自分で猿に注意をしなければならない所なのに、どうにも頭が回らない。

「それにしてもふみやさん、遅いですね……
「ですね……もう二十三時を回っていますし、もうそろそろ着いてもおかしくない気がするんですけど……

 頭はずっとふわふわしているのに、大瀬くんと虎さんが零した発言はやけによく聞こえた。

 ふみやさん、遅い、二十三時、もう着いてもおかしくないのに……お酒と楽しい雰囲気で蓋をしていた寂しさが徐々に思考を侵食していく。

 ふみやさんはいつ帰ってくるんだろう。もう遅い時間なのに。連絡は最初に来たきり。会いたい。ふみやさんに、会いたい。

「えっ、ちょっ、理解くん泣いてる!?」
「えっ……?」

 気づけば思いは涙となって瞳から溢れてしまっていた。

「大丈夫ですか理解さん!?」
「僕タオル持ってきます!」

 泣き止もうとしても、自覚してしまった寂しさに皆の優しい言葉が染みて、止まらない。

「うぅっ、ぐすっ、ず、ずみません……皆さん……
「大丈夫ですよ、理解さん。僕達がついています」
「そんなに泣いたら目ぇ溶けちまうだろ」
「うっ、うう……

 べそべそとみっともなく泣いていると、目の前にスマートフォンが差し出される。

……?」

 よく見ると、テラさんが自分のスマートフォンを私の目の前に置いていた。

「何かよく分かんないけどさ、泣いちゃう位会いたいならさ、一旦会っちゃえば良くない?……電話越しだけど」
「え……?」

 トントンと画面を指差すテラさんに促されて画面を覗き込むと、そこにはふみやさんの横顔が映っていた。

「ふみやさん!?」

 驚いて大声を出すと、画面の中のふみやさんはこちらを見て驚いていた。

「えっ、理解?テラじゃない……?もしかしてこれテレビ通話?」

 独り言のように呟くふみやさんは、また横を向いてしまう。

「ふ、ふみやさん。今どこに居ますか……?」
「理解?」
「理解は、理解はふみやさんに会いたいです……っ!」
「えっ」
「いつ戻りますか?今どこに居ますか?理解はこんなに待ってるのに、ふみやさん、全然帰ってこないしから……

 あぁ、言ってしまった。頭の片隅に残っていたどこか冷静な部分が、己の痴態を嘆いている。でも、もう止まれなかった。ずっと溜め込んでいた思いは、堰を切ったように溢れ出す。

「せっかくのクリスマスなのに、プレゼントも買ったのに、ふみやさんのお願い通り明日の夜までの予定もちゃんと空けたのに……
「まっ、待って理解!もうすぐ、もうすぐ着くから!」
「それなのに、ふみやさん帰ってこないし……全然こっち見てくれないし……

 周囲からそうだそうだと賛同する声が聞こえる。

「あぁもう話聞けって!もうちょっとだから泣くなって!」
「でも……うぅ、うわぁぁん」

 我ながらひどい我儘を言っているとは思う。でも、テレビ通話をしても視線は合わず、強い口調で窘めるふみやさんの態度に涙が止まらない。

「あ、やば、待って待って理解そういうつもりじゃないんだって本当あとちょっとだからマジで待って泣かないで本当マジで」

 あとちょっとっていつだ!やはりぶち殺すべきでは?段々とオーディエンスもヒートアップし、今にも画面越しに喧嘩が始まりそうな空気の中、不意にリビングのドアがガチャリと開く。

「はぁっ、はぁっ、た、ただいま……
「ふみやさん!?」

 その場で膝から崩れ落ちるふみやさんに、椅子から転げ落ちるように駆け寄ると、真冬だというのに額からは汗が流れ落ち、真っ赤な顔でゼェゼェと肩で息をしている。

「ど、どうしたんですかふみやさん!」
「な、何とか電車動いて、駅出たけど、タクシーもバスもめっちゃ混んでて乗れなくて、全力で走ってきた……
「えぇ!?」

 カリスマハウスは立地上、所謂街の中心部から離れた場所に建っている。一応駅などから歩けない距離ではないが、近いかと聞かれると若干微妙なラインではある。

「めっちゃ頑張って走ってたらテラから電話きて、出たら理解の声聞こえるしテレビ通話だし、でも前見て走ってるからあんま画面見れなくて、そしたらお前泣くから……
「え、え、え」

 ふみやさんの言葉と今までの自分の発言を思い返して一気に血の気が引いて酔いが冷める。私は、私がふみやさんに会いたいばかりに、早く家に着くよう頑張るふみやさんにずっと幼稚な我儘をぶつけていたのだ……

「でも、ドア開けたら一直線にお前が来てくれて、嬉しかった」

 倒れ込んだ身体を支えるために床に付けていたふみやさんの手が、いつの間にか私の腰に回り、グッと近くに引き寄せられる。

「わっ」
「ただいま、理解」

 そのまま軽く音を立てながら額に口付けを落とされると、血の気が引いて冷えた身体が、またじんわりと温まる。

「おかえりなさい、ふみやさん。……その、それから、我儘を言って困らせてしまって、すみません……
「ん、大丈夫。そもそも帰りが遅くなった俺のせいだし」

 ぎゅっと抱きしめられて、また軽く口付けを、今度は頬に落とされる。近づく顔の、その目尻は、目の前にある物が愛おしくて堪らないと言わんばかりに下がっていて、気恥しさに肩口に顔を埋めると、慣れたふみやさんの匂いが広がった。

「良かったねぇ、理解くん……!」

 ふみやさんに抱きついていると、後ろでテラさんが鼻をすすりながら安堵する声が聞こえる。そしてその声を皮切りに、一歩後ろで我々のやり取りを見守っていた皆さんが次々と言葉を投げかける。

 その言葉は確かに我々を気遣うものではあったが、同時に今までやり取りを見られていた事実と、そもそもふみやさんに我儘をぶつけていた辺りから全員の目の前で醜態を晒していた事実に改めて羞恥で顔が熱くなる。

……!」

 短時間で血の気が引いたりまた戻ったりしたせいか、それとも先程まで全身に回っていた酔いのせいか、不意に視界がくらりと回る。

「理解、大丈夫?」
「え、えぇ……

 何とか返事はしたものの、ふみやさんにはお見通しだったのだろう。

「依央利、水。ペットボトルに入ったやつ。あといくつか残ったケーキ皿に盛って」
「ふみやさん……?」
「理解、立てる?とりあえず部屋で休もう。顔めっちゃ真っ赤だからさ」
「すみません……

 ふみやさんの肩を借りながら立ち上がると、ふみやさんは器用に空いている方の腕でケーキが盛られた皿を持って、脇にペットボトルを抱える。

「それじゃ俺たちは一旦部屋に行くけど、パーティーは続けてて。明日は絶対参加するから」

 パーティーを続けるって徹夜ってこと!?というか明日も確定なんですね……幸せなお二人、エクスタシーー!!

 リビングを後にし扉の向こうから聞こえる声に背を向け、ふみやさんに促されながら二階に続く階段を登る。

「あれ……?理解の部屋は……?」
「あぁ、パーティーやってるすぐ隣の部屋じゃ落ち着かないかと思って俺の部屋に向かってるんだけど、嫌だった?」
「いえ、嫌という訳では……
「それじゃ、行こうか」

 クリスマスの夜は、まだまだ続く。